「ねた」? 「ねった」?
これら2つの動詞は、まず活用の種類が異なります。口語文法に則ると、「練る」はラ行五段活用、「寝る」はナ行下一段活用です。
動詞の活用は、終止形だけをみてもわかりません。判別する方法としては、打消の助動詞「ない」を付けてみることです。ここから未然形の活用形がわかり、連用形以下の形も続けて導き出すことができます。
「練る」の打消は「練らない」ですから
「寝る」の打消は「寝ない」ですから
とそれぞれ変化することがわかります。
過去や完了の助動詞「た」は連用形に続きますから、それぞれ「練りた」「寝た」。「練りた」は音便変化で「練った」となるわけです。
ここまでは文法の説明ですが、質問された方が知りたいのは、そもそも肝心の活用種類がなぜ違ってくるのか、という点だと思います。上の説明では「ない」をつけることで未然形を判断しました。未然形を考えるのは、変化しない部分である語幹を特定するためですが、「練る」と「寝る」とでは語幹が違うことに気づかれたでしょうか。
より詳細に分析できるよう、ローマ字で考えてみましょう(スラッシュ(/)で囲み、音素表記と呼ばれます)。終止形、未然形+打消「ない」の2つを例に挙げます。
終止形の/-u/と打消の/-nai/は共通しています。仮名で考えると同じ[ネル]と聞こえる動詞でも、分解してみると新たに追加されている音があることがわかります。
「練る」は語幹/ner-/に終止形/-u/が付いた形。「練らない」は語幹/ner-/に語尾/-nai/が付いた形。ここで、子音の連続を解消するために、間に/a/が挿入されています。
「寝る」は語幹/ne-/に終止形/-u/が付いた形。こちらでは、母音の連続を解消するために、間に/r/が挿入されています。「寝ない」は語幹/ne-/に語尾/-nai/が付いた形です。
音が挿入される現象は日本語だけではなく、英語でもdrawingが[drɔ:rɪŋ]と発音される例などがあります。
そのような付加された音を削ぎ落として、最も厳密な形を突き詰めていくと、「練る(/ner-/)」と「寝る(/ne-/)」は、実は全く別の音の動詞だったのです。
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