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水戸戦で思った6つのこと



ポポヴィッチのスタンス

まず触れておきたいのは、ポポヴィッチはこの水戸戦を本気で勝ちにいっていたということ。そのことは前日のコメントからも伺うことができたし、試合中の振る舞いからも感じることができた。今季の鹿島は基本的にはアップテンポで試合を進めていくスタンスだが、ポポヴィッチは前半の終わり際と後半の残り10分を切ってからは急いでプレーすることを求めず、むしろテンポを落として確実に時計の針を進めることを求めていた(ラストプレーのコーナーキックに至っては、パレジにコーナーフラッグでキープするよう求めていた)。もちろん、メンバーのやりくりや試したいことなどこの試合ではいつもの公式戦に比べてエクスキューズが多かったのも事実だろうが、その中でもポポヴィッチはこの90分間で勝ち切ることに強いこだわりがあったように思う。

これにはいくつか理由があると考えられる。まずは、公のファンの前で見せる初めての実戦で結果を残し支持を得ることで、今後のチームマネジメントをやりやすくすること。そして、チームとしての自信を掴むことだろう。今季の鹿島はかなり強度の高いプレーを個々に求められている。その強度の高さを発揮するには、どうしたってそれをやろうとするモチベーションは不可欠だ。大変だけどこれをやっていけば勝てる、そう信じられる根拠が欲しいのだ。その根拠の一つとして、この水戸戦の勝利というのが必要だったのだ。

1-0という結果について

そうした中で、鹿島は1-0の完封勝利という結果を得た。求めていたものを出せたことについては満足だろうし、もっと点数を取れるチャンスがあったことや後半のパフォーマンスについては反省点があるかもしれない。その中で自分が思ったのは、「上手くいきすぎてしまった試合だった」ということだ。

どういうことかというと、この試合鹿島にとってはあまりの負荷の少ない試合だったということだ。最終ラインに激しいプレスを仕掛けられることもなければ、ベタ引きされることもない。個々の勝負では基本的に自分が上回ることができるし、こちらがプレッシャーを掛けるとイージーミスでボールを渡してくれることも数回あった。鹿島としては自らのやりたいプレーをやりやすい状況だったし、自らがあまり得意ではないプレーやまだ未知数なプレーを求められる状況になることがほとんどなかった。

ただ、水戸戦のような試合はシーズン中で1試合あればいい方だろう。J1リーグという舞台ではもっと相手の個々のレベルが高いし、自分たちの得意なプレーはやらせてくれないし、自分たちの苦手なプレーをやらせようと仕向けてくるような相手ばかりだ。そう考えた時に、そういう相手と対戦した時に今の鹿島がどこまでできるのかという部分は、この試合ではあまり計ることができなかったし、この状況のままで開幕に突入することになるので、おそらく本当に出たとこ勝負になるだろうと思われる。

もちろん、水戸からしてみればそんな鹿島の事情を推し量って試合する必要は全くないし、水戸には水戸の事情があるのでそれは尊重すべきであり、決して批判する意図がないことは言っておきたい。鹿島よりキャンプ期間が長く、コンディションが万全でない部分もあったこと、ここ2年鹿島に勝っておきながら開幕ダッシュに失敗していること、まだ開幕まで2週間あることを考えれば、この試合はキャンプでやっていたことを継続しながらそこのトライ&エラーを確認する場にして、この試合でどう解決して勝利に持っていくかということは二の次に置いていた、というような試みは十分に理解できるからだ。

チャヴリッチについて

上記のようなことを踏まえると、この試合でデビューした濃野や津久井、初めてボランチで出場した知念にも手放しで褒めるというのは難しい部分がある。3人ともプレーは決して悪くなかったし、特に濃野は攻守にソツのないプレーを見せたことで開幕スタメンがかなり有力視されるであろうパフォーマンスだった。だが、それは彼らが未知数な状況に追い込まれなかったからという部分が大きく、その追い込まれた状況でどれくらいやれるのかという部分は見えてこなかったから、というのは否めない。

