見出し画像

相馬監督になってから鹿島アントラーズはどう変わったのか

相馬監督下での鹿島アントラーズの基本布陣

画像1

基本コンセプト

まず相馬直樹監督就任後、鹿島アントラーズは15連戦をこなさなければならなかったことを考慮して話を進めなければならないだろう。連戦の中では準備期間は当然限られてくるし、メンバーも入れ替えながら戦わなければならない。その状況下で、まず相馬監督率いる鹿島から感じられたのは2つのコンセプトだった。

①自分たちが使いたいエリアと相手に使わせたくないエリアを明確にする
②選手個々の特長を最大限に活かす

1つ目は、いかにして自分たちが失点するリスクを減らしながら、得点できる可能性を上げられるかという点にフォーカスされている。サッカーは相手よりも自分たちが1点でも多く得点を奪い、1点でも失点が少なければ勝ち、というスポーツだ。それを踏まえて、相馬監督の中ではどういった形であれ失点に繋がりそうなエリアでのプレー時間をなるべく削り、また得点に繋がりそうなエリアでのプレー時間をなるべく長く出来れば、3ポイントを獲得できる可能性を高められるということが、まず大前提としてあるように思える。

2つ目は、起用される選手によって戦い方にかなり幅があるということだ。例えば、トップ下に荒木遼太郎か小泉慶が起用される時では、両者がこなすタスクは別物だし、それは1トップに上田綺世か土居聖真が起用される時、ボランチに三竿健斗かディエゴ・ピトゥカが起用される時でも同じことが言える。あらかじめこうしたプレーをして欲しいというプレーモデルを設定して、それをどの選手を起用しても求めていく形というよりかは、選手によって求めている役割がかなり異なっている。このあたりはザーゴ前監督から変化した部分として大きいかもしれない。

攻撃① 組み立て

まずはボールを自陣から中盤へと運ぶ組み立て、ビルドアップの部分だ。組み立ての前提としてあるのが無理せず繋ぐということ。鹿島はセンターバックを軸にボランチの1枚が降りたり、キーパーが加わって3枚で組み立てを行うことが多く、このあたりはザーゴ前監督時とそこまで変化はない。ただ、リスクを冒してでもショートパスにこだわることはほとんどなくなった。詰まったと思ったら、無理をせずロングボールを選択する。前線に上田綺世のようなターゲット役がいたり、松村優太のように裏を狙う選手がいて、そこを狙ってロングボールを供給することもあるが、そうでなくても蹴っ飛ばしていることはザラだ。下手に繋いでミスして大ピンチになるくらいだったら、とりあえず蹴っ飛ばして相手ボールになってもリスクを回避した方がマシ。この考えはかなり強まっている。

ただ、ピトゥカがコンディションを上げてきている中で、彼への組み立ての依存度がかなり強まっていることは見逃せない。ルヴァンカップのホームでの清水エスパルス戦でもそうだったが、かなり低い位置まで下がってきたピトゥカに簡単にボールを預け、彼にボールを前進させる術を託すやり方はここ最近ピトゥカの先発起用時に見られるようになってきた。しかし、ピトゥカがいない時にこのタスクを他の誰かがやる様子はなく、組み立てのタスクが特定の個人に偏ることはあまりない。

攻撃② 崩し

続いては、ボールをゴール前まで運んでシュートチャンスに繋げる崩しの局面だ。崩しの局面では各々が自分の特長に合った振る舞いをするが、そこに統一性はなく全体としてみればかなり自由に動く印象がある。

分かりやすいのはトップ下に荒木遼太郎か小泉慶が起用される時の違いだろう。荒木が起用される時、荒木はペナルティエリアの幅で動き回りながらスペースに侵入してはボールを引き出し、そこからパスと自身の動き出しで攻撃を繋げていく動きをすることが多い。荒木自身、こうしたスペースを見つけてそこでボールを引き出す動き出しの質の高さだったり、そこからのパスや動き出しの判断の良さは彼のもっとも得意とするプレーであり、そうした彼の良さはトップ下で起用されることによって最大限に活かされていると言える。こうした動き出しは白崎凌兵や土居聖真もよく行っており、土居はどちらかというとチームの攻撃バランスを考慮して動く色が強い。

荒木の良さが活きたゴール

一方、小泉の場合は前線で身体を張ったり、サイドの裏のスペースに走り込む動きが多い。これは小泉自身が荒木が得意としているプレーを得意としておらず、走力やフィジカル面に自信を持っているからこそ、そうした長所を活かそうとするプレーになっているのだろう。上田綺世や松村優太もそうした色が強く、彼らの動き出しによって求められているのは、相手の最終ラインを押し下げて中盤に鹿島の選手が使えるスペースを作り出して、攻撃の起点を作ることだ。

