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【歴史本の山を崩せ#014】『枢密院』望月雅士

《ヴェールに包まれた「奥の院」を概観する》

枢密院と聞くとなんだかSF映画などに出てくる悪の帝国の組織が頭に浮かぶひとも少なくないのではないでしょうか。
言うまでもなく現代日本には存在しない組織ですが、戦前日本では憲法にも規程された重要な政治機関でした。
天皇が政府(内閣)から上奏された憲法に関わる案件や条約改正など国家の重要事項を諮詢する機関として位置づけられ、その奉答をもとに上奏を裁可する。
戦前日本も衆議院と貴族院の二院制ですが、それとは別に設けられた「奥の院」といえる政治機関でした。

明治時代に設置されてから戦後に廃止されるまでの枢密院の歴史を通観する、ありそうでなかった本です。
当時は議事の内容すらも非公開とされ、歴史の表舞台へ積極的に押し出されることは稀であったこともあり、歴史的に重要な役割を持ちながら、よほどの専門書でもなければ詳細に触れられることもありませんでした。

天皇の諮詢機関という特殊な位置づけもあり、政府内閣にとってはかなり「面倒くさい」機関だったことがわかります。
歴代内閣の政策決定の裏側には、文字通り知られざる枢密院との政治的な攻防がありました。
教科書などではなかなか表に出てこない、戦前日本政治史の特殊性がとてもよく表れています。

時に政局の片棒を担ぎ、その閉鎖性もあって批判にさらされることもありました。
一方で、後世からみて時の政権が誤った選択をしようとしたときに、ストップをかけることができる可能性も持っている機関でした。
首相候補指名の事実上の責任者でありながら、法的に明確な根拠も持たない元老に代わりうるものとしての期待もありました。
枢密院は何を期待され、実際にはどのような役割を果たしたのか(また、果たし得なかったのか)。

なかなかボリュームがありますが、新書というスタイルで知られざる「奥の院」の歴史を概観できるのは非常にありがたいです。

『枢密院』
著者:望月雅士
出版:講談社(講談社現代新書)
初版:2022年
定価:1200円+税

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