そうした面ではチャヴリッチにも同じことが言えそうだが、個人的には彼についてはかなりやりそうだなという印象がこの試合だけでも持てた。まず、単純に速いし上手い。初速の時点では図抜けている感じはないが、そこからグングン伸びてくる。単純な裏抜けだけでブチ抜く部分もあったので、彼の個の力だけで点を取ってくることも期待できそうだ。また、足元の技術も悪くなく、ボールロストも少ない。相手を背負ってのプレーはそこまで得意そうではないが、流れの中でポストプレーに加わるあたりはソツなくこなしていた。その上で、おそらく自分のゴールを決める型を持っており、そこに持ち込めればかなり強い。最初のゴールが早い段階で出れば、量産してくれる期待値を持てそうだ。

懸念されるのはスタミナ面とどこまでハードワークを求めるのか問題だろう。水戸戦はまだコンディションは30%くらいなのだろう、前半の半ばですでにキツそうだったし、おそらく開幕までに万全になるのは難しいだろう。そうなると、「チャヴリッチは90分持たない」ということを前提にゲームプランを組む必要があるし、その上で彼にどこまで守備のタスクをやらせるのかということを考える必要がある。水戸戦では開始早々からかなりチームが求めるプレッシングを頑張ってやってくれたがそれを引き続き求めるのか、それともプレッシングは控えめにしてでもそこの負担は一旦取り除いて、代わりに長い時間プレーしてもらって点を取ることにフォーカスしてもらうのか。判断の分かれどころになりそうだ。

藤井智也について

水戸戦で樋口の決勝ゴールをアシストしたのは藤井だった。アシスト以外にも立ち上がりから自慢のスピードを活かしてサイドを切り裂き、ゴール前に迫るシーンはかなりあったが、それでもハーフタイムで下がる結果となってしまった。

まず、藤井がスタメン起用されている理由だが、個人的には優磨の離脱と関係があると思っている。ポポヴィッチは前線の選手に求めているタスクをこなせる選手を好んで起用しながらも、その中でうち1人は独力で打開できる力を持っている選手を置こうとしようとしているのではないか、という仮説が個人的にはある。ショートカウンターと連動性だけで相手の守備陣形が整う前に崩し切るのがポポヴィッチスタイルの基本形だが、当然それだけでゴールが奪えるわけではなく、引いた相手からゴールを奪うことも求められるシーンもある。その時に、ポポヴィッチは優先順位的にそこをじっくり形を仕込むことでゴールを狙うことに注力するのではなく、その時間を他のトレーニングに注ぎ、解決は多少個の力で無理やりこじ開けることに頼ってもいいと考えていそうなのだ。

そこで元々考えていたのが優磨の強さ・高さであったのだが、キャンプで負傷してしまい離脱。チャヴリッチは未知数な部分が多くそこを計算に入れるのは尚早な上で、アタッカーのどこかに強力な個の力を持つ選手を入れたい。そこで白羽の矢が立ったのが藤井の「速さ」なのだろう。相手の守備が堅い時、中々自分たちの形が作れない時に、藤井のスピードを使うことでそこを打開点に崩し切る。そうした期待が藤井にはあるし、水戸戦ではその期待には応えるパフォーマンスだったと言っていいだろう。

だが、一方で藤井には自分の型にこだわるきらいがあり、状況に応じてポジショニングを柔軟に変えたり、パスコースに常に顔を出すような動き出しはあまり得意としてはしておらず、その点は練習からポポヴィッチにかなり指摘されている部分でもあり、水戸戦でもポポヴィッチはそこを気にしていた様子だった。水戸戦では単純な速さだけで局面打開できてしまっていたため、こうした課題の部分がマイナスに出ることはなかったが、PSMでそこに頼り続けることはチームのためにも本人のためにもならないし、逆に藤井が出続けていればそこを使えば崩せるのがわかっているため、どうしたって藤井の速さを使うことになる。だからこそ、藤井を前半だけで代えるという決断に至ったのではないだろうか。

藤井にしてみれば、今のうちに結果を出したいし、課題の部分を上手いこと解決したい。そこができないと、優磨復帰後に個の力としての優先度が下がることも考えられるし、同じく速さを武器とする松村に取って代わられるかもしれない。勝負の時間になっている。

