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「ホッチキス」

文章を書くとき、一般には商標にあたる語を表記するのは避けるべきとされています。ある商標が普通名詞と同じ程度に一般化すると、ブランドとしての識別力が失われることで顧客吸引力を発揮できなくなり、その商標を保有する企業にとって損失となるからです。

紙を綴じる文房具は、日本では一般に「ホッチキス」や「ホチキス」と呼ばれますが、これは明治時代に日本に初めて輸入されたのがアメリカのE・H・ホッチキス(E. H. Hotchkiss)社の製品だったことに由来するものです。なお、名の由来として、アメリカの兵器開発者ベンジャミン・ホッチキス(Benjamin B. Hotchkiss)が考案したから、とされることがありますが、俗説のようです。

NHKはかつて「ホッチキス」「ホチキス」の呼称を避けてきましたが、普通名称化したことを理由に、「ホチキス」を認めるようになりました。普通名称化した商標としては、他に「エスカレーター」がありますが、これは他に適当な語句がないこと、そして開発元のオーチス・エレベーター社も商標権を放棄していることが関係しています。「ホッチキス」「ホチキス」という言葉は、日本では知られていても、日本以外では全く通じません。また、ホッチキス社が綴じ具の開発元というわけでもなく、同社の製品が支配的というわけでもないので、普通名称化したと見なすことには議論の余地があるでしょう。普通名詞としては、やはり「ステープラー」が適切ではないでしょうか。

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