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東京ヴェルディ戦の雑感


良かった師岡柊生と鹿島のヴェルディ対策

ヴェルディがあまりに試合の入りで躓いたこともあり、前半8分までに2得点。この時点で試合は決まったな、と正直思った。

2得点を生んだのは師岡の存在が大きい。中でも外でもプレーができて、ボールスキルも高いし、何より相手を背負ってもプレーすることができる。前節まで課題に挙げていたプレー判断の部分もかなり良くなってきており、今のサイドアタッカーの中では間違いなく一番計算の効く存在だ。2得点目のアシストはもちろん、1得点目のPKゲットに繋がるCKを手にしたのも師岡のキープがきっかけだっただけに、その貢献度は大きかった。

鹿島のヴェルディ対策も効いていた。鹿島は普段とボランチの立ち位置を変え、知念が左・佐野が右という位置取りで臨んだ。これは右サイドに入った木村へのロングボールをセンターバックと空中戦の強い知念でサンドすることで潰し切る狙いと、右サイドハーフに入った左足の一発があり、中に絞ってプレーすることの多い山田颯を安西と知念のダブルチームで仕事させないようにして、知念が動くことが多くなる中央のスペースを佐野に防波堤役としてケアを託すという、狙いがあったように思う。

実際、木村には前半は特にほとんど仕事をさせなかったし、山田颯に至っては安西の対応が良かったこともあり、見せ場を作らせないまま60分で下げさせることに成功している。

苦労していたヴェルディとその中での鹿島の課題

ヴェルディは染野抜きで攻撃の形を作り出すのに苦労していた。普段はボールを保持することも狙いつつ、裏を狙いながらセンターバックと勝負する木村と下がり気味でボールを引き出す染野へのシンプルなロングボールも有効に使い、彼らが起点を作り出すことで相手を押し込み、攻撃機会を増やしていた。

だが、染野がいない今節、ロングボールを活用するシーンはかなり少なかった。地上戦での打開を試みていたのだが、ラインを押し下げられることのない最終ラインは一定の高さを保ち続け、バイタルでは佐野と知念が準備万端で待ち構えている。センターバックがいくら高くて強いとはいえ、そこへの勝負を避けてくれるだけで、鹿島にとってはある種勝負に勝っている。ヴェルディが鹿島を必要以上にリスペクトしてくれたことと、光明を見出すのに苦労していたことで、鹿島はかなりラクな前半を過ごしていた。

課題だったのはボール保持することであまりに時間を潰そうと早い時間から考えが傾きすぎていたことだろう。前半、ポポヴィッチが怒りを露わにしていたのは、アタッカーが前を向いてボールを受けられるスペースも余裕もあるのに、そこにボールを出さずに後ろで保持することを優先したシーン。速攻に移行でき、前半で3点目を奪うチャンスがありながらも、それを自ら潰したことは今のチームでは許されないのだろう。たしかに、今の鹿島はボールを保持し続けられるほどのチームではないし、今節は特にアタッカーの質が相手DFに対して勝負を挑めるだけのクオリティの違いがあった。なるべく相手陣内でプレーする時間を増やした方が、より失点のリスクが少ないことを考えても、ポポヴィッチのスタイルにとっては少しペース配分として誤った判断だったと言えるかもしれない。

ハーフタイムでのチャヴリッチ投入はそんなチームに、もう一回縦に速い攻撃を試みること、裏を突いていくことを伝えるメッセージだったのだろう。2点リードで特にペースを失ってない中で、選手交代のカードを切ってまでそのメッセージを伝える必要性があったのかどうかは、判断が分かれる部分かもしれないが、事実後半の頭からもう一度前に出始めた鹿島は3点目を奪い、監督の要求に応えている。この時点で、間違いなく自分たちの狙い通りに試合を進めることができていた。