キーになりそうな2人について

水戸戦で特に良いプレーをしているなと思った選手が樋口と安西であり、この2人が個人的には今季の鹿島の戦術的にはキーになりそうな予感をさせていた。

樋口雄太

樋口については、どのエリアでプレーさせてもクオリティの高いプレーができるのが大きいし、その中で今季はできるだけ高い位置でプレーさせられるかが重要になるだろう。ボールスキルが高いうえに、献身的で、戦術理解度も高い。組み立てで困った時はサポートとして顔を出すこともできるし、局面を変えるパスも出せるし、ゴール前に走りこんでフィニッシュに関わることもできる。ポポヴィッチスタイルに欠かせないリンクマンの役割を担う1人は間違いなく樋口になりそうだ。

そうした部分で水戸戦のゴールはある意味理想的な形だった。相手のミスからショートカウンターに移行したが、藤井のところに渡ったところで流れとしてはちょっと詰まりかけてしまっていた。そこで3列目からゴールには仕込んできてパスを引き出し、シュートを確実に仕留めた樋口のプレーは大きな意味があるし、ああやってゴール前にどんどん後ろから飛び込んでいくプレーはポポヴィッチが好むプレーそのもの。樋口がああいったプレーからゴールやアシストを伸ばせれば、チームにとっても良い流れを生んでくれるはずだ。

安西幸輝

スペースを見つけてそこに素早くパスを出していく、縦にどんどん走りこんでいくという意味では安西も良いプレーを見せていた。とにかく第一選択肢は縦、というのが安西の思考をシンプルにしているのだろう。迷いがなくなっているし、安西の良いところは自分が走りこんだ結果使われなくても、何度でも同じ動きを繰り返すことができること。急がなくていい時は無理をしないし、チームが苦しい時でも走れる。そうした安西の姿勢に助けられることは今季少なからずありそうだ。

ただ、欲を言えばそのプレーをゴールやアシストといった結果に結び付けたい。水戸戦でもプレー自体は良かったが、クロスが一本でも繋がっていれば尚良かったし、シュートも枠に飛ばしたかった。今季の鹿島は昨季よりもサイドバックの数字が伸びてくるサッカーをしているし、そこが結果に現れるか否かのカギを握っている。鹿島復帰後まだゴールのない安西の一発にも期待したい。

途中出場の選手について

一方で、物足りない出来に終わったのが途中出場の選手たちだ。チームに合流してまだ一日しか練習できておらず、ぶっつけで45分こなした佐野海舟は良い意味でそこまで気にする必要はないが、それ以外の選手たちは空回りするシーンが目立ち、それぞれの良さをアピールするには至らなかった。

この点については個々がそれぞれもっと頑張れという話には結論なってしまうのだが、一方でエクスキューズは考慮する必要がある。それは練習で主力組とサブ組の序列がハッキリと分かれている点。実戦形式の練習から主力組は固定されているため、彼らの中での戦術理解度は予想以上に浸透している。それは水戸戦のパフォーマンスにも表れていた。その一方で、主力組でない選手たちとの差は事実広がってしまっている。これはそうしたマネジメントを選択している以上、仕方のない話ではある。

この状況に途中出場の選手たちは少なからず焦りがあるのではないだろうか。状況打開に一番良いのはやはり良いプレーを見せてアピールすること、練習はもちろん試合はその絶好のチャンスである。だからこそ、水戸戦での彼らは目に見える結果を欲しがった。ただ、冒頭でも書いた通りチームの結果にこだわっていたポポヴィッチは1-0のまま試合を締めることを求めた。そこのギャップが空回りに繋がってしまったと個人的には思うのである。

このような現象は今後も起こり得そうであるし、特にメンバーを入れ替えた試合ではこのあたりのマネジメントを上手くしていくことがより求められることになるだろう。アピールしたい選手たちの欲をいかに上手く活かしながら、チームとしての勝利を掴むためのプレーを求めていくのか。ポポヴィッチおよびコーチ陣、スタッフの腕が試される部分だ。


遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください