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東京芸人逃避行 かわぞえあきひろ 荒波タテオ


僕はある依頼で期限内にこの東京芸人逃避行を書かなければならなかった。
しかも結構なボリュームである。
この記事は僕1人では書くことができない。僕以外の誰か芸人が必要なのだ。
だから二ヶ月ほど前から
「この日皆んなで遊びましょう」
と募った。

誘ったのはランジャタイ伊藤、かわぞえ、タテオの3人。
予定を早めに組んだこともあり、全員の日程を合わせることができた。
しかし予定の日の前日、伊藤さんは自身の仕事の締め切りに追われ行けないとの連絡。
二ヶ月前から言ってたのに。発狂しそうだった。してたかもしれない。

まあいい、もう伊藤さんのことは忘れてただただ楽しく遊ぶと決めた。




2024年4月1日

春になったにも関わらず、天気が悪い日は続いた。
ここ数日は雨が地面を濡らし、洗濯物は部屋に溜まった。
風も強く窓が揺れる。
物干し竿は風で吹き飛び隣の民家の地面に突き刺さり、気付いた大家が僕の家のインターホンを鳴らした。

4月1日は曇りであった。雨は降らないという。しかし信用できないほどに空はドス黒い。
僕は大きめのバッグに焼き丸2という煙が圧倒的に出ない焼肉プレートを持って家を出た。
これが普通の焼き丸であれば煙は多少出るのだが、こちとら焼き丸の2である。2は良いのだ。
バックトゥザ・フューチャーもターミネーターも2はとても良いのだ。


明大前でかわぞえさんとタテオと待ち合わせ、しっかり遅れてやってきた2人と共に高幡不動に向かった。

初めて降り立つ高幡不動は電車で30分もかからず、
綺麗な駅前は静かで住みやすそうだなと思った。
高円寺の駅前のように我々のような野良はおらず、降り立つことも本当は許されていない気もしたがそれには目を瞑った。

僕らはそのままスーパーで食材を買い込み、100円ショップで紙皿やアルミホイルなどを買った。

そこからかわぞえさんの先導で僕らは目当ての多摩川に向かう。

かわぞえさんは「こっちだ」とズンズン進む。よく道を覚えてるものだなぁと感心する。
僕とタテオはアホ面を携えて「へぇへぇ!」と付いて行く。

駅から少し歩くと急に田舎のようになる高幡不動の街はなんだか気分が良かった。
川沿いなのが原因だろうか。
そこいらに用水路があって水が流れていて、気温も涼しかったからか気持ち良かった。良い日になるとこの時点で思った。

土手が見え、階段を登るとそこは多摩川であった。

川上から吹き抜ける風は気持ち良く、かわぞえさんがバーベキューできるという場所まで向かう。
連日の雨と平日が重なったせいかすれ違う人も少ない。
陸橋が見える開けた場所を陣取り僕らはバーベキューの支度をした。

東京の川など汚いと思っていたがそんなことはなく、流れる水はとても綺麗で泳ぐ鯉も時おり見えた。

僕は焼き丸2(2というのが大切。1ではない)を出し、タテオはレジャーシートを広げ、かわぞえさんはネギを切り出しフライパンで炒め、メスティンで米を炊き始めた。


近くの橋の下では慣れた手つきでバーベキューをしている人がいる。道具も立派であった。しかしこちらは幸福度が違う。圧倒的に幸せが優っている。
やはり橋の下などという太陽を燦々に浴びれないカビ臭くて辛気臭いところでのバーベキューなどはダメだ。
こうして仲間と和気藹々肉を焼いて悪口やゴシップに花を咲かせてこそやる意味があるのだ。

そう思っていると開始して30分で大雨が降ってきて橋の下に移動した。
しかも先客がいたので僕らは上の方のより橋に近い虫が湧く、埃臭くカビ臭い場所でのバーベキューとなった。

これで大丈夫とバーベキューを再開すると雨は止んだ。
下の方では先客が片付けを始めた。
「これはラッキー」と帰ったと同時にそこに移動しようと思っていたが新たに来た若い女子大生風のグループが炭火でバーベキューを始め、全ての煙はこちらに向かって飛んで来て僕らはまた元の場所に移動した。

