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「すみません」の文化

盗人猛々しいにもほどがある

 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴され、保釈中の身でありながら国外逃亡した日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告が、個人の資産と名誉を深く傷つけられたとして、日産と同社の関係者らを相手取り、10億ドル(約1420億円)の損害賠償を求める訴訟を逃亡先のレバノンの裁判所に起こした。
 これはおそらく、既に日産側が彼に対して100億円の損害賠償を求める訴えを起こしていることに対する倍返し(正確には10倍返しであるが)のつもりなのだろう。

 この方は、経営危機に陥っていた日産を救った手腕を評価されて、一時期マスコミにもよく顔を出していたので知らない人はいらないであろう。
 実際日産を経営危機から立て直しているので評価する向きもあるが、その手法は、簡単に言えば大胆なコスト削減の名のもとに行われた下請けや従業員などの情け容赦ない弱者切り捨てであった。
 つまり、欧米的な会社運営方法を日本に持ち込んだだけなのである。
 また、日産内における年功序列型の組織体制の見直し、社内での英語公用化など、日本文化も軽視し、彼自身、日本滞在中ほとんど日本語で発信することはなかった。

 彼が司直に身柄を拘束されることとなった事件は、前記の事件のほか、いずれもその立場を利用して私腹を肥やしたものばかりである。
 まだ公判中の事件であるので、ここでその容疑について白黒言うことは避けるが、これが黒(事実)であれば、その経営手腕はさておき、日産を隠れ蓑にして多額の日本人の資産を盗んだことになる。
 おまけに、日本の司法制度である保釈を悪用し、多額の保釈金を支払って身柄の拘束を解かれると、大きな楽器箱内に身を隠して国外逃亡してしまったのである。
  彼は世界中に不動産を所有する資産家でもあるので、保釈金など微々たるものだったかもしれない。
 さらに逃亡先で記者会見を開き、日本の司法制度を批判するなどした身勝手な振る舞いは、日本人なら憤怒の念を禁じえなかったと思う。
 こういう人を表す日本語に
   盗人猛々しい
というものがある。
 決して彼のことを
   盗人にも三分の理がある
などと思う日本人はいないであろう。

 私は、彼の経営手腕そのものを否定するつもりはない。
 事実彼が日産に来てから、同社の経営はV字回復とも言える奇跡的な復興を成しえたのである。
 経営学的観点からすれば、ある意味優れた実業家なのかもしれない。

 しかし、日本は法治国家である。
 日本滞在中に、日本の司直から嫌疑をかけられた案件があるのであれば、堂々と日本に滞在して、その嫌疑を晴らせばよいのである。
 彼の経営手腕とは全く別の問題である。
 保釈中の身を悪用して国外逃亡しておきながら、日本の司法制度を
   有罪率99パーセントの国では
   公平な裁判を受けられない
と批判しているが、それは日本が
   起訴便宜主義
を取っているからだ。
 起訴便宜主義とは
   犯人の境遇や犯罪の軽重、犯罪後の
   状況等により控訴を提起する権限を
   検察官が判断できること
であり、裏を返せば、検察官が被疑者の身柄を拘束して起訴する事件は、事件の重大性、証拠の有無、犯人の証拠隠滅の恐れなどを総合的に判断して有罪に持ち込めると判断したもののみを起訴するから有罪率が高いのであって、欧米の司法取引のように、金で白黒が決まるような制度ではないからである。
 つまり、この事件もかぎりなく「黒」に近いのである。
 だから彼は逃げたのだ。
 当時の森法相でさえ、彼の日本の司法制度批判に対して
   日本の法制度やその運用について
   誤った事実を殊更に喧伝するもの
   であって到底看過できない
と、憤りを露わにするコメントを発表している。

 日本では、何も司法に頼らずとも、間違ったこと、誤ったこと、他人に迷惑をかけたりしたことなどがあれば
   すみません(または「すいません」)
と謝る素晴らしい文化がある。
 ただし、この「すみません」という文化は奥が深い。
 当然日本でも「すみません」は、欧米同様「I'm  sorry」という相手に対する謝罪の意味もあるが、それだけではない。
 人に声をかける時にも「すみません」と、へりくだった意味で使うし、相手が道を譲ってくれた時などにも、欧米であれば「Thak  you」というところを「すみません」と謝礼の意味で使う。
 本来日本人は、司直の手に頼って問題を解決するよりも、「すみません」という言葉ひとつで問題を解決する知恵を持っている民族なのだ。
 ただし、それは日本国内でだけ通用することを肝に銘じておくべきだ。
 外国で交通事故を起こした時、うっかり「すみません」などと言ったら、相手に謝罪したことになり、自らの過失を認めたと捉えかねないということはよく言われている。

 カルロス・ゴーン氏も決して「すみません」という言葉は使わないだろう。
 日本に長く滞在しながら、決して日本語を使おうとしなかったことからも、「すみません」という素晴らしい文化も知らないだろう。
 なぜなら、彼ら欧米人にとって、「すみません」は自らの非を認めて謝罪する意味しかないからだ。
 だから、今回の民事訴訟提起のように、あらゆる手段を用いて自分の権利だけを声高に主張するのだ。
 欧米人にとって裁判とは、事実の有無は関係なく、あらゆる手段を使って相手に勝つための戦いなのだ。

 日本政府は、彼の滞在中の2004年に、彼に対してその経営手腕を評価して藍綬褒章を授けている。
 これは、外国人経営者に対する初めての叙勲となっているが、その後の経緯を見ればこれを取り消してもいいのではないだろうか。
 日本政府は過去にも、先の大戦で
   一夜で焼死者およそ10万人を出した
   東京大空襲という戦争犯罪を指揮し
   たカーチス・ルメイ少将(当時)
に、戦後の自衛隊育成に功労があったとして勲一等旭日大綬章を授与するなど、どうも外国人には、その本質を見極めずに勲章を大盤振る舞いするようだ。
 そしてこのふたり、写真を見るとよく似ていると思うのは私だけだろうか。

カルロス・ゴーン


カーチス・ルメイ

 いまいましい気持ちで、この記事を書いていたところ、もっとすごいニュースを目にした。
 ロシアが、9月3日を
   軍国主義日本に対する勝利と
   第二次世界大戦勝利の日
とする法案を可決したらしい。
 どうせウクライナ支援に日本が加わっていることへの腹いせだろうが、それだけ日本が欧米各国と行っている経済制裁が効いている証拠で、ある意味分かりやすい反応でもある。
 日本が1945年8月15日にポツダム宣言を受諾して終戦が確定した後に、当時日ソ間で結ばれていた不可侵条約を一方的に破って攻め入り千島列島を盗んだ国が何をか言わんやである。
 これも、千島列島は終戦していない戦時中に勝ち取った領土としたい後付けの論理であろう。
 こちらのほうが、盗人猛々しいでは格がはるかに上か。



 
 
 


 
   

 

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