問題は個々の素質に合わせていて、決してチームとして常に一定している訳ではないため、組み合わせ次第では一気にバランスが悪くなるという点だ。荒木のようなタイプの選手ばかりになってしまっては、裏に走り込んで荒木たちが使えるスペースを作り出してくれる選手はいなくなってしまうし、逆に小泉のようなタイプの選手を揃えてしまうと、攻撃がロングボールばかりの単調なものになりかねない。また、1トップとトップ下の選手の関係性も重要で、1トップに土居、トップ下に荒木だと最後のクロスなどで押し込む時の火力不足は否めないし、1トップに上田、トップ下に小泉だと上田を活かすようなパスを出すことは望みにくくなってしまう。連戦が落ち着き、メンバーが揃いつつある今後はそうしたバランスが整理されてくることを期待したいし、裏抜けする面々がいない時に大外から長い距離を走ってそのタスクをこなしてくれる常本佳吾の存在は重要度が高まりつつあるのも、ある種納得できる部分がある。

守備① ブロック守備

今度は守備面だ。守備でまず変わったのは構えて守る時の守備、ブロック守備である。鹿島のブロック守備のコンセプトは、中央で出来るだけコンパクト、そこからスライドで対応だ。

まず、構えて守る時の鹿島は中央のスペースを埋める形を取る。中央はゴールに直接的に迫れる可能性が高く、そのエリアでボールを持たれることは失点のリスクが上がってくるからだ。そんなエリアを易々とは使わせない!ということで、まず鹿島はこのエリアを使わせないことを徹底している。

注目したいのはこの時に最終ラインの高さが通常に比べてかなり高くなっているということだ。これは相手が中央のスペースを使えないようにするのもそうだし、もしそこにボールを入れてきた場合に奪いどころとしたいからであろう。鹿島のボランチは三竿健斗、レオ・シルバ、永木亮太とボール奪取力に自信のある面々が揃っており、新加入のピトゥカも機動力があってそうした能力は決して低くない。彼らのそうした特長を最大限に発揮してもらうためにも、またそうしたところでボールを奪えれば自分たちのカウンターに繋げやすくなるという側面からも、裏のスペースを突かれるリスクを背負いながらも、鹿島は最終ラインを高く保っている。そのため、最終ラインの面々には高い機動力と対人能力の高さがこれまで以上に求められているし、常本はそうした面でも評価を高めている。

サイドにボールが運ばれた時はチーム全体の陣形をスライドさせて対応している。サイドはわりかしスペースが出来ていることが多いが、サイドからでは直接的にゴールに迫れないことや相手がサイドに運ぶ時間を自分たちがスライドする時間に充てられる、という理由で空けていてもそこまで問題ではないという判断なのだろう。ただし、スライドの時にポジショニングにズレが出来るシーンは散見されており、またサイドに相手のスペシャルな選手がいる時の対応にも課題がある。そうした面を自分たちのストロングとしているサガン鳥栖や川崎フロンターレといったチームにやられているのは偶然ではない。

スライドの甘さを突かれた失点

守備② 超攻撃的プレッシング

5月のホームFC東京戦あたりから鹿島はザーゴ前監督時も取り入れていた前線からのプレッシングを守備に組み込むようになる。ザーゴ前監督の時には後ろのバランスを気にしている部分が強かったため、相手の布陣との嚙み合わせが悪いと途端にハマらなくなっていたが、相馬監督になってからのプレッシングは今までより各々の人への意識が強まるようになり、後ろの数的同数を受け入れてでも前に出ていって選手を捕まえるようになった。FC東京戦やアウェイでの名古屋グランパス戦はそうしたプレッシングが功を奏した試合であった。

ただ、普段からボール保持に慣れているチームで配置性の妙でボールを運ぶチームにはプレスを無効化されてしまっているのが現状だ。リーグ戦のアウェイサガン鳥栖戦では高い位置を取る左サイドバックの中野伸哉と降りてボールを引き出すインサイドの仙頭啓矢の動きによって、松村優太が完全にプレスを掛ける相手を見失い、浮かされる状況になってしまった。また、アウェイの川崎フロンターレ戦でも相手のセンターバックとアンカーのジョアン・シミッチに数的優位を作られたことで、プレスを仕掛けるにはかなりハイリスクな状況に追い込まれてしまい、結果的に無効化されてしまった。

