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【ゴラッソで解決】明治安田生命J1 第31節 横浜F・マリノス-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節は退場者も出して、名古屋グランパスとの上位決戦で完封負けを喫した鹿島アントラーズ。ケガ人も増えてきており、上位争いに踏みとどまるためにはここが正念場だ。今節は中2日でのアウェイゲームとなる。

鹿島を迎え撃つのは7位横浜F・マリノス。今季はACLとの兼ね合いもあり、22連戦という過酷な日程を強いられている。リーグ戦ではここまでリーグ2位の58得点と攻撃陣は相変わらず健在ぶりを見せるが、一方で47失点と守備に課題を抱えており、連覇の可能性はすでに消滅している。前節もアウェイでサンフレッチェ広島に1-3と敗戦。今節はそこから久々に間隔が空き、中5日での試合だ。

なお、両者は第5節で対戦。鹿島は立ち上がりに上田綺世のゴールで先制するも、横浜FMもマルコス・ジュニオールのゴールで同点に。しかし、その後鹿島は上田とエヴェラウドの来日初ゴールで加点。横浜FMに1点差に追い上げられるものの、最後は途中出場の白崎凌兵がダメ押し点を決めて、鹿島が今季初勝利を飾った試合となった。

前回対戦時のレビュー

スタメン

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鹿島は前節から2人変更。2列目に荒木遼太郎とエヴェラウドを置き、前線には上田を起用した。また、前節アップ中に負傷した三竿健斗は大事に至らずベンチ入りしている。

横浜FMは前節から6人変更。畠中槙之輔が出場停止のセンターバックには伊藤槙人が入り、松原健を右サイドバックで起用して、小池龍太が左サイドバックに。中盤は全員入れ替え、喜田拓也と扇原貴宏のボランチに、トップ下はマルコス・ジュニオール。前線は右サイドに水沼宏太が起用された。

鹿島に立ちはだかるチアゴ・マルチンス

序盤は鹿島が自らの強みを活かして押し込んでいく形が目立った。起点となったのは左サイドだ。最前線にいた上田と今節は左サイドに入ったエヴェラウド、横浜FMのボール保持者に対するプレッシャーが緩かったのも手伝って、鹿島は彼らにシンプルにボールを入れてパワーを活かそうとした。

だが、横浜FMもやすやすとやられることは許さなかった。立ちはだかったのはチアゴ・マルチンス。Jリーグでも屈指のスピードと対人の強さを併せ持つ彼に、この試合の鹿島は終始手を焼き続けることになった。特に対人で苦しんでいたのが上田。チアゴは彼にボールを入れることは許しても、そこから前を向くことは徹底して許さなかった。

鹿島としては、自分たちにプレッシャーがあまり来ない、相手がハイラインなので裏にスペースがある、という状況なので一発で相手ゴールに迫るべく序盤から積極的にシンプルなロングボールを増やしていたのだが、それをことごとくチアゴの力業で止められる、という流れが前半半ばまで続くことになった。

お手本通りに崩される

立ち上がりからシンプルなロングボールで自陣深くまで押し込まれていた横浜FMだが、徐々に自分たちのペースに引き込んでいく。

ペースを握り出した大きな要因はボール保持だ。横浜FMのボール保持は個々に明確なタスクを与えるというものよりも、チームとして明確なポジショニングがあり、そのポジショニングを各自が確実に取ることが求められている。要はそのポジションにさえ誰かが入っていれば、そこに誰が入ろうと大きな問題ではない、というものである。

これは鹿島のプレッシングから考えると非常に相性の悪いボール保持の方法だ。鹿島のプレッシングは基本的に各々がプレスを仕掛ける相手が決められている。相手のセンターバックにはFW、サイドバックには2列目、という具合にだ。だから、横浜FMのようにボランチの位置にサイドバックが立ったり、センターバックの位置にボランチが立つようになると、マークを受け渡していくのか、そのまま付いていくのか、という部分で迷いが生まれるようになる。鹿島は前回対戦時も横浜FMのボール保持に大いに苦しんでいたが、今節もその様子は変わっていなかった。

そんな鹿島を尻目に、横浜FMは確実にボールを前進させていく。ある程度まで前進させれば、あとはサイドアタッカーの突破力を活かしてサイドから切り崩して、中央で仕留める。そんな横浜FMの理想形の崩しを、鹿島は2失点ともその形から喫してしまった。

1失点目は最後に水沼がシュートするまで、基本的にボールホルダーにプレッシャーが全く掛かっていない状況だった。アシストした小池は本来荒木がマークに付くはずだったが、荒木はポジションを下げた扇原のケアにスライドしており(そのスライドも曖昧だったが)、結局は永木亮太が遅れてカバーに行く羽目になっている。結果、全てのチャレンジとカバーが遅れた結果、横浜FMにあっさりとボールを運ばれ、シュートまで持っていかれてしまった。

2失点目はマルコス・ジュニオールがサイドに展開する前に止めておかなければならない場面だろう。サイドに渡った段階で、3対2と鹿島は数的不利に陥っており、しかも横浜FMのアタッカー陣は完全にスピードに乗っている状態だった。マルコス・ジュニオールに最終的にチェックに行ったのは小泉慶であり、ボランチの永木もレオ・シルバもカバーに備えていたが、あそこは位置的にファウルで止めても致命的にならないと考えれば、すでにイエローカードを貰っている小泉ではなく、永木やレオ・シルバが潰しにいく局面だったのではないかと思える。