選手交代よりも悪かった守備エリアの判断

3点リードを奪って余裕の出てきたポポヴィッチ。ここからの選手交代は明らかに中2日で迎える次節のことを考えたものになっていった。だが、それが完全に裏目に出てしまう。

事実、交代選手たちのパフォーマンスはかなりよろしくなかった。ただ、それでも1失点だけで留めることはできたと思う。それができなかったのは選手たちにも問題があるが、監督にも問題があると思っている。

今の鹿島はセンターラインから自陣寄りのゾーン2の守備強度が強いことが一番の武器だ。プレスの精度が多少粗くても、佐野と知念が共に広いプレーエリアと高いボール奪取力を活かしてボールを刈り取ることで、そこまで押し込まれることなく、ボールを奪い切って速攻に繋げることができている。反面、より相手陣内寄りのゾーン1でのプレスの精度は決して高くない。特に、選手交代で主力が下がって練度が低くなると尚更だ。

この状況にも関わらず、ポポヴィッチはゾーン2よりゾーン1の守備練度を強くしようとした。知念を下げて土居を入れた後、佐野をアンカーにして樋口と土居をその前に並べた4-1-4-1はその顕著な例だろう。おそらく、中盤のレシーバーを増やしてきたヴェルディに対して、高い位置から捕まえようとしたのだろうが、結果として佐野の周りのスペースが埋めきれなくなり、どんどんゾーン2の強度が落ちてきたことで、ヴェルディのチャンスは増えていった。

選手たちが状況を理解せずにスイッチも入ってないのに高い位置から追いかけようとしたことも問題だが、ポポヴィッチのスタンスはそれにより拍車をかけてしまい、結果としてバランスをセーブできなくなってしまっていた。2失点目後に土居をボランチに下げて2ボランチにしたが、あそこにも疑問が残る。土居の斜め後ろに出されるボールに対して、土居の対応は後手後手に回っており、明らかに彼のカバーエリアではケアできないところを突かれていた。ゾーン2の守備強度を考えるなら、あそこはより強度を出せる樋口の方をボランチに置くべきだったと思う。

3失点目については、チャヴリッチがゾーン守備の中でずっとフラついていたし、セカンドボールに対しては全く反応していなかった。自分の目の前にいる選手が走り込んでいるにも関わらずである。そうした部分で締められなかったことが結果、大きな損失を生んでしまった。

プレーだけが問題ではない

今後の試合のことを考えて、早めに選手交代のカードを切ったことは理解できるし、そもそもポポヴィッチの考え方を踏まえれば、判断自体は良し悪しを別にして理解できないわけではない。今節はその判断自体が裏目に出たのは言い逃れできないほどに間違いないが。

今節の途中出場選手たちのクオリティに問題があるのは間違いないが、それでもヴェルディより人件費をかけてメンバーを揃えている時点で、そのメンバーで勝たなければいけないのは間違いないし、ポポヴィッチには監督としてそれが求められている。それで結果勝点を落としてしまったのだから、今節の監督としての責任は大きい。それを認める試合後コメントを出していたのは、マネジメントとしての振る舞いだろう。

一方で、そうした振る舞いをするのは、この状況においてもベンチメンバーに代わるメンバーがベンチ外の選手たちにあまりいないというのが大きいのかもしれない。だから、ポポヴィッチはその選手たちを使い続けているし、あまり強くは責めないのかもしれない。これはベンチ外の選手たちのアピールにも問題があるし、もっといえば自力で出てくる若手以外を育てられず、戦力の最大化に至っていない、クラブの体制としての問題もあると言える。

いずれにせよ、ここで勝点2を落としてしまったことで、どこかでそのカバーは必須となる。次節の広島戦は中2日でのアウェイゲーム、3バックの強度の高い相手という難しい条件が並ぶが、今節で早々にメンバーを入れ替えたことで(あげくそれで失敗したことで)、連戦は言い訳にできなくなった。厳しい中でも、強度を出し切って勝点を掴み取らなければならない。

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください