【緊急提言】東京大学教養学部は対面試験欠席に救済措置制度を設けよ

本日、緊急事態宣言の発出を受け、東京大学の活動制限レベルがレベル1に引き上げられた。本来、活動制限指針ではレベル1での授業は「オンライン講義のみ」とされているが、今回は「対面での実施が必要な実験・実習・演習や定期試験については、十分な感染対策を前提に可」ということになっている。東京大学教養学部では、1月中旬に始まる定期試験について、東京大学の学部1・2年生全員が所属する前期課程については原則として対面で実施することになっており、1月4日の時点で緊急事態宣言が発出される見込みであることを踏まえてなお「対面試験の実施を行う予定としております。」としていた現時点で、東京大学教養学部前期課程では対面試験を実施する予定であると判断される。

対面・オンラインのいずれの試験方式を採るかについては、難しい問題であろう。7月にオンラインで行われた前回の定期試験は、カメラで手元などを撮影しながら受験することを必要とする形式で、進学選択制度など東京大学教養学部前期課程特有の事情もありやむを得ない部分もあるとはいえ(以前も指摘したように)問題含みであるというべきで、何件かトラブルも発生した様子であり、(大人数一方向講義のオンライン化の評価が概ね高いのに比して)全般に好ましい結果を生産してはいないことは確かである。そのようなわけで、ここでは試験を対面で行うという判断そのものの是非に触れることはしない。

しかし、そのような判断をしたのならば、それに必要な措置はとられるべきである。12月2日に対面試験の実施を発表した際、教養学部長室は「試験の実施に際しては、必要な防疫対策を施すと同時に、事情によりやむをえずオンライン履修・受験を希望する学生には必要な手続きを取っていただくことで、適切な配慮をいたします。」と記していたが、現状、これは十分ではない。

というのも、対面試験を欠席した学生が不利益を被らないことが保証されていないからだ(この点の詳細については下で補足として述べる)。

新型コロナウイルス感染症に感染した学生や(濃厚接触者に特定された等により)その疑いのある学生はいうまでもなく、体調不良の学生についてはキャンパスへの入構が認められていない。しかし、体温については検温が可能であるものの、その他の体調不良などについてはこれを担保するのは難しく、現状も自己申告に頼っている。試験という学生の利益に重大な影響を及ぼす場面では、然るべき制度的措置がなされていなければ、本来は出席すべきでない学生がその事実を隠して出席することは十分にあり得ることだ(なお、そのような学生が存在する可能性が現実的であることを下で補足として述べる)。

実際、Twitterでは次のようなアンケートがなされており、匿名による回答であるから信頼性には欠けるものの、この懸念を肯定する結果となっている。

これは重大なリスクである。もちろん、対面試験の実施にあたっては教室の収容人数その他種々の対策が取られているだろう。しかし、普段から新型コロナウイルス感染症の感染者・その疑いがある者や体調不良の者をキャンパスに入構させないとしているのは、これらの措置を組み合わせることによってリスクを低減させることを意図しているからであろう。その一部が機能しなくなるという事態は、許容できるものではないはずだ。それはひいては、すべての対面試験受験者、さらにはすべての東京大学関係者を感染リスクに晒すことに他ならない

以上の次第であるから、東京大学教養学部は、前期課程の対面試験について、(実施するならば)これを欠席した場合に不利益を被らないことが保証されるよう、学部として措置を行う制度を導入するべきである(なお、具体的な措置の内容については各教員の裁量に任されることもあり得るかもしれないが、最低でもその適用の有無について学部として責任を持って行われることが必要であることは言をまたない)。

補足:対面試験を欠席した場合の措置について

対面試験を受験できない場合のための制度は存在しないわけではない。まず、今回設けられた制度として、事前に申請することで、許可されれば対面試験をオンラインでの代替措置に変更することができる。しかし、これはあくまで事前の申請を要するもので、その締切は延長されて本日1月7日だった(主に自身や同居者などの感染リスクが高い者を想定した制度であると言える)。加えて、従来から存在する制度として、定期試験を病気・事故など不測の事態により欠席した場合に追試験を受験することができるが、これは一部の科目に限られている(ついでながら、追試験を受験するためには病院の診断書・交通機関の事故証明書・遅延証明書等の公式文書を要し、5月に行われた4学期制科目のオンライン試験では体調不良で受診せず自宅療養していた学生の追試験が認められなかった様子であるのだが、昨今の情勢で体調不良での欠席に対し診断書を要求するのは社会的に望ましいあり方とはとても言えないだろう)。これらでカバーされない場合、試験の欠席に対する措置の公的な制度は、現時点で存在しないと思われる(存在しないことの証明はできないが、教養学部「教務課からのお知らせ」の文書に「申請は1月4日16時に締め切られます。締め切り以降は代替措置を受けることはできなくなり、定期試験を欠席する場合はインフルエンザ等と同様に病欠扱いとなります。(病欠の場合、一部の基礎科目で追試験の受験を申請することができます。詳細は「履修の手引き」を確認してください。診断書等の証明書類が必要となるのでご留意ください。)」と書かれているから、おそらくそうであると推測できる)。そのようなわけで、新型コロナウイルス感染症の感染及びその疑いや体調不良といった(今回焦点としているような)予期できない事情により対面試験を欠席する場合は、学部として公に設けられた措置はないということになる(ちなみに、そのような場合の運用は、担当教員の裁量に任されているというのが実際のところのようだ)。

補足:東京大学の新型コロナウイルス感染者発生状況について

対面試験の受験対象者に新型コロナウイルス感染症の感染者が発生する可能性は十分現実的である。というのも、東京大学の構成員においても新型コロナウイルス感染症の感染者は断続的に発生しており、12月28日から1月7日までの10日あまりで23名の学生の感染が判明しているのである。東京大学の学生数は11月1日現在で27011人で、そのうち教養学部前期課程は対面試験の主な対象者である1年生に相当する2020年度入学者で3154人であるから、教養学部前期課程の学生がこの感染者の中にいるかどうかは明らかにされていないにしても、今後感染者が発生しない(発生する確率が十分低い)と考えるには無理があるだろう。

追記:教養学部の対応

1月8日、教養学部から「定期試験への対応について」が発出され、「新型コロナウイルス感染の疑似症状がでている場合は絶対に登校せず、速やかに下記の対応を行って下さい。濃厚接触者と認定された場合も同様の対応をお願いします。」「待機が必要な期間と対面実施の定期試験実施日時が重なってしまった学生は、該当試験について代替措置の対象となります。」と明記された(ただし、この「代替措置」についての現時点での説明で不利益を被らないことの保証に足るものであると学生が受け止めるかどうかはまだわからない、と留保を付しておく)。

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