脈絡なき上田綺世

攻撃の形は作れているものの力業で止められ、相手の攻撃は止められない、30分までの鹿島はそんな最悪の流れだった。しかし、鹿島はワンプレーで逆に力業で横浜FMを崩し切ることに成功する。

左サイドでボールを受けた永戸勝也から、引いてきた土居聖真にボールが渡ると、土居は裏へとロングボールを供給。これを上田が見事なトラップで収めると、そのままゴールネットへと沈め、鹿島は反撃の狼煙を上げた。

横浜FMとしては、この試合通じて守備のプレッシャーが緩く、この場面でも永戸にも土居にもプレッシャーはほとんど掛かっていなかった。それを考えればこうした展開になるのも致し方ないともいえるが、それにしてもこの一発で仕留められるのは中々に理不尽だろう。このゴールは本当に脈絡ゼロで決まったものだった。

鹿島としては裏への一発を狙い続けていたのがようやく実った形だった(もう少し簡単な局面もあったのだが)。理由としてはチアゴ・マルチンスを上手く外したのが大きい。このゴールの前から上田は勝算があると考えたのか、左サイドではなく右サイドの伊藤槙人を相手にするようになっていた。その上田のポジションに入ったのが土居であり、彼はチアゴ・マルチンスがチェックに出てこれないポジションでボールを引き出し、そこからパスを供給した。各々がより可能性の高い一発を求めた結果が、このゴールを生んだともいえるだろう。

相手の強みを消した遠藤康

後半開始時~

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1-2で前半を折り返した鹿島は、ハーフタイムで選手交代。荒木を下げて遠藤康を前線に投入。土居を2列目に回した。

結果的にこの交代が吉と出た。遠藤は自分が下がってボールを引き出し、そこでタメを作ってからボールを前進させていく。前半はあまりにも裏が狙えたためにシンプルなロングボール一辺倒になりがちだった攻撃に、変化を加え始めたのだった。

こうなると、前半は通れば一発でゴールに繋がるが単発で終わりやすい攻撃だったのが、後半は手数こそ必要だが連続して繰り出すことの出来る攻撃に変わっていく。横浜FMはこの試合終始守備時のプレッシャー不足が目立っており、遠藤をあまりにも自由に振る舞いさせすぎていた。

チーム全体で押し込めるようになったことで、鹿島は相手の攻撃機会を削っていくことにも成功した。ボール保持から攻撃でチャンスを作る→奪われたらすぐに即時奪回に動く→奪い返してまた攻撃、という流れが後半の鹿島は続くようになったのだ。

横浜FMとしてはボール保持することなく、鹿島の攻撃をはね返せれば、前線のアタッカーを活かしてカウンターでトドメを刺せると考えていたのだろう。実際、そうなりかけた場面も何度か作っている。69分のカウンターで持ち込んで、エリキがカットインからシュートしたシーンはその理想形のような形だろう。しかし、そうした局面で決められなかったことが横浜FMにとっては結果に大きく響くことになってしまった。

逆に横浜FMの攻撃をカウンターからの一発に抑えたことで、後半の鹿島は相手の強みを消し、守備時の弱みをさらけ出し続けることが出来た。後半の2得点はどちらもスーパーゴールではあるが、どの局面においても鹿島のボール保持者に対してはプレッシャーがほとんど掛かっていない。横浜FMはあまりにも鹿島の攻撃陣を自由にさせすぎていた。

とはいえ、鹿島の交代策や選手起用がハマったのも事実だ。2点目はエヴェラウドを左サイドで起用したことで彼の強みを活かし、パンチ力あるシュートを引き出した。3点目は前線のターゲットを増やすことで、伊藤翔がサイドに流れても上田やエヴェラウドがターゲットとなることで中央の人員を担保することが出来るし、彼らが相手守備陣を引き付けることで遠藤はフリーになることが出来た。

結局、終盤の2ゴールで逆転した鹿島はそのまま逃げ切ってタイムアップ。今季2度目の2点差からの逆転勝利を挙げた鹿島は連敗を阻止、上位争いに踏みとどまった。

まとめ

前半の悪い流れのまま、ズルズルと連敗しなかったこと。これが今節一番の収穫だろう。次節が首位の川崎フロンターレ相手ということを考えても、この勝利の意味は小さくない。

だが、今季横浜FMにはダブルを果たしたとはいえ、守備の問題が解決されたとは言えないだけに、チームの成長が感じられたかというと疑問符の残る試合だった。後半は相手の攻撃機会を削り、数少ない相手のカウンター機会は根性で潰し切ることで解決していたが、根本的に横浜FMのボール保持をどうやって止めるかという点については、最後まで解決策を見つけ出せなかった。

個人的にはシーズンが経つにつれて、チームの成熟度の進捗を気にするよりも、徐々に勝てばどうやったっていいんや!という空気が強まりつつあるのが気になるところだ。鹿島は常に勝利を目指すチームであり、勝てばいいという空気が強まることは決して間違いではないが、今のメンバーでの最適解をすでに出し切ってしまったので、そこの組み合わせから毎試合選んでいる感がここ最近の試合からは感じられてしまう。来季のことを考えれば、もう少しチームとしての上積みを積み上げておいて、そこに新たなメンバーの融合を図っていかないと、壁にぶつかった時に解決できる術を持てなくなるような気がしていならない。

ザーゴ監督はいま一度、もう少し自身のこだわりを見せてもいいのかもしれない。7連勝していた時と違う勝ち方をしている今、優勝の可能性は消えた今、試合間隔が少々空く今、見つめ直してもいい時期だろう。

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