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医療現場の課題をモノづくりで解決する! 社会実装と拠点づくりへの挑戦

医療デザイン Key Person Interview:西村 佳隆

「患者や家族の考えや行動を変えたい」
「行動を変えることで、社会を変えていきたい」

日本医療デザインセンターが挑む課題の中でも、プロダクト創出という切り口に取り組むのが西村佳隆だ。

副代表理事を務める西村には、会社員時代から商品開発や事業企画のプロとして、数々のヒット作を生み出して消費者を喜ばせてきたという自負がある。

その経験を生かし、今「メディカルDX推進Lab.」のトップとして、医療現場の課題を解決するプロダクトを生み出すため奔走している。西村は、その独自の視点と経験から、医師らに厚く信頼を寄せられている。

根底にある「社会の役に立ってから死にたい」という西村の強い欲求の源泉を探る。

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 「メディカルDX推進Lab.」の使命

ーーー西村さんが担当している「ラボ」とは?

「“メディカルDX推進Lab.”のことで、医療、ヘルスケアに便利なサービス、ツールを開発していく新規事業です。僕は、医療デザインの「医療」を「ヘルスケア」とより広義に捉えています。
ヘルスケアには病気を治す、治療するという意味に加えて、健康を守る、気持ちを楽しくするなどの意味も入ると僕らは定義しています。」

「ラボ」のミッションは、医療現場で起きている様々な課題を解決できるプロダクトを生み出していくことだ。一口に「プロダクト」と言ってもモノだけでなくITツール、サービスなどを含むため、西村のような豊富な経験と知見は欠かせないのだ。

「ドクター、ナース、患者さんらがこのラボに悩みを寄せてくれて、それを解決する姿が理想像です。そこにはデザイナー、開発者、プランナーである僕たちがいて、僕らがモノづくりで解決策を提案してきたいと思います。」

ただ、医療は人の生命に関わる仕事。そんなに簡単ではない。だからこそ西村は一生をかける価値があると思っている。

2. 使った人の喜ぶ姿を見ることが無上の喜び

西村は、キャリアの中で新商品や新ビジネスの開発に一貫して携わってきた。ヤマハ発動機では大ヒットスクーターの「VINO」を手がけ、車体の設計にも関わった。その後、ワタミの新業態を企画、IT業界では、現在の”IoT”の先駆けとも言えるサービスプロデュースに関わった。

ーーー新商品開発、新ビジネス開発は西村さんの得意分野。これが活きるわけですね。

「それしかやってきませんでしたから(笑)。会社員時代、終始一貫してみんなが喜んで使ってくれることを無上の喜びとしてきました。日本医療デザインセンターでも喜ばれる製品づくりを実現し、患者さん、お客さんに喜んでもらいたいんです。」

もう一つ西村を語る上で欠かせない言葉が「リノベーション」だ。世間では、革新を意味する「イノベーション」がもてはやされるが、住宅の改修の意味で使われるリノベーションこそ西村の真骨頂。

「イノベーションほど大上段に構えなくても変革は起こせます。ちょっと捉え方や見せ方を変えるだけで物事は劇的に変わり得る。リノベーションの精神はモノづくりに重要なんです」

リノベーションを追求してきた西村は「ビジネスリノベーションの教科書」(2017年、自由国民社刊)を上梓もしている。

「今すでにある価値を組み合わせて、新しい価値を生み出す」ことを実践してきた西村の実績や考え方が存分に詰まっている。

様々な企業の新事業立ち上げと、既存事業の活性化を行ってきた西村の最大の武器が「リノベーション」なのだ。

3. 社会の役に立ってから死にたい

医療デザインを志した西村には、20年以上前に見かけた今も忘れられない言葉がある。たまたま読んだ雑誌の表紙に書かれた言葉だ。

「アメリカの原住民の顔に書かれた『今日は死ぬのに、いい日だ』という言葉。いろんな意味に受け取れますよね。突然死ぬとしても悔いがないように精一杯生きるという意味も、死と向き合うほどの強い覚悟で仕事するという意味にも。とにかく僕も、彼らのように生きたいと思ったんです。僕も社会に何か変革を起こしてから死にたいというのはずっと心に強く残っています。」

ーーーそこに医療デザインセンターの桑畑代表との出会いがあったのですね?

「そう。まだ彼も構想をノートに描いただけのころでした。説明を聞いた瞬間に『俺にもやらせてくれ』と言っていたんです。それくらい、医療、ヘルスケアの領域に変革をもたらすことは社会にも求められているし、僕が成し遂げたいことでもあります」

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4.  デザインの難しさと焦り、そして光明

しかし、現在の西村には焦りの気持ちが強いという。思うようにプロダクト開発が進んでいないという苛立ちもある。

「当初描いていた構想よりも遅いですね。医療現場のニーズをどう掴むか。多忙な医療従事者の通常業務に加えて、どうプロダクト開発に関わっていただくモチベーションをどのように持ってもらえるかかまで踏み込んでいる難しさを感じています。」

ーーーバイクや居酒屋とは違う?

「カッコいいバイクに乗りたい、安くて美味い店に行きたいというのは顕在ニーズですからね。医療、ヘルスケアの場合、潜在的なニーズのことにアプローチしていく必要があります。検査を受けるのが面倒くさい人に自ら進んで検査を受けさせるようなもの。ただし難しいからこそ、やりがいもあります。」

西村は第1号の製品化を急ぐ。ある心臓疾患では術後の体重変化の観察が、再発を防ぐ重要なファクターだということに着目した。自宅で測った体重が、病院に自動送信される仕組みを作るのだ。日本医療デザインセンターの賛助会員代表でもある廣瀬憲一医師(医療法人社団 守成会 理事長)の発案だった。

ーーー体重チェックで再発のリスクが抑えられる? 驚きですね。

「とてもシンプルな話でびっくりしました。『え、体重だけでいいのですか?』と廣瀬先生に何度も確認しました。ただシステムをどう作り上げるか、安定させるか、何よりも患者さんに使いたいと思ってもらえるかが勝負。腕の見せ所です。」

2022年春には、このプロトタイプが完成し、臨床での試用開始が見込まれている。廣瀬理事が論文にまとめ学会で発表する先には、商品化も見えてくるかもしれない。まさに待望の成功事例だ。

2023年、拠点「日本医療デザインセンター」を開設する

西村たちは2023年に「日本医療デザインセンター」という名前の拠点を作ると公言している。

「中核都市の大学病院のそばに作るんです。そこに皆が課題、悩みを持ち寄って、一緒に作戦会議をするのです。慢性疾患の人を明るい気持ちにするには? メタボの人のダイエット意欲を刺激するには?などですね。こんなセンターを、2025年には7カ所で実現します。『ラボ』としても、どんどん実装例を作っていきますよ」

今、日本医療デザインセンターには、医療をもっと患者に身近なものにしたいという志をもった医師らが次々に参画している。そして西村のようなモノづくりのプロもいる。

参画した医師らは「医療の枠組みに捉われない、信頼できる経験と多角的な視点」を求めている。まさに西村の武器だ。西村の冷静なチェックと経験は何よりも推進力になるだろう。

自らを“おやっさん”と名乗るが、少年のように真っ直ぐな西村の話を聞いて、荒唐無稽だとはまったく思わなかった。


取材後記

モノづくりの職人気質と聞くと、「自分が作りたいものを作る」という印象があるかもしれない。ただ西村の話からは、「必要なもの、喜ばれるものを作る」という視点が徹底されていることが伝わってきた。

「お客様」「患者さん」という言葉がインタビュー中にも何度も出てきた。顧客に喜ばれることが自分の喜びと語る西村にすれば、喜ばれないものは意味がないと言い換えられるのだろう。

こうした真摯な姿勢が、医療者たちの信頼もつかんでいるのではないかと感じた。(聞き手:医療デザインライター)

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西村 佳隆 プロフィール

一般社団法人 日本医療デザインセンター 副代表理事 / 体験デザイナー
株式会社ビジネスリノベーション 代表取締役。
京都市出身。横浜国立大学工学部卒。
ヤマハ発動機でバイクの商品企画を皮切りに、居酒屋、IT、玩具業界でも新商品、新ビジネスの開発に従事した。 独立後は『イノベーションよりリノベーション』をテーマに中小企業の事業立ち上げ支援を数多く手がけてきた。独立後は『イノベーションよりリノベーション』を合言葉に、多様な業界で低リスクの新事業立上げと既存事業活性化支援を行う。モノやサービス”そのものの価値”よりも”それを使っている自分”という視点の”エモーショナルな価値づくり”が得意技。著者『ビジネスリノベーションの教科書』(自由国民社刊)は、Amazon マーケティング部門1位獲得、『エッセンスの塊なのにわかりやすい』と好評。
・経済産業省認定 経営革新等支援機関
・立命館大学 デザイン科学研究センター 客員研究員


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