プレスがハマらずに失点した例

また、個々の強度にバラツキがあるのも課題の一つだ。小泉慶や荒木遼太郎のように一気呵成にボールホルダーに寄せられる選手がいれば、その反面バランスを気にしているのか寄せが甘く、相手のプレーを制限できていない選手もいる。そうしたところでボールを運ばれてしまっては、何のためにプレスを仕掛けているのかという意義を失ってしまうことになる。このところの試合を見るに、おそらく今後もプレッシングはチームのベースとなっていくだろう。そうした時に、この強度のズレをいかにして解消していくかは重要なポイントだ。

チームコンセプトのカギを握る選手

荒木遼太郎

1人目は出場した時は攻撃の全権を握っているこの男だ。ザーゴ前監督時はサイドハーフで起用されていたが、相馬監督になってからはトップ下で起用されることが多くなっている。中央でプレーできるようになったことで、今まで以上にスペースに侵入してボールを引き出す動きが活きるようになり、よりゴールに直結するプレーが増えてきた。今や、荒木がいる時といない時では鹿島は別のチームになっている。相手チームからしたらまず消さないといけないのは荒木だ。

ディエゴ・ピトゥカ

来日が遅れデビューは4月下旬となったが、そこから約1か月でコンディションを上げると共にチームでの重要度も増しつつある。リーグ再開後はピトゥカがボランチの軸になるのではないだろうか。

まず、総合力が高い。攻撃面で違いを見せられる選手とは聞いていたが、状況判断が良くて運動量も多いしボール奪取力も高く、守備面での貢献度が予想以上に高い。そして、何と言っても一発で局面を打開できる左足からのパスは魅力的だ。パスの質自体も高いが、彼のパスで攻撃のリズムを変えられるのは大きい。チャンスを作り出せる選手の柱として荒木がいたところにピトゥカが加わることで、より相手は守備の的を絞りづらくなる。荒木と共存させることでさらに良さを活かしたい選手だ。

常本佳吾

相馬監督になって一番の変化は、彼が右サイドバックのレギュラーを獲得したことだろう。広瀬陸斗や小泉慶といった右サイドバックのライバルと比べて、彼が優っているのは総合力の高さ。攻撃面ではそこそこ繋ぐことも出来るし、長い距離を走って大外のスペースを突き、そこからクロスでチャンスを作り出すことも出来る。守備面では前にプレスに出ていける走力もあれば、三笘薫を抑え込んだように対人守備も強い。広瀬や小泉も攻守にそれぞれ良さがあるし、その良さは常本のそれを上回っていたりもするが、総合的なバランスを考えた時に常本が一番チームにとってメリットを与えられる存在なのだろう。

今後について

相馬監督就任から1か月半で15試合をこなしてきたことで、おおよそのチームコンセプトは見えつつある。対戦相手や起用する選手によって微調整はあるだろうが、大まかな方向性はそこまで変わらないはずだ。

ただ、先述したように今の鹿島は使われる選手によってかなり戦い方が変わってくるし、選手たちをある程度自由に振る舞わせることで良さを全面的に引き出すことを武器としている感はある。特に攻撃ではその流れが顕著だ。これはザーゴ以前の鹿島の流れではそうだったことを考えれば、原点回帰と言えるのだろうし、クラブとしては慣れているためそこまで抵抗はないのかもしれない。

ただ、自由に振る舞わせるということは彼らが局面を自力で解決するのを待つという側面もあるし、彼らがいるいないでチームのベースが大きく左右されることにもなる。言ってみれば、サイコロを振って当たりが出るのを待つという局面が多くなることになるのだ。もっとも、そのサイコロが当たり目の出やすい良いサイコロを使っているうちは問題ないのかもしれない。ただ、そうしたサイコロをいつまでもチームに残しておけるとは限らないということを我々はここ数年で学んできた。そうなった時にどう振る舞うのか、どうチームが変わっていくのかは注視していく必要がある。

今季の目標としてはリーグ戦では一つでも上での順位を目指すこと、カップ戦ではタイトル獲得ということになるだろう。本当はリーグ戦でも具体的な目標設定を定めたいのだが、川崎フロンターレがタイトルレースで独走していることを考えれば、中々その設定が難しくなる。まずは目の前の試合に一つずつ勝つことにフォーカスして試合をこなし、その結果終盤の状況で目標が決まってくる流れが現実的であろう。

今の鹿島は個々のレベルが上がってきているため、地力としてはかなりのものがある。おそらく、J1の中で圧倒的な差があるチームはない。だが、個々の能力値を結集させて戦う部分が強くなっているため、そこが揃わなかったり、嚙み合わせが悪かったりすると、苦しくなる部分は否めない。そうした時に戦略的にハメられるとなおさらだ。そこでの取りこぼしをどこまで食い止められるか、今季の鹿島の成績はその部分がカギになってくるように思える。

リンク





ここから先は

0字

¥ 200

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください