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【メラメラとたぎれ】明治安田生命J1 第26節 FC東京-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節はアディショナルタイムの同点ゴールでガンバ大阪と引き分け、なんとか連敗を免れた鹿島アントラーズ。ただ3試合勝ちなしという厳しい状況が続く中、今節は中2日でのアウェイゲームを迎える。

鹿島を迎え撃つのは4位FC東京。ここ4試合負けなしと好調で、前節は湘南ベルマーレに3-0と快勝。室屋成、橋本拳人が海外移籍で抜けたものの、若手の台頭でその穴を埋めている好サイクルが発生している。

ちなみに、両者はちょうど1か月前にリーグ戦で対戦。鹿島ホームで行われたその試合は、鹿島がエヴェラウドのゴールで先制したものの、FC東京がセットプレー二本で逆転に成功。ただ、鹿島も終盤に土居聖真のゴールで追いつき、結局2-2のドローに終わっている。

前回対戦時のレビューはこちら

スタメン

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鹿島は前節から4人変更。両サイドバックを入れ替え、広瀬陸斗が離脱した右に小泉慶、左に永戸勝也が入り、ボランチには永木亮太を起用。また、リーグ戦初スタメンの荒木遼太郎が左サイドハーフで起用された。

FC東京は前節から6人変更。センターバックにジョアン・オマリ、アンカーに髙萩洋次郎、インサイドにアルトゥール・シルバが起用され、3トップは総入れ替え。頂点をアダイウトンとして、右に原大智、左に内田宅哉が入った。なお、レアンドロは契約の関係で今節は欠場となった。

始まりはサイドから

試合の入りはお互いに様子見の色が強かった。その中で両者は、鹿島にとっての左サイド、FC東京にとっての右サイドから主導権を握ろうと試みていた。

両者がこのサイドをきっかけにしようとした理由としては、お互いのストロングポイントを相手にぶつけたかったからであろう。鹿島の左サイドは流れてくるフィジカルの強いエヴェラウドと高い技術を持ち、狭い局面でも苦にしない荒木がいるし、FC東京の右サイドはこれまた流れてくるフィジカルの強いアダイウトンと長身でスピードもあり、足元の技術も高い原がいる。彼らを活かすようなボールを供給することで、相手を押し込みそこから高い位置でのボール奪取を狙ってプレスを仕掛けられれば、という思いがあったはずだ。

この狙いはお互いまずまず機能していたため、序盤はどっちつかずの展開になっていたが、最終的にこの攻防を活かしたのは鹿島の方だろう。理由としてはエヴェラウドの存在が大きい。この日のエヴェラウドはファーストプレーで渡辺剛に対して先手を取ると、試合を通じて終始この1対1の局面で競り勝ち続けた。これが同点ゴールに繋がったのは言うまでもないし、エヴェラウドがここで勝てるという事実が鹿島のフィニッシュの狙いを明確にさせていた

ペースを引き寄せた鹿島のボール保持

エヴェラウドが先手を取っているという事実を受けて、鹿島はクロスで彼を活かす局面を増やしていく。左サイドは荒木の突破や永戸の高精度クロス、右サイドからも流れてきた土居聖真や永木のクロス精度の高さで、FC東京ゴールを脅かしていった。

チャンスを作り出すことで主導権を掴みだした鹿島は、徐々にボール保持の色を強めていく。対するFC東京もボール保持にこだわりを見せるチームではないので本格的に撤退守備に移行。こうして試合は15分過ぎからボールを持つ鹿島と、それを受けるFC東京という構図が明確になりつつあった。

鹿島のボール保持

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鹿島は組み立ての際、永木をセンターバックの右側に降ろす形を取った。これは永木からのロングボールが右サイドで機能していたことと、FC東京の最前線にアダイウトンがいるため、万が一カウンターを受けた際のリスクケアとして真ん中にセンターバックを置いておきたい、という理由があるのだろう。左サイドに降ろさなかったのも、同じく原とカウンターで向き合う可能性を考えてのことのはずだ。

鹿島の組み立てはまずまず機能していた。中央を固めるFC東京に対して、サイドで起点を作ってそこから揺さぶりをかけていくことで、陣形の横への間延びを狙っていたのが見えたし、サイドの裏にボールを蹴り込んでそこから即時奪回や高い位置でのプレスに切り替えようとする狙いも見えた。

流れを掴み切れない鹿島のプレッシング

鹿島にとってはこの流れを続ける中で先制点を奪いたいところだったが、この流れを継続することが出来なかった。理由としては、前線からのプレッシャーが上手いことかからなかったことにある。

FC東京の左サイドからのボール保持

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まず、FC東京の攻撃時の姿勢としては、あまり手数を掛けずに3トップ(特にアダイウトンと原)に預けて、そこを起点に押し込んでプレッシャーを掛けていくというものだ。そのため先述した通り、ボール保持にはあまりこだわらない。スキを見つければすぐさま鹿島の最終ラインの裏へとボールを蹴り込んで、アタッカーたちを走らせようとしていた。

ただ、これは鹿島も織り込み済み。鹿島としては簡単にロングボールを蹴らせない、特にキック精度の高い選手にはなおさら、というのが徹底されていた。鹿島が特に警戒していたのはアンカーの髙萩。守備時は2トップになることがほとんどである今季の鹿島だが、今節はエヴェラウドが1トップとしてパス出しを警戒し、土居がトップ下に下がって髙萩をケアするという局面もまずまず見られた。

そこでFC東京は自分たちの形を変え始める。髙萩がサイドに動き、空けたスペースにインサイドの三田啓貴やアルトゥール・シルバが降りて、ボールを引き出すようになったのだ。ただ、FC東京にとってはボールの受け手は増えたが、鹿島の4-4-2と噛み合う形になる。鹿島は2トップがまずボールをサイドに追い出し、選択肢を絞り込んだところで無理して中央に入れてきた縦パスを引っかけてカウンターという形が理想的だったはずだ。

しかし、この日の鹿島の2トップはあまりにも簡単にFC東京に中央への縦パスを許していた。三竿健斗や永木がインターセプトを狙えるような状況下ならいいが、その気配もない。中央でフリーで受けられたことは、髙萩らFC東京の選手たちにとっては十分すぎる時間だった。ボールを受けた中盤の選手たちは裏へのロングボールをどんどん蹴り込んでいく。鹿島の最終ラインは前でプレスが掛かっているためにライン設定が高く、その分裏にはスペースが出来る。そこはFC東京のアタッカーたちにとっては格好の場だった訳である。

鹿島は最終ラインの選手たちの対応が良かったