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鹿島のハイプレスとセカンドペンギンの話

2021シーズンも無冠に終わり、来季は新監督の下でリスタートすることとなった鹿島アントラーズ。不退転の覚悟で臨む来季は、継続的に結果を出し続けるためにもチームとしてのアップデートは必須になる。

そんな中で、鹿島はチームとしてのスタイルにハイプレスからのショートカウンターをメインとしてして置く事にしたらしい。新監督のレネ・ヴァイラーもそのコンセプトの元に招聘されたのだろう。どういうスタイルで戦うにせよ、軸を一つ置くという判断は決して悪いものではない。

だが、鹿島がこれまでハイプレスからのショートカウンターをベースに年間通じて戦えたシーズンは一度もない、というのが正直な印象だ。もちろん、2015年のナビスコ杯決勝やザーゴ体制ではそうしたスタイルで戦ってきた。しかし、ザーゴ体制でもエヴェラウドと上田綺世を前線に並べた時はミドルプレスに切り替えたように、シーズンを通してやり通したことも、機能させられたこともない、これが鹿島の現状である。

ハイプレスがハマらないわけ

ハイプレスがハマらない要因はいくつかある。一つは、(元も子もないが)選手個々のクオリティが足りていないということ。プレッシングを仕掛けているのに相手の選択肢を限定できていなければ意味がないし、選択肢を削って奪いどころを設定しているのにそこで奪えなければプレスは水の泡となってしまうということだ。

もう一つは、仕組みの段階で破綻しているということ。サッカーは11人対11人で行われ、自陣のキーパーは能動的な守備に参加できないことを考えれば、相手のキーパーが組み立てに参加してくると実質守備時は10人対11人で数的不利で守ることを強いられる。その中で前からボールを奪いにいくことを考えると、前線なのか中盤なのか後ろなのか、必ずどこかで数的同数や数的不利を受け入れて守らなければならないし、逆に相手はその数的優位を活かしてボールを前進させようとしてくる。この必至で訪れる現象をどう解決していくか、ここをロジカルに出来なければ再現性を持って高い位置でボールを奪い取ることは不可能だ。

上記二つとも繋がってくるのだが、ハイプレスのハマらない要因として一番考えられるのが連動性を欠いているということだ。せっかく最前線の選手が追って選択肢を限定しても、後ろの選手が奪いどころに寄せていなければボールは奪えないし、後ろの選手が奪いどころに寄せていても、最前線の選手が選択肢を限定できていなければ、相手は容易に回避できてしまう。ここ数シーズンの鹿島もハイプレスがハマらない時はこの連動性を欠いていることが非常に多かった。

ファーストペンギンとセカンドペンギン

では、なぜ連動性を欠いてしまうのか。この問いで個人的に考えたのがファーストペンギンという概念だ。ファーストペンギンとはビジネス界で生まれたワードである。ペンギンは群れで行動するが、決してボスやリーダーがいるわけでない。そんな中で一羽、海中に飛び込んで餌を探すペンギンがいる。天敵に襲われるリスクを抱えながらもだ。そのペンギンが無事なことを確認して、他のペンギンは倣って次々に海に飛び込んでいく。その時に一番最初に飛び込んだペンギンがファーストペンギンとなり、一番餌を獲得することが出来る。これをビジネスに置き換え、新しい分野でもリスクを恐れずに挑戦するベンチャーマインドを持った人を称えるというわけである。

サッカーでこれを考えると、ハイプレスを最初に仕掛ける選手はファーストペンギンと呼べるだろう。ボールを奪えないかもしれない、体力を消耗するかもしれない、そうしたリスクを抱えながらもボールを奪うために走る。もし奪えれば、より相手ゴールに近い位置で攻撃に加わることが出来る=ゴールの可能性が高まる、という大きなメリットを手にすることが出来る。

鹿島の現状は、このファーストペンギンがいない、というものではない。事実、荒木遼太郎やディエゴ・ピトゥカは相手の隙を狙ってハイプレスを仕掛けていた。彼らはそうした意味でファーストペンギンの役割を果たしている。問題は彼らに続くセカンドペンギンがおらず、ファーストペンギンとなった彼らを見殺しにしてしまうことだ。続けて海に飛び込むセカンドペンギンがいなければ、ファーストペンギンの勇気は無駄になり、ファーストペンギンが天敵に食われる様を黙って見届けるようなことになりかねない。セカンドペンギンの存在があって初めて、ファーストペンギンはアローンペンギンにならずファーストペンギンたり得るわけである。

セカンドペンギンが出てこない要因としては、おそらくファーストペンギンに続けて飛び込むメリットを感じられないのが大きいだろう。餌が得られないのなら海に飛び込んだってしょうがない、高い位置からプレスを掛けても奪えなくては意味がない、ロングボールを蹴られて裏を取られてしまってピンチになっては意味がない、という風に。ただ、これが続くとファーストペンギンは海に飛び込む意味を見失ってしまい、誰も飛び込まなくなってしまうという悪循環になりかねない。そうなってしまえば、チームにハイプレスを根付かせるのはいつまで経っても出来ないだろう。

セカンドペンギンを生み出すには、彼らを海に飛び込ませる強力なカリスマ性を持ったリーダーが現れるか、彼らが海に飛び込むメリットを説くロジカルが必要だ。鹿島は長らく小笠原満男といった強力なリーダーがいたが、彼はすでにピッチを去っている。そうなれば、残るはロジカルでセカンドペンギンを生み出す他はない。来季がそのロジカルを確立させるためのシーズンになることを願っている。

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