見出し画像

【お仕事回顧】国の黄昏を描いた滅亡と再生の物語

【お仕事回顧】この記事はなにか?
・ポートフォリオ的に見せるものです
・自分がスランプに陥ったときに振り返るお話の作り方の備忘録
です

公開許可を取っていないものもあるのでタイトルはボカしてあります
お話の作り方などを記載してあるのでネタバレがあります
(タイトル非公開なのでネタバレも何もないですが)


概要

ファンタジー世界が舞台の王道ファンタジーの世界観で、国の滅亡と心の再生を比較して描いた物語。


期間

2020年7月~2020年8月

依頼元、依頼経緯

ゲーム制作会社、リピート依頼

関係者

企画窓口担当の方、打ち合わせ無し

仕事内容

ストーリーシナリオ、キャラクター設定、ストーリープロット制作、ストーリーシナリオ制作、その他テキスト各種制作

資料

特になし

納品物

企画大枠、キャラ設定、ストーリープロット、シナリオ、キャラボイス台本

ボリューム

60分尺のアニメくらいのボリュームをイメージ

時系列

各ストーリー依頼→作業→納品

概要

 ひとことプロットは
「自らの過去の行いについて悩む主人公が、ある滅びゆく王国の人々との触れ合いによって前を向けるようになる物語」でした。

 他のエピソードの行間を埋めるようなエピソードにしつつ、今回の主人公となるキャラクターの過去を深堀りする物語にしようと決めていました。

 決まっていた事項は
「舞台となる国は滅びる」
「巨大な竜が誕生し、未来に渡って城を守り続ける」
でした。

 ストーリーの軸は「再生」型です。
 罪を犯したり、傷ついたりした過去を持つ主人公が、特定の場所やコミュニティに触れていくことで、過去から解放されて再生していく物語の軸になります。
 舞台となる国は滅びを迎える運命にあり、主人公の再生と舞台となる国の滅亡を描くことで、両者の結末と、結末によって生まれる感情がより際立つようにしました。

 設定したキャッチワードは「原点回帰」「契約(約束)」「黄昏」「黙示録」「竜王」です。「黄昏」は王朝の滅びなどを表現する際によく使用されるワードなので、ストーリーをイメージしやすいキャッチワードで、個人的に好きでよく使います。

 キャラクターのモチーフについて。
 ヨハネの黙示録に描かれている挿絵「巨大な赤い龍」を見ながら今回の物語のイメージを膨らませました。
 この物語の主要な登場人物は、滅びゆく王国の最後の王となる幼い少年王、それに仕える傭兵、そしてかつて少年王に命を救われた竜人の少女。 そしてその王国にやってきた主人公の4人です。
 キャラクターとしてのモチーフは特にいませんが、キャラクターの名前は「巨大な赤い龍」を描いた画家の「ウイリアム・ブレイク」からいただいたり、黄泉、地獄といった意味(正確ではない)のヘブライ語の「シェオル」などを使用しました。
「シェオル」はギリシャ語の「ハデス」と似た意味合いの言葉ですが、滅びゆく王国を象徴する用語として選定しました。

 描きたかった感情は「敬愛」です。主君に対する敬愛の感情を描きたかったです。
 人の上に立つ人間は様々な魅力によって人を率いていきます。圧倒的なカリスマ性や、他を寄せ付けない戦闘力、他と堂々と渡り合う交渉力など。
 国を運営する力が無くても、仁愛によって国を治める主君もいたかと思います。王としては失格で、それゆえに国が滅びることもあったかと思います。が、そんな「王様」っぽくない王様がいてもいいんじゃないかと考えました。国の滅びを描くことになりましたが、なるべく王様の責任で滅ばないような流れにしようと考えました。

あらすじ

 主人公は人々を救い導く特殊な一族の一員でした。
「創造主」と呼ばれるリーダーが率いるその一族は、弱い人々を救うために尽力する集合体でした。人々を守り、導くことで人間のために尽くした一族でしたが、創造主の暴走によりその力の使い方の方向性を誤ってしまいます。
 創造主は人間を強くするために人間を巨大な獣に変身させる道具を発明しました。それは人間を超える代わりに、人間らしさを無くしてしまう矛盾を体現した発明でした。
 人々に被害が出ることを危惧した主人公は、自分の正義に従い、創造主を裏切り殺害します。

 物語はその1年後から始まります。創造主亡きあと主人公の一族はバラバラになり、創造主の遺した行為によって主人公の一族は悪魔の一族と呼ばれ迫害を受けていました。
 主人公もまた人々に魔女として追われ、かつての同族からは創造主を殺した裏切り者として命を狙われる日々を送り、心身共に疲弊していました。自らの行いの功罪すらわからなくなり、主人公は死を望むまでに絶望していました。
 そんな主人公が迷い込んだのが舞台となる国で、
主人公が出会ったのが、国の元の君主である幼い少年王でした。

 舞台となる国ではクーデターが発生しており、少年王は王冠を奪われていました。国の片隅に追いやられ、貧しい生活を送る少年王でしたが、腐ることなく、その言動は立派で威厳に満ちていました。
 少年王には護衛である傭兵、そして少年王に恩のある竜人の少女がたったふたり、そばに仕えていました。

 傭兵は、少年王との関係は主従ではなく、あくまで金銭による契約と語ります。竜人の少女も、かつて命を救ってもらった恩に報いるために少年王に侍ります。国に見放されてしまった少年王は、国と一切関係のないながらも誰よりも忠誠心が厚い2人に守られていました。

 体が細く病弱な少年王でしたが、博愛の心に溢れ、魔女と忌み嫌われた主人公であっても懐に迎え入れます。世界に絶望していた主人公は、少年王の温かさに触れ、彼ら3人の陽だまりのような優しい空気に包まれることで、心に希望を取り戻していきます。
 しかし、病魔は急速に少年王の体を蝕んでいきました。

 そんな中、国を滅ぼすほどの竜の群れが国に飛来します。
滅亡までの、そして自らの命の残り時間が無い中、少年王は国民に向けて必死の説得を行います。人々は竜を撃退できると過信しており、避難を呼びかける声に一切耳を貸しません。
 無理がたたり、少年王は国を守りたいという願いを叶えられずに、病気により命を落としてしまいます。
 少年王のそばには、かつて創造主が生み出した人を獣に変える道具が置かれていました。

 傭兵と竜人の少女は少年王の遺志を汲み取り、国を守るために竜の群れと命をかけて戦います。2人はともに命を失うほどの重傷を負いながら、少年王が眠る場所を最後の地にしようと、城へと向かいます。
 主人公もまた、少年王のそばで傭兵たちと共に戦うことを望みましたが、
主人公を想う傭兵によって、生かされることになります。

 国を護りたいという少年王の願い、少年王の想いを叶えたいという傭兵と竜人の少女の願い。3人の願いが重なり人を獣に変える道具に注がれたことで、竜の群れすら圧倒する巨大な竜が誕生します。

 後に黙示録の竜と呼ばれるその巨大な竜は、人々に恐怖を与えながらも、滅びた王朝をいつまでも守り続けることになります。

感想

 この物語のテーマは「原点回帰」でした。設定、セリフ、シーン作りなど様々な方法で原点回帰を目指しました。

 ゲームの舞台は(特に明言はしていませんが)「人が人に力を受け渡すことができる」という設定になっており、正しく力を受け取った人間は力を得ますが、悪意を受け取った人間は異形のモンスターとなってしまいます。ゲームに登場する巨大なドラゴンや怪物といったボスたちも、様々な経緯で力を得るに至った元人間もいます。力を受け取って更なる力を得る。その設定を改めて描き直すことで、原点回帰を目指しました

 このゲームの最序盤でプレイヤーが戦う最初のボスは巨大な黒い竜です。その黒い竜は滅びた王朝を守るように主人公の前に立ち塞がりました。最序盤で戦う黒い竜の成り立ちを描くことで、原点回帰を目指しました

 ストーリーの舞台となる王国は、プレイヤーが冒険をするマップの一番最初にずっと表示され続けていた王国です。ずっと目に入っていたけど特に意識はしていなかった場所を舞台にすることで、原点回帰を目指しました

 「契約」というワードはゲームのタイトルにも使われている重要ワードですが、登場人物の傭兵に「契約」というワードを言わせたり、「契約」を結ぶことで力を受け渡したりするシーンを描くなど、ゲームのタイトルにも使用されている言葉をキャッチワードに設定することで、原点回帰を目指しました

 その他、BGM、背景なども、なるべくゲーム初期の雰囲気を出せるように、「原点回帰」を意識した構成にしました

まとめ

 設定したコンセプトと作り上げた物語がばっちりハマった、と感じた物語で、仕上がりとしても個人的に満足度が高い部類の仕事です。3人が巨大な竜になる経緯はシーンの構成とも合わせて詳細に設計したんですが、関係者に説明するのに苦労した記憶があります。図解+拙い文言で説明を汲み取っていただき、デザインや仕様に落とし込んでいただいて、感謝しかありません。
 国が滅ぶ、という割とひどい前提があったため、なるべく登場人物の性格やキャラクター同士のやり取りについては優しい雰囲気が出せるように努めました。
 シナリオを書く際、楽しいシーンは笑いながら、怒りのシーンは画面を睨みつけながら、悲しいシーンはボトボト泣きながら書いているのですが、この物語を書いている時はかなり情緒不安定な気持ち悪い人間だったと思います。

印象に残っているシーン&セリフ

優しい少年王が竜人の少女に人の弱さを語るシーン


強靭な竜人と虚弱な少年王の感覚の違いから生まれるセリフは書いていて良い対比になるなぁ、と感じました。

「シェオールはまだ人間が怖いかい?」

「に、人間なんて怖くない!人間は弱っちいからな。」

「どうか人間を恨まないでほしい。シェオールの言う通り、人間は弱いんだ。でも、シェオールが私にしてくれたように優しくしてあげれば、きっと返ってくるんだ。そなたがどこに行っても、受け入れてくれる人は必ずいるからね。」

「? アタシはどこかに行ったりしないぞ。テオドアが寂しがるからな。」

「……………………。」

「人間は嫌いだ。でも、テオドアは嫌いじゃない。ブレイクは嫌いだけど、料理は柔らかくておいしい。」


主人公が自らの行為について間違いではなかったと気づくシーン


主人公はこの後長い時を生きることになりますが、間違いなくその原動力のひとつになった出来事でした

「燭台が……この光は……。ユーノの力が流れ込んできたあの時と同じ光……?ノアを止めてほしいと願ったユーノ。その言葉と共に、あの子の力が私に流れ込んできた……。」

「想いを託す……。この燭台には、人の想いを留める力があるのね。ああ、だとしたら……。あなた達の想いも、燭台の中にあるのね……。』

「ナディア……?」

「テオドア……私はずっと怖かったの。創造主と呼ばれたノアを手にかけて、私はこの世界を歪にしてしまった。」

「……………………。」

「みんなの体はもうこの世界に無い。みんなの言葉はもう聞こえない。」

「怖かった……ユーノが私に託した想いなんて、存在しなかったんじゃないかって。私は取り返しのつかない事をしただけなんじゃないかって。でも……あったのね。彼らの想いは、こうやって、ここに……。」

「ナディア……。探している答えは、きっともう、ナディアの中にあるよ……。」


敵役として登場したキャラのとあるセリフ


カオスな性格であるキャラクターを表現した一言になっていて、セリフのテンポもよくてなんとなくお気に入りのセリフです

「叡智を授けても学ばない。導けば甘える。不思議ね、憎くはないの。むしろ可愛らしくて仕方ないくらい。」


少年王の最期のシーン


滅亡を目の前にした国から可能な限り国民を逃がすことに成功した少年王。無理を重ねた体にもう力は残っておらず……。
こんなん泣くわ。

「よかった……わずかでも救うことができて……。」

「どこまでいっても王様だな、お前は。いい加減呆れるぜ。」

「ブレイク……すまない。そなたには迷惑ばかりかけてしまった。」

「報酬の内さ。仕事をすればするほど、報酬を受け取った時の感動もでかいってもんだ。」

「ふふ……ふ……。」

「なんだよ?」

「そなたはそう言って……私から報酬を受け取ったことが……ないじゃないか。」

「はっ! 病人から金を巻き上げるなんざ寝覚めが悪くてできるかよ。」

「ふふ……ゲホッゲホッ……!!」

「シェオール……そこにいるんだよね。」

「……………………。」

「シェオール……ブレイクも……。
 ありがとう……ここに連れてきてくれて。
 ありがとう……私の側にいてくれて。」

「両親が早くに亡くなった私にとって2人は、とてもにぎやかで……温かい……。本当の家族だったよ。」
「2人の幸せを……願っている。どうか……生きて……。」
「……………………。」

息を引き取る少年王
人知れず涙を流す竜人の少女

「……あ~あ……まったくよ。報酬を釣り上げようとばかり考えてたからよ。」
「結局、取り逃しちまったじゃねぇか。
 ついてねぇなぁ……ついてねえ。」


少年王の死後、命をかける傭兵と竜人の少女


少年王の死後、避難する国民を救うために命をかけて、最後の力を振り絞って少年王の元に戻ろうとする傭兵と竜人の少女。
こんなん泣くわ。

「お前はもう休んでな。後の敵は俺が片付ける……。」

「ここ……テオドアの場所。アイツらに……渡したくない。」

「……………………。ふ……考えることは一緒か。」

「ブレイク……どこ? テオドアの所に、行きたい。」

「お前、もう目が……。」

「テオドア……テオドア……。」

「わかったよ。一緒に行こうぜ。」

竜人の少女を背負って歩く傭兵

「さっさとテオドアの所にいって、報酬をたんまりもらわないとな。」

「アタシは……お腹へった。ごはん食べたい。」

「そうだな、メシにするか。何が食べたい?」

「柔らかい肉……。」

「そればっかりだな、お前は。」

「やっぱり……野菜のスープにする。テオドアも一緒に……食べられる……から。」

「ああ……偉いぞ。」


傭兵が報酬をもらうシーン


報酬とは労働の対価です。が、通貨だけじゃなくて労働によって得られた経験とか、思い出とか感情も、きっと報酬の内に含まれると思っています。

『俺はこの墓標の守り手だ。たとえ創造主の意志とやらに飲み込まれても、それだけは譲れねぇ。』

「すまない、ブレイク。私はそなたの働きに見合った報酬を渡せていない。ダメな雇い主だな。」

(いいや? そうでもないさ……。)

傭兵の脳裏に浮かぶ少年王の笑顔
竜人の少女の姿
3人で過ごした日々の情景。

傭兵の姿が白い光に包まれる

(悪くない……報酬だったぜ。)



最後まで読んでいただきありがとうございました!
励みになりますので面白ければぜひハートマークをポチりと、お願いします。
ではまた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?