しかしそれでも雨が明けた空はとても綺麗で、川には後光が差した。

釣竿を持ってきていたかわぞえさんはおもむろに釣りを始めた。
「あそこにいる鯉を釣ってやるんだ!」
と意気込むかわぞえさんを僕とタテオは応援した。
「あそこにいる」「餌はこっちの方がいい」
と各々アドバイスをし釣りに精を出したが、しっかりと釣り禁止区域ですぐに釣竿を仕舞い、それはすぐにただの“荷物”になった。

普段そんなにいい物を食っていないのか、タテオはずっと1人無心で肉を焼き食っていた。
周りから見ると完全に川辺に住む怪人である。デカいペットボトルがそれに拍車を掛ける。
ロースターを持ってきた僕と、メスティンやガスバーナー、更には米や食材を持ってきたかわぞえさんに対してタテオが持ってきたのはシワシワになったビニールシートのみ。
それに文句を垂れると「持ってきましたよ!」とカバンからゴソゴソ出すのは

チョコあ~んぱん一箱。これを3人で分けるというのだ。
口をついて文句を言いそうになったが、これがまた美味しく、ポイポイと口に放り、安肉のバーベキューなんかよりも群を抜いて美味くて持ってきてくれたタテオとブルボンに感謝した。

腹も膨れ川で遊ぶ。
川から突き出たブロックに怖がりながらも気を付けて乗る夕べ。
開けた空はとても美しく、写真を撮りながら「僕も」と近付くと

めちゃくちゃ撒かれた。
めちゃくちゃ撒かれてタテオは濡れたズボンを気にし、かわぞえさんはキャッキャとその様子を写真に収めていた。構ってくれと思った。

そうしてすっかりと日は暮れた。
UFOでも見えないかと目を凝らしたが、そんなものは見えなかった。

僕らは明大前に戻り、もう少し一緒にいようと歩いた。
たらふく食ったがそれでも最後はラーメンで〆たかった。
なんとなく友達との1日の終わりを気持ち良く終えるのはラーメンで〆ることだと思っている。
酒を覚えたての頃、飲みに連れてってもらったバンドマンの先輩に必ず「呑んだ後はラーメンだ」と言われてきたからかもしれない。
今僕はそれを押し付けている。

かわぞえさんは2つの店を提示した。
一つは家系のコッテリ。もう一つは個人経営の醤油アッサリ。
悩んだ結果アッサリの方に行くことにしたのだが、ここが全く美味しくなかった。
化学調味料を使ってませんと謳う店の味は薄く、これならガンガンに化調を使って美味くしてほしいと思った。
思ったしかわぞえさんに言った。
「ここは駅から近いという地の利だけでやっている」とも言った。
「ふざけやがって」とも言った。
「せっかく楽しかったのに台無しだ」とも言った。
「髪を切れ!」
とも言ったかもしれない。

「つけ麺は美味かったですよ!」
と言うタテオに「うるせぇ!」とキレ散らかした。


そうして駅で別れ帰路に着く。
楽しかった分他のことも頑張らないとと思うが、優先順位を付けることが苦手で何も手に付かないまま時間が過ぎる。
やりたいこととやらなければならないことの天秤がバカになっていて、どちらもやらず勝手に自分を追い込んでいる。

目を背けている日々の生活もどうやら無理が祟ってきて、このまま生きるのはさすがに厳しいかもしれないと、炊けばいい米を炊かずコンビニで弁当を買ってまた生活を逼迫している。

母親がくれたQUOカードに穴が開くたびに脂汗をかき、クレジットの残高不足は更に心の余裕を遠ざけた。

お笑いは良い。お笑いをやることに金はかからない。
ネタを書くことも、稽古することも、YouTubeを撮ることもこうして駄文を書き晒すことも金がかからない。
それなのにこうして金が無い。ただの自分の怠惰である。
いつまでこれと付き合うのか。もっと上手に付き合えたら。否、そもそも別れたいと強く思う。

窓を開けると思いのほか入って来た風が冷たくて長袖に着替えた。

このくらい、気軽に適応できたら。



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