見出し画像

【クラッキの真骨頂】明治安田生命J1 第18節 鹿島アントラーズ-湘南ベルマーレ レビュー

戦前

前節はセレッソ大阪との上位決戦に競り勝ち、6連勝を果たした鹿島アントラーズ。今節は中3日でのホームゲームだ。

迎え撃つのは湘南ベルマーレ。前々節はガンバ大阪に勝って今季2勝目を挙げたものの、前節は清水エスパルスとの裏天王山に0-3と完敗。最下位となって、今節を迎える。鹿島と同じく、中3日での試合だ。

なお、前回対戦は7月。湘南のホームで行われたゲームだったが、その時はセットプレーから石原直樹が決めたゴールを守り切った湘南が1-0で勝利。鹿島は連勝を逃し、湘南は今季初勝利を奪った試合となった。

前回対戦時のマッチレビューはこちら

スタメン

画像1

鹿島は前節から4人変更。左サイドバックに古巣対戦となる杉岡大暉、三竿健斗が出場停止のボランチにはこれまた古巣対戦となる永木亮太が起用され、2列目には荒木遼太郎、前線には遠藤康が入った。

湘南は前節から1人変更。岡本拓也が右ウイングバックに入り、最終ラインにはこれがリーグ初スタメンとなる大卒ルーキー舘幸希が起用された。

湘南のボール保持

試合の入りに成功したのは湘南の方だった。その理由としては、湘南がボール保持の際に2つの形を上手く使い分けていたことにある。

画像2

画像3

そもそもの形として湘南は3バックで組み立てを行うため、鹿島の2トップに対しては数的優位を作ることが出来る。この状態なら、ボールを前進させることはそんなに難しくない。

一方、鹿島としてはなるべく高い位置でボールを奪いたいため、この状況に指をくわえている訳にはいかない。そこで2列目のどちらかが前線に出てくることで、湘南の3バックと数的同数の形を作り出そうとする。

これに対して、湘南はアンカーの金子大毅が最終ラインに降りる形で対応。こうすると鹿島の前線3枚に対し、湘南は後ろが4枚と再び数的優位を確保できることになる。鹿島が形を変えるなら自分たちも形を変え、鹿島が形を変えないなら自分たちも変えない、こうした後出しジャンケンのような振る舞いを見せることで湘南はボールの前進に成功。立ち上がりの主導権を掴んだのだった。

いつもと違う鹿島の攻撃

それでも5分の松田天馬のシュートを沖悠哉の好セーブで防ぐなど、鹿島が守備の踏ん張りを見せると、徐々にペースは鹿島のものになっていった。

画像4

ペースの移り変わりとともに鹿島はボール保持の色を強めていく。鹿島は永木が最終ラインに下がって後ろは3枚で組み立てを行い、遠藤が下がってパスの受け手になることで、ポゼッションを安定化させようとした。

これに対して湘南は基本的に撤退守備で対応。陣形は崩さず、5バックも3センターも極端に前に出ていくことはしなかった。まず、後ろを安定させたいという狙いもあるのだろうし、鹿島の即時奪回を警戒して中盤から後ろに人数を掛けておきたいという思いもあるのだろう。湘南のこうした姿勢もあり、鹿島もボールの前進にあまり苦労している様子は見られなかった。

しかし、連勝中の鹿島と今節が違っていたのはあまり裏を狙ったボールが増えてこず、丁寧に繋ぐ局面の方が多かったということだ。もちろん、裏へのボールが全くなかった訳ではなく、エヴェラウドのパワーを活かすようなボールは蹴り込んでいたが、逆に言えばそれくらいで自らボールを一度手放すようなプレーはかなり控えめになっていた。

これが意図したものなのかそうでないのかは分からない(試合後のコメントを見ると、ザーゴはこうした選択に若干ご不満のようだが)。ただ、連戦での疲労度、前線の面々の特徴や攻守の切り替えの部分を長所とする湘南が相手ということを考えれば、そこまで悪い選択でもないように思える。特に、湘南を意識したというのは大きいのかもしれない。中盤に人数を揃え、少ない人数でも一気にゴール前に持ち込もうとする湘南と即時奪回合戦に持ち込むのは、必ずしも上手くいくとは限らないし、消耗度も大きいからだ。

ということで、鹿島は前半のボール保持率が65%を超えていたように大半の時間はボールを持って攻めの時間だったのだが、その割にはあまり決定機を作り出せないまま、スコアレスで前半を折り返した。

トレードオフで攻め込む鹿島

後半に入ると、鹿島は徐々に変化を見せ始める。大きく変わったのは陣形のバランスの部分。最終ラインはあまりラインを上げず、アタッカーたちは前線に張り付く。言わば、自ら間延びした状態を作り出したのだ。

通常、間延びした状態はサッカーではあまり良いとはされていない。捨てているスペースならともかく、自らの選手たちの間にスペースを作り出してしまうことは、相手にそこで自由にプレーさせる可能性を上げることにも繋がっており、相手の得点の可能性を上げることにもなってしまうからだ。

