【書評】人間はなぜ歌うのか?を読んだよ
この本は、進化学の観点から、音楽とはなぜ生まれたのかを考える一冊となっています。
音楽というのは不思議なもので、多くの場合、人間にポジティブな影響を与えます。そして認知症になったりして脳の機能が欠損し、体の動かし方や言葉を忘れても、歌は覚えていたりします。ということは、人間にとって歩いたり言葉を話すことよりも、音楽の機能を脳は優先的に残すということなのでしょうか?
そんな風に音楽については色々と不思議なところがあります。
てなわけで本書から勉強になったとこをあげていきましょー!
- 歌うことは周囲に居場所を知らせる行為であるため、潜在的に非常に危険な行為である。だからほとんどの動物は歌わないし、歌う種は鳥やテナガザルのように木の上高くに住んでいる。地上に住みながら歌う種は、人間だけである。
- 鳥は地面に降りているときは捕食されるのを怖れて歌うのをやめる。生存のためには沈黙を守ることが重要なのだ。
- 野生の環境において大声を出すのは、大柄で強力な肉食獣である。外敵から身を守る心配をする必要がないので、大きな音でコミュニケーションをとったり、縄張りを守ったりする。
- しかし人間は非力な地上で生活する動物だ。だから人間が騒がしい歌唱行動や、歌を好む性質を持つようになったのは、人類の祖先が木の上に住んでいた頃に生まれたと考えるのが自然であろう。
- では地上に降りた人類がなおも歌い続けているのはなぜだろうか。それは生存において有利な点があったからあり、著者は、大声で歌うことが肉食獣からの防御システムとして発達したと考えている。自分の存在を隠すのではなく、大きな音を出したり、叫んだり、物を投げつけ威嚇し、他の生物を追い払ったのである。
- 人間の音楽行動と他の動物の音楽行動を比較すると、人間は極めて正確なリズム感を持っている。これは集団による発声の際に極めて有利で、リズムを合わせることでより大きな音を出すことができ、集団の連帯感を強め、集団の強さを周りに示すことができる。
- 人間は社会的な動物であり、強い集団であることが生存に有利に働いた。その状況下で音楽行動は、他者との結びつきを強め、特別に高揚した精神状態へと置くことができる。そして野生動物を追い払うために、集団で太鼓や地面を叩いて大声で騒ぎ、石を投げていた。
- そして和声で歌うこと、つまりハーモニーも生存に有利に働いた。和声で歌う方が強い響きが生まれ、実際よりも大きな集団に感じさせることができるのだ。だから和音に対して人は迫力を感じたり、心地よさを感じたりする。
- 進化の原則は「使うか、失うか」であるため、肉食獣と肉体的な戦いを音楽行動によって避けるようになった人類は、武器として使用していた歯が小さくなり、口も小さくなっていった。それにより、精緻な口の動きが可能となり、話し言葉の出現へとつながっていったのである。
- 生存のために身を潜めるという戦略をとらず、音を出して外敵を追い払うことを選んだ私たちの祖先は、静寂になると、周りに危険が迫っている状態であると脳は反応する。人は社会的な動物であり、集団で行動をする。だから、誰かがなんらかの音を鳴らしている状態は、周囲が安全であることを示す。反対に静寂なら、集団の誰かが外敵に気付き、その外敵が出す音に対して耳を傾けていることを示す。そこから、人類はハミングする習慣を身につけた。
- そのため、人間は本能的に「歌いたい」という衝動を持っている。普段は抑えているが、1人になった時や精神的に不安定な時など、人は歌わずにいられなくなるのだ。そして歌えない状況なら、人は頭の中で歌う生き物だ。
とまあ著者は人間が歌う理由を、進化の過程で生存に有利に働いたからだということを、様々な角度から論じてくれます。そして音楽から話すという行動へと繋がり、人類は非常に高い認知能力を持つようになり、社会を築いていきました。
また、音楽は人間の精神状態にも大きく影響を与えます。不安な時、勇気が必要な時、悲しみに包まれている時、他人との繋がりを感じたい時、様々な場面で音楽は力を与えてくれます。
それもそのはずで、人間は音楽により二足歩行や言語などの人たらしめる能力を身につけたのであり、人類は音楽と共に進化をしてきました。人の生活と音楽は切っても切れないものです。
音楽は何百万年もの間、人間がより安全に、他者とのつながりを保ち、より良く暮らすことを助けてきました。音楽が持つパワーを存分に借りながら、ストレスフルな世界を生き抜きましょう。
この本は音楽に対して新しい視点を与えてくれます。上記以外にも、歌唱の文化の違い、地理的な違い、質問はいつ生まれたのか、など面白いテーマを科学的根拠と共に論じている骨太な一冊。
私は音楽が鳴っていないと落ち着かない人間なので、なぜそんな気質なのかがこの本のおかげで少し理解できました。
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