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【昭和講談】幕間の思索① 日本語の魅力について

 「昭和講談」を書き始めました。イメージ通りとはいきませんが、少しずつ掲載していきます。次回作のつなぎとして、芸能における日本語の魅力について書き連ねて参ります。
 最初ですので、「日本語の魅力」についてです。日本語の魅力では大きすぎるので、「日本語の発声の魅力」と少し、狭めてみます。
 まずは具体例として、「男はつらいよ」の寅さんが聞かせるあの口上を挙げてみましょうか。

「物の始まりが一ならば、国の始まりが大和の国、島の始まりが淡島……」

 言葉のリズム感がたまりません。他にも、歌舞伎「三人吉三廓初買」の名台詞があります。

「月も朧(おぼろ)に白魚の篝(かがり)もかすむ春の空、冷てえ風も微酔(ほろよい)に心持よくうかうかと……」

 つい役者になった気分で読み上げたくなります。七五調の歯切れのいいセリフは芸能にはよく出てきます。他にも知りたい方は、齋藤孝さんの「声に出して読みたい日本語」をご覧ください。良書です。

 こうした日本語のリズムは「七五調」のリズムによるところが大きいですが、それだけでもないと思います。
 浪曲「水戸黄門漫遊記」(初代日吉川秋斎)から。頭の節を引用します。

「〽海に海賊 野に盗賊 山に山賊 つぼや万引きぼったくり 湯屋の板の間宵のぞき 足の短い手の長い……」

 基調は七五ですが、六文字・四文字も混ざり、それでも、口にすると滑らかに出てきます。
 この様に「日本語の言葉の並び、その発声で、心地よいリズムや抑揚を生み出すことができる」、これが「日本語の発声の魅力」ではないか、と思っています。

「英語は音の強弱で、日本語は音の高低」

 これは、英語、日本語の特徴を表す時に使われる文句です。日本語を読み上げる時、知らず知らずに音の高い、低いが生まれます。これが、大声を発声し、声に感情を乗せる必要のある芸能に色濃く反映されているのではないかと思っています。

 「言葉が音の高低を持つこと」で、音楽性が濃くなっていく。
 それは、現代の曲の、音符や音階合わせて歌うものとは考え方が違う、「日本語の持つ音程だけで音楽性を表現できる」ということです。
 それが、「聴いていて飽きのこない、耳に心地よい日本語」につながっているのではないか、と思っている訳です。

 それが、今回の講談とどうつながるか、と言えば、そんな日本語のリズム感やテンポが生まれる現代的な講談ができないか、と考えているからです。

 先ほど挙げた口上や浪曲は、黙読しているだけでも歯切れの良さ、言葉のリズム感やテンポが伝わってきます。
 そんな、読者が読んでいる頭の中の声で、リズム感や心地良さが生まれるようなものを、この「昭和講談」で表現したいと思っているのです。

 その意味ではまだイメージからほど遠いですが、いつかは、内容の興味深さと並行してリズム感のあるものが書ける様にしたいです。そしてそれを、声に出して読んでみたいと思ってもらえる様なものに出来ればなと思っている次第です。

 また9月から掲載していきます。どうぞお付き合い頂ければ幸いに存じます。

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