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読書メモ『論理的美術鑑賞』

-人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける-

魅力的なサブタイトルに惹かれて思わず購入してしまいました。

本書の内容の概要はフレームワークを用いて美術作品を「論理的」に読み解いていく、というものです。

具体的な作品を例に実際にどのようなフレームワークを用いて考察を進めていくのかという方法論が本書には詳細に書かれているので気になった方は是非ご一読ください。


僕が本書で最も印象に残ったのは、より大枠部分の内容としての

①論理を重ねることで感性は高められる

②ビジネスにおいて美術鑑賞の必要性が高まってきている

という2点です。


①について、

僕は初めて本書の同表現を見たときに、論理は理屈的なもので感性は感覚的なものだから繋がらないのでは?と感じました。

感性とは対象について「パッとわかる感覚」のことです。美術鑑賞においては、美術作品を見た瞬間にそれが良いかどうかについて自分の軸を持ってジャッジできる感覚と言い換えられています。

僕自身昔から美術が大の苦手で、自分で絵を描くことはもちろん、美術館に行って鑑賞をすることも「自分はセンスないしなあ」と思って何となく敬遠してきた人間でした。

美術作品を見ても、何かよく分からないけどすごいなあという浅い感想を抱くことしかできませんでした。それは自分は感性が乏しいから、センスがないからだと思っていました。

もっともそれは間違いで、当たり前と言えば当たり前のことですが美術を深く理解するためには、当該作品にまつわる前提知識が不可欠であるということです。

本書で語られているロジックは、「前提知識をフレームワークを用いて整理すれば当該美術作品について深く理解することができる」というものです。

したがって僕が美術鑑賞に当たって深い理解を得ることができなかった原因は前提知識(ざっくり言えば歴史的背景)が純粋に足りなかったこと、どのような点に着目して鑑賞をするかという「型」が自分の中になかったことにあったと言えます。

では論理を重ねることが感性を高めることになるというのはどういう意味なのでしょうか?

本書の著者は感性というものは「これまでの人生で目にしたり体験したりしてきたすべての情報が蓄積されている自分データベースからできている」と表現されています。

僕はこの表現がとてもしっくりきました。この「自分データベース」というのはその人のもつ「教養の深さ」にあたるのかなと思います。過去の経験による様々な情報の蓄積が物事を多角的な視点で見ること、また認識した対象を自分の軸で瞬時に判断することを可能にしているように思います。

先ほど述べたようなロジックを積み重ねるということはすなわち、よいとされている美術作品をたくさん見て、その背景を知り、情報を蓄積していくことに他なりません。その情報の蓄積過程こそが「自分データベース」の更新、つまり感性を磨くということになります。


②について、

本書の冒頭及び末尾において繰り返し著者は、ビジネスパーソンにとって近年美術鑑賞の必要性がますます高まってきている旨主張しています。

その背景にはAIなどの技術革新によって、「世の中がますます不確実で曖昧になっていくため、知識や理論などの左脳的なアプローチの価値が相対的に低下していく」という考えがあるようです。

①でも述べたように、美術鑑賞において深い理解をしていく経験はその人の感性を磨くことに繋がります。

美術鑑賞によって身に着けた視点は、美術以外に限らず物事一般について対象を表層的のみならず多角的に捉える力になります。

これを言い換えると、どんな事象に対しても価値を見出すことができるようになる、すなわち新たな価値を創造していく起点となるということです。

本書では深い美術鑑賞を通じて5つの力が向上すると記されていますが、僕はその中でも特に「想像力」と「創造力」の2つを鍛えることに有用だなと感じました。

対象の背後にある情報を読み解く作業の中では想像力を駆使します。また想像をした結果として新たな価値を見出すことのできる力は創造力に当たると考えられます。

いずれも0→1を生み出す力に関わるもので、自分には欠けている能力だと思ったので今後美術鑑賞を通じて伸ばしていけたらいいなと思います。

今述べたものが「多角的な視点」という感性の持つ側面のうちの1つです。

もう1つ、決断をする際の判断軸になるという側面があると述べられています。

こちらも先ほど述べた通り、感性が磨かれている状態とは対象の事象について自分なりの軸をもって判断ができることを指します。

IT技術等の発達により、知識そのものの価値が薄くなってきている状況で直面する問題は不確実性の高いものが大きくなっているとするならば、求められる力は置かれた環境の中でその問題を解決する方向に自らの判断で行動していく力です。

そのような判断を下す上での方向感覚を磨くために必要なものが美術であると著者は語っています。

確かに僕のようにこれまで特に美術に触れることなく生きてきたような人にとっては美術の世界というのは自分の日常世界とは離れた「異質の世界」であるように感じます。

美術鑑賞を通じて自分の知らない世界の事象について高い精度で物事を捉えることができるということは常に新しい問題に直面し続けるビジネスの世界において非常に有用な経験であるように思いました。

僕はある弁護士の先生から、今の時代は何か知っている知識を伝えるという仕事ではなく、問題に対して一定の結論を導き出す過程としての知恵を絞る仕事にこそ付加価値が生まれるというお話を伺ったことがありました。

この「知恵を絞る」という作業においても感性を研ぎ澄ましておくことは不可欠なんだろうと考えています。



最後に先日、大阪で行われていたバンクシー展に行ってきました。

バンクシーの作品がどれも刺激的でメッセージ性の強いものばかりだからというのもあると思いますが、本書を読んでから行ったおかげか今までにないほど美術鑑賞を楽しむことができました。

音声ガイドも今までは何となく聞いていただけでしたが本書のおかげで枠組みに沿った情報を収集し作品の鑑賞に役立てることが出来た気がします。

しかしどうしても歴史、政治に関する背景知識の勉強不足を感じたため次に美術鑑賞に行く際には下調べをしっかりしていこうと思いました。

美術鑑賞に興味のある方は是非本書を一読されることをお薦めします。

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