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竹美映画評㉘ 「まんが日本昔ばなし」をインドでやったら2時間超えちゃう「Satyam, Shivam, Sundharam」(「真理、神性、美」)(1978年、インド)

彼氏のおすすめにより、1978年のヒンディー映画「Satyam, Shivam, Sundharam」(「真理、神性、美」)の英語字幕付き動画を観ました。以下、全部観られるよー。

https://www.youtube.com/watch?v=PigSSMmkdDg&vl=en

主題歌の中で「神は真理、真理とは神性、神性とは美」と歌われる。宗教映画としては激アツなのよねきっと。このジャンルならば、日本ならまんが日本昔ばなしで十分でやっちゃうような話をさすがはインド、3時間近くこってりやります。最後は唐突に大スペクタクルパニック映画みたいになってすごい迫力!

男が全く踊っていないのも特徴的かもしれない。男が全員踊りまくるようになるのは80年代以降らしいの。これはインド映画=踊るんでしょ?という日本での固定観念とは異なっている。ただし、女はコケティッシュに踊るので、踊りの演出的な意味づけが今と少し違うのかもね。
あとね、インド映画のキーポイント「罪を犯した者にも反省と償いのチャンスをやる」というのが受け付けられるかどうか。これはこの種のインド娯楽映画を観ててよく聞く感想なのね、ころっと心を入れ替える人、ってのが、日本ではあんまりいい意味が無くて、そこもまた、まんが日本昔ばなし的に見えてしまうのかもね。
また、価値のあるものが「真善美」ではなく「神」なのがインド的かもね。

主題歌は妙に耳に残る。サティヤム、シーヴァム、スンダラムという三つのサンスクリット単語も覚えられる。

お話は…寺院で音楽を演奏する男に待望の娘ルパが生まれたが、娘を産んで母は死去。男はルパを不吉だと決めつけ冷遇。更に、事故で顔に大きな火傷を負って益々世間から遠のく。

毎朝寺院を掃除しながら美しい声で歌うルパ。都会から赴任してきたダムの技師ラジーヴはその歌声を聴いた瞬間から顔も知らないルパに恋をしてしまう。ルパもラジーヴに想いを寄せるが、ルパは顔を隠してラジーヴに会いに行き、顔を見ない約束でラジーヴと密会を繰り返す。やがて結婚式の夜、遂にルパの顔を見たラジーヴは激しい嫌悪を示し、ルパを拒絶。本当のルパを探して村を彷徨う。それを見たルパは、再び顔を隠し、「本当のルパ」としてラジーヴと密会、遂に夜を共にする。

やがて妊娠したルパはラジーヴに真実を告げるもラジーヴはルパの不貞を疑い激しく罵る。遂に堪忍袋の尾が切れたルパは家を出て行く。すると天がさっとかき曇り、未曾有の大雨が村一帯を襲う…


観てると、トチ狂ったラジーヴのあまりのクソ男ぶりに腹が立ってしまう…でも彼ね、何か恐怖症持ってる感じなのよ。ルパは村社会からも父からも外れもの扱いされているので観てて辛い。父親ったら、母親死んだのをルパのカルマのせいにしてるくせに、娘には歌を歌わせ、自分の世話させるし。生きてて辛い〜とか言ってゲホゲホ咳き込むわりに、長生きすんなよ…日々世の中を呪ってるタイプはなかなか死なないよね。現在の私の感覚からしたら信じがたい無知蒙昧と、男の身勝手と幼稚さが苦しいのだが、そのように生きてしまう哀しさ、それを見て心配する周りの人達の優しさ。それを見せてくれる。

女が堪忍袋の尾が切れたところ、これはインド映画あるあるの「怒る女神」のモチーフと思う。そうなったらもう手がつけられない。未曾有の大嵐だって引き起こし、人類に罰を与えるわよ!この、最後は女が強い!というのも、インド的な面白さかもしれない。

まーね、三時間近くあるから、途中で休みながら観たら、一味も二味も、現在のボリウッド映画やテルグ、タミルの映画を楽しめることは間違いなし。知らない国の映画を観て、「訳わかんないわ!?」と感じること、それが、教養への扉。それを閉ざしてしまうと、あなたはずっと自分の知ってる世界だけで生きることになる。それはそれで居心地が良いんだけど、時折扉の向こうから聞こえる物音が怖くて不快で益々耳を閉ざしたくなるかも。教養ってね、知らないこと、訳わかんないことにぶつかっていく中で自分が見出すものなの。何かを知ってるということより大事なことがそこにある。真実と、神性と、美があなたに世界のことを教えてくれるのよ。



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