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ヴァイラーについて考えてみた

このところ、ちょっとチームの調子が下降気味なのもあって、レネ・ヴァイラー監督の手腕についてあれこれ意見が飛ぶことが増えてきた。それ自体については特に思うことはないのだが、監督が合流して3ヶ月経ち最初のフェーズは終わった感があるので、ここらで私自身が考えていることを述べておこうかなと思う。

ヴァイラーに求められていること

まず、フロントがヴァイラーに何を求めているのか、ということである。これについては吉岡宗重フットボールダイレクターが端的に答えている。

「数年結果が出ていなかったので、ヴァイラー監督に託した一番の理由は勝つため、それだけです。まず選考のフィルターにかけるのはタイトルを獲っているか獲っていないかということ。ヴァイラー監督が過去に指揮したクラブ(ベルギー・アンデルレヒト、エジプト・アルアハリ)でタイトルを獲ってきたということは何かしら勝利に対する経験を持っているということです。ウェブでミーティングしたときに、一つのことにこだわらない臨機応変さ、柔軟さがある監督だと感じました。鹿島が課題として捉えていた攻撃の停滞感を改善する術を持っているとも思います。勝ちにこだわっているという点も鹿島に間違いなく合うと思って、ヴァイラー監督に決めました」

スポニチより

ヴァイラーに求めているのは、とにかく勝つこと。タイトルから遠ざかり続けている近年の鹿島にとって、タイトル奪冠は至上命題である。数年後を見据えたチーム作りよりも、今の目の前の試合に勝ってほしい、タイトルを掴み取ってほしいのだ。ということは、ヴァイラーがすべきアプローチはオーダーに応えて、チームを勝利に導くことであり、それに比べては若手を育てることだったり、チームのベースとなる戦い方を築くこと、それを個々に浸透させることは必然的に二の次になってくる。

ヴァイラーのアプローチ

では、目の前の試合に勝つためにヴァイラーがどのようなアプローチを選択したのか。それが、強度を全面に押し出して、2トップを活かした縦に速いサッカーという訳である。上田綺世と鈴木優磨の2枚看板はJリーグの中でも屈指の破壊力を持っているし、中盤以下の面々も走って戦える選手が多い、何よりチームとして身体を張って戦うことがベースとして根付いている。そうしたことを考えれば、その良さを一番活かすやり方が勝つための最短経路だと判断したのだろう。ボールを持ったらまず前を選択する。攻撃は自由にやっていいが、手数をかけない。ボールを奪われたらすぐに取り返しにいく、相手が詰まったところを見逃さず、なるべく高い位置でボールを奪う。こうしたプレーを90分間求め続けた訳だ。

首位にも立ち、前半戦が終わろうとしている現在でも優勝争いに絡めそうな位置にいるのは、このアプローチが少なからずハマっているのが大きい。上田綺世と鈴木優磨が期待通りのプレーを見せてくれたのはもちろん、ヴァイラーの選択したスタイルがチームに合っていたのだろう。ザーゴが率いていた時のスタイルも本質的には変わらないものだったが、彼はこうしたサッカーを効率よく行うべくポゼッションの部分から手を付けるアプローチを取った。結局、ザーゴ体制ではここの浸透率が上がらなかったことで最初の段階で躓いてしまったが、対してヴァイラーが最初に求めたのはとにかく縦を意識することと、ボールに対してアプローチすることをやめないこと。単純であるが故に選手たちはやるべきことがハッキリしたのもあり、それが最初の仕込みの浸透率を上げ、ピッチでその結果が出ることを助けたのだろう。

露呈しつつある課題

とはいえ、徐々にそのスタイルにも陰りが見えてきているのは確かだ。強度の高いサッカーは必然的に選手たちにのしかかる疲労も大きい。そんな中で気候が徐々に暑くなり、連戦になってくると、強度は目に見えて下がっていった。そうした強度の落ちた時のチームとしての脆さ、また2枚看板である鈴木優磨と上田綺世を欠くと、途端にチームとして苦しくなってしまう。そうした部分の課題がこのところの試合で露呈しつつあり、思うように勝ち星を積み上げられなくなってしまっている。

特に強度の落ちた時、チームとしてプレスを剥がされた時や撤退守備に入った時の脆さはこのところの失点増に一番影響している部分だろう。サイドからボールを運ばれて、サイドバックがピン止めされているうちに、センターバックが引きずり出される。そうして空いた中央のスペースを埋めきれずに相手に使われてゴール前に持ち込まれて失点、こうした流れはここ数試合で嫌と言うほど見てきたパターンである。パターンが同じということは、明らかに相手にどうやったら崩せるかというのがバレているということである。

どう対処するのか

そんな時にどうやって問題を解決していくのか、解決の手段は様々である。課題や弱点という穴になっている部分を埋めにいくのか、ストロングな部分を伸ばすことによって穴を見えにくくしていくのか。今やっていることを更に高めていくのもアリだし、メンバーなりゲームモデルなりを変えて戦い方の幅を広げていくのもアリだろう。その中で、ヴァイラーが現状選択していることは、自分たちのストロングとしている強度の高さを徹底させ続け、自分たちの弱みをさらけ出さないような展開に持ち込むこと。課題に直接向き合って解決していくというよりは、その課題を露呈させないようなアプローチを取ろうとしている。課題となっている、撤退守備の練度だったり、引いた相手を崩すような攻撃の型の仕込みというのは、ヴァイラーの中ではそこまで優先順位が高くないようだ。

ヴァイラーの考えの根拠

なぜそうした考えに至っているのだろうか。私は、そのアプローチが目の前の試合、シーズンを勝っていくことに対して一番効率的だとヴァイラーが考えているから、だと思っている。その理由としては、まず狙いがハマった時の試合はリーグの中で確実に相手より勝ることが出来るし、実際結果も出ているから、というのが挙げられる。鹿島の個々の選手とのデュエルで勝てる相手は早々いないし、速攻を止められる相手もいない。そこを勝ち試合の中で体感としてヴァイラーは掴んでいるし、チームとしても成功体験を感じている。そうした帰るべき道がある以上、そこを軸とすべきと考えているのだろう。ケガ人もいるし、強度においてもまだまだ質を上げることが出来る。そこを高め続けるアプローチが今は一番的確だということだ。

そう考えたことにも繋がってくるが、もう一つは課題の解決にかけられる時間がそこまでないため、目の前の試合に勝つということを考えれば非効率だと考えているのもありそうだ。ヴァイラーは来日が遅れたため、自身のやりたいことを集中的に仕込む時間は取れなかったし、今季のこの先を考えてもそうした時間はないに等しい。また、編成もヴァイラー好みの補強はしたものの、初めてのJリーグで完全に自分のオーダー通りのものが組めたとは言い難い。そして、何よりこの問題がヴァイラー体制になって突如湧いたものではなく、ここ数年の鹿島がずっと抱えていた問題だということである。守備の時の個々のポジショニングや判断が怪しいのも、相手にベタ引きされると崩せなくなってしまうのも、今に始まった話ではない。そんな長年に渡って蓄積し続けた課題は小手先でどうにかなる問題でもないし、本腰入れないと解決できる問題ではないのだ。

最初でも触れたが、ヴァイラーに求められていることは目の前の試合に勝つことである。もちろん、勝つために課題解決が必要ならそれに取り組むだろうが、本質的に解決して欲しいということはオーダーに入っていない以上、そこに必要以上に目を向けなくても、勝つことさえ出来れば問題ないのである。そうなると、ヴァイラーが目の前の試合に勝つには自分たちのストロングとしている部分を伸ばすというアプローチが適切と考えている以上、その課題解決は必然的に二の次になってくる。だが、このことをヴァイラーが責められる言われはないだろう。目の前の試合に勝ってくれとオーダーを出したのも、そうした課題を長年に渡って露呈しながら解決出来ていないのも、鹿島アントラーズというクラブそのものなのだから。その問題を解決出来ない責任やそこの部分で勝ち星を逃していることについては、少なからずクラブの今までに原因があるし、それを受け止めるべきはクラブとしての問題だろう。

まあ見てみようじゃないか

個人的に思うのは、そのクラブが背負うべき問題とヴァイラーが個人として背負うべき問題がごっちゃになって批判の材料にされていないか?ということである。ヴァイラーは自分に課されたオーダーに応えられるかどうかが、良し悪しを判断すべき材料であり、クラブのこれまでの経緯やそこでのあれこれまで背負う必要は全くない。その部分はハッキリしておくべきだ。

ヴァイラーの真価が試されるのはここからだと思っている。フロントが評価しているような柔軟性を見せていくのか、こだわりを見せている強度をとことん突き詰めていくのか、というアプローチの内容自体もそうだが、彼が今後していくアプローチがピッチ上での結果にどのような影響をもたらすのか。チームの評価軸としてはその結果が出るかどうかで判断していくのだろうし、個人的にも今季の鹿島がこのまま戦い続けて、最終的にどんな成績を残すのか、何が残るのか、という部分が気になっているところである。

ファーストステップとしては及第点以上だと思っている。それでもここから先がどう出るかはやってみないと分からない。そこを見守っていきたい。

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