気の知れた野郎どもと地元の山に登った話
缶コーヒーを片手に、ふと地元の山を登った時のことを思い出した。
あれは去年のゴールデンウィーク。コロナ禍での自粛にうずうずしていた頃の話だ。
特に登山好きのメンバーがいるわけではない。
コロナ禍で室内に集まるわけにもいかず、なんとなーく地元の有名な山に登ろうかと誰かが言い出した。
ただ登るだけでは満足できない私達は、1人1袋ずつ45Lのゴミ袋と軍手を持参し、ゴミ拾いをしながら登山する事を約束した。
地元であるにも拘らず、一度も登った事のない富士山の末っ子娘のCカップレベルのその山。
完全に、その山を舐めていた。
Cカップという表現の後に舐めていた。が続いたせいで変な感じになっているが、その意味ではなく、登山の経験がない私達は、完全に山を甘くみていた。という意味の「舐めていた」だ。山をペロペロしたのではない。
いざ出陣だ。と意気込んで始まる私達の登山は山の麓にある神社から始まった。そこから続く山道は想像より遥かに神々しかった。
登り始めて最初に驚いたのは、思っていたほどというか全くゴミが落ちておらず、綺麗な山だった事だ。
富士山がゴミだらけ、というネットから得た知識しか持ち合わせていない私は、登山道=ゴミがたくさん捨てられている。という勝手な思い込みで、スタート地点からすでに軍手にゴミ袋という装備を決め込んでいたのだ。
ゴミが落ちていないというのは、今考えるととても良い事なのだが、ポケモンのいない草むらにリュックいっぱいのモンスターボールを詰め込んできた私達にはかなりの拍子抜け状態だった。
途中、蜂のせいで前に進むのが遅れたり、休憩という名の野郎どもおしゃべりタイムが長くなったが、一生懸命に足を進めた。頭に巻いたタオルが汗で重たくなっていくのが分かる。
2時間程かけて、ゆっくりゴミを探しながら登り、たまに見かけるポケモンをゴミ袋に集めながら、私達は登頂に成功した。
山の上には小さな祠があり、手を合わせた。
そして景色がよく見える大きな岩に全員で座った。
メンバーの1人、チンゴという後輩が小さな楽しみを用意してくれていたからだ。
それは山頂で豆を挽いて出来立ての珈琲をいただくという可愛いサプライズ。最高だ。
お洒落なアウトドア用のコーヒーミルをガサゴソとバッグから取り出し、最高の笑顔でこう言った。
「豆を忘れました」
サプライズにサプライズを重ねる新しいカタチだ。
全然いい。むしろ逆に良い。水筒に入れてきたお湯を皆で飲もうではないか。
そんなドタバタの最中に、ゴミ袋片手のヨボヨボのお爺さまが話かけてきた。まさか私達以外にもポケモンマスターがいるとは思いもしなかった。
どうやらコーヒー豆は無いが、インスタントの粉ならあるから分けてくれるそうだ。
ありがたかった。優しさに触れた野郎どもは少しだけ女になった。
インスタントの珈琲をいただきながら、少しの時間このお爺さまの話に耳を傾ける。
インスタントお爺さまは、毎日欠かさずこの山を登り、ゴミ拾いをしていると言う。
なるほど、私達が通った道が綺麗だったわけだ。
このインスタントお爺さまの毎日の努力があってこそ、この綺麗な山道があるのだ。
多分このお爺さまは、この山のヌシだろう。
間違いない。
ヌシの生き方はとても綺麗で優しかった。
出会ってくれてありがとう。
初恋のような時間はすぐに去り、疲れた身体を摩りながら私たちは山を下りるため、大きな岩から腰を上げた。
1杯の珈琲に素敵なお話、山の景色を堪能した私たちの足取りは軽くあっという間の下山であった。
SDGsだ!!と声を揃えてゴミ拾いをしてみた結果、継続する事の難しさ、そして誰かを思い、継続する人の美しさを知ったのだ。
山のヌシよ。また会おうではないか。
あれから1年と半年、あの山には行っていない。
ただ、駐車場から家に着く間に、ゴミがあれば拾っている。
そう。私は駐車場から家までの間のヌシになったのだ。
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