見出し画像

【最終回】昭和、渋谷で、恋をしたり 3-13

前回のあらすじ(3-12)
泰輔を羽田空港まで迎えに来た夏奈恵と、空港で楽しいひと時を過ごす。帰りのモノレールの車内で、泰輔は夏奈恵に宛てて手紙を何通も書いたが、1通も返事がないことを思い出し、尋ねてみるのだが…
▶︎目次をみる ▶︎あとがきを読む


届かない手紙


こうして夏奈恵と交際を始めることができたから、忘れていたことがある。
それは「手紙の返事」がないことだった。


「好きだ」と気持ちを伝えた時、夏奈恵には「無理だと思うけど」と一蹴された。


それから落ち込むばかりで、何も手につかなくなった私が唯一夢中に慣れたこと、それが手紙を書くことだった。


もちろん私を振った相手に宛てた手紙だから、返事なんて期待はしていなかった。
手紙にもそう書いていたが、もしも、また振られていたらと思うと、立ち直るまでどれほどの時間が必要だったのか、想像もつかない。


でも、夏奈恵とは結ばれた。


喜びに溢れ、有頂天の日々が続いていたおかげで、一度は振られたのに、どうしてOKになったのか? そんなことは気にしていなかった。


おそらくは「手紙攻撃」が効いたと思い込んでいたが、夏奈恵が返事をくれたことはない。


手紙をもらったら返事を書く。


それは当然のことではないか?
それなのに、こちらから返事をオーダーするのは違うのではないか?


携帯やスマホで言えば「既読スルー」だけされて、ブロックはされないという不思議な状態が何ヶ月も続いたのだ。

その真意を聞きたいと思ったのだ。


「返事ないけど、手紙読んだ?」


「手紙?」


「いや、いっぱい書いたやん、去年」


「ああ、ロッカーに入れてたやつ?」


夏奈恵の返事はあまりにも軽かった。


「返事もないし、会っても手紙の事とか話したことないから?」


「え?。だから『手紙読んだよ』って電話したじゃん


「そうだけど、なんて言うか、手紙いっぱい書いたし」


「何? 褒めてほしいの『感動した!』とか?」


夏奈恵は微笑みながら、「私、手紙とか文章書くの苦手だし」と続けて、またさらに笑うのだ。


「苦手だとしてもさ……」


「それに『返事は無理して書かなくていい』とか書いてたじゃん。だから良かった〜て思ったもん」


「そうだけど、だけどさ……」


「もういいじゃん、こうして仲良しなんだから」


夏奈恵の右手が、私の左手に手をかぶさった。


「うん……」



夏奈恵が手紙の話題に幕引きを図ろうとしていた。どうしてそんなに嫌がるのかわからなかった。

だけど、こうして仲良くしていることを壊したくない気持ちも湧いた。
そんな私の思いを慮ったのか。夏奈恵は私の手を握って続けた。


「私ね、これからの話をしたいの」


「手紙は昔のことだから忘れちゃう?」


「忘れないよ。忘れたくないし。でも泰輔とは未来の話をたくさんしたい」


「未来の話って、例えば?」


「明日も来週も、来年も10年後も未来でしょ?」


「そうだね」


「今日だって空港に行くって決まってから、すごい楽しみだったんだよ。わかってないと思うけど……」


「それはオレだってそうだよ」


「ねえ、私と付き合う条件、覚えてる?」


江ノ島のあの日のことは、よく覚えている。
あの時の夏奈恵の表情も。


「うん、夏奈恵より長生きする」


「そう。信じていい?」


「うん、頑張る」


「頑張るじゃだめ」


「うん、夏奈恵より長生きする」


「じゃあ、これからよろしくお願いします」


夏奈恵は小さく頭を下げ、私の左手に両手を添えた。


「いや、こちらこそ」


「これからの話をたくさんしようよ」


「うん」


「これからどうするの?」


「あ、オレ、3月中に寮出なきゃいけないんだよ」


「それで?」


「一緒に住まない?」


「どこに住むの?」


「これから一緒に考えたいと思って」


「未来の話だね。楽しそう」


そして、モノレールは終点の浜松町に到着した。


「さあ、着いたよ」


夏奈恵は私の手を繋いで、席を立った。


山手線へホームを目指して下りのエスカレーターに乗りながら、夏奈恵を一段上から見下ろしていると、愛おしく、今にでも抱きしめたかった。
夏奈恵から手を繋いでくれたのが初めてだったからだ。


だから、私には届かない手紙が、私と夏奈恵の明日を繋いでくれている。
そう信じることにした。


でも、エスカレーターを降りて山手線のホームで電車を待つ間、もう一度尋ねてみた。


「やっぱり手紙の返事はくれないの?」


「しつこい」


画像3

おわり

画像2


【あとがき】はこちら


画像1

投げ銭、お待ちしています!笑


ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
面白かったよ!と感じてくださった方へ「投げ銭」のおねだりです笑


とはいえ、私がもらうだけでなく、
私からもお礼ができる企画を考えました!


ここから有料とさせていただきますが
投げ銭キャッシュバック企画へご参加いただければ
嬉しいです!😀

ここから先は

255字 / 2画像

¥ 150

サークル参加費に充てさせていただきます!もし少し余ったら執筆時のコーヒー代にします🤗