だが、鹿島はこの状況をあえて作り出していた。理由は湘南をおびき出すため。5バックと3センターで引きながら守る湘南にわざとスペースを与えることで、得点の匂いをちらつかせて、前に出させる。鹿島としてはそこで攻めに出てくる湘南を抑えなければならないというリスクこそ生まれるものの、そこを抑えることが出来れば相手が前に出てきたために空いたスペースを使えるため、より得点の可能性を上げることが出来る。鹿島の選択は決して無謀な訳ではなかったのである。

こうして、後半立ち上がりから空けさせたスペースを使って攻勢に出る鹿島。スペースが出来てきたことで、徐々に荒木らアタッカーたちが各々の個性を発揮するシーンが増えていき、鹿島の得点の匂いが強まっていく。ザーゴ監督はこの勢いをより強めようと、染野唯月を用意。スペースの空いた染野が活きる展開で、よりテンポを上げようと目論んでいた。

湘南の反撃とザーゴの修正

しかし、61分のワンプレーで流れが変わる。組み立ての段階で犬飼智也がボールをカットされると、そこから湘南のカウンターに。最後はクロスを石原直樹にヘッドで合わせられあわや失点の大ピンチだったが、これがポストに阻まれこぼれ球も沖がセーブしたことで、ここでは何とか失点を免れたがここから湘南が再びリズムを作り出す。

湘南がリズムを作り出せたもう一つの要因として、2トップの存在が大きいだろう。キープ力とクロスのターゲットとして存在感を見せる石原直と裏へのスピードやドリブルが効果的だった松田天馬。湘南は彼らの個の力によって、少ない人数でもゴール前まで迫ることが出来ていた。

手にした流れを再び失いかけてしまっている鹿島。この状況を見てザーゴはすぐさま動く。70分、ファン・アラーノと久々の出番となる名古新太郎を投入。切り替えの質の高さはチームNo.1のアラーノを入れて強度を上げ、もう一度攻勢に出る中でさらに質を上げようと名古も入れる。選手交代に明確なメッセージを持たせることで、ザーゴはこの試合で3ポイントを狙いにいくという姿勢をより強調したのだった。

ラストで見せたアラーノ

選手交代によってリズムを取り戻した鹿島は再び攻勢に出る。その中で中々肝心のゴールが奪えなかったが、攻勢は最後の最後で実ることになった。

アディショナルタイム、右サイドでボールを持ったアラーノがワンツーで中央に侵入すると、楔のパスを入れる。これは相手にカットされてしまうが、アラーノは素早い切り替えですぐさま奪い返して、シュート。これが相手に当たってコースが変わると、ボールはそのままネットに吸い込まれた。鹿島は土壇場でスコアを動かしたのだった。

このゴールはアラーノの真骨頂のようなゴールだろう。たしかに、アラーノは中央へのパスを相手に引っかけているあたり、流れの中でのパスやシュートの質は決して高いものとは言えない。ただ、それを補うかの如くの切り替えの強度の高さを彼は持っている。ボールを奪われれば猛然と奪い返しにすぐさま動き、二度追い三度追いもいとわず、スピードも速い。この強度の高さはザーゴのスタイルを体現するには欠かせないものであり、言わばチームにとってのお手本となっているのだ。こうしたアラーノが今節のゴールのような分かりやすい結果を出してくれることは、チームの成長を加速させるのに大きな意味合いを持ってくるはずだ。

結局、試合はこのままタイムアップ。今季2度目の完封勝利を飾った鹿島は、11年ぶりの7連勝を達成。順位も暫定ながら4位に浮上した。

まとめ

前節がC大阪との上位決戦ということもありかなりパワーを使ったため、今節は苦しむことが十分考えられた中で、結果として3ポイントを掴んだのは大きい。全試合で自分たちの理想を体現できれば言うことはないが、シーズン中はどうしたってこうした試合が必ず訪れる。そこで結果を残すかどうかが最終的な順位を大きく左右してくるだけに、今節の勝点3はまず素直に喜ぶべきものだろう。

ただ、メンバーを入れ替えたことで本来見せなければいけない切り替えでの強度の高さが一気に弱まってしまったのは気がかりなところ。あえて、弱めても勝てるような戦い方で挑んでいたのなら問題ないが、メンバーを入れ替えるとスタイルの体現が一気に難しくなるのだとしたら、それは今後戦っていく上での足かせになるだろうし、改善しなければならない課題だ。

勝ちながら自らの課題と向き合える、という良いサイクルを作れている今の鹿島。この勢いをどこまで持続させられるか。次節は犬飼を出場停止で欠き、再び中3日での試合だ。メンバーのやりくりも含め、注目してきたい。

ハイライト動画

公式記録

タケゴラのTwitter

使用ツール・リンク



ここから先は

0字

¥ 200

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください