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雲(雑記)

 雲の上に座っている。
 漂うように時間が過ぎるのを見ている。
 上着の中に、器用に入り込んでくる風の感触があたたかく、柔らかい。
 呼吸をすると、世界を巡ってきた雲の粒子の発散する、様々な街の匂いがする。
 そのどれもが澄んでいて、そのことが少し不思議だと思う。
 どの街にも少なからず埃とか汚れみたいなものがあるはずなのに、それを一切感じさせない輝きがある。
 街燈のオレンジも、水色も、白も、
 夜の紺色も、その中に溶けた緑青も。
 全てが宝石を砕いた顔料のように、顔料よりも細かく、水素原子の一粒ほどの大きさで存在する。
 雲の上はどこまでも晴れていて、たとえ今この瞬間に、足元で雨が降っていようと、ここでは別の世界のことのようだ。
 同じ世界にいる。
 地続きの空間に存在しているはずなのに、まるで別の銀河団にいる生物のように隔たれている。
 その存在はただ、この頭の中にだけあって、それだけが今は確かな輪郭線を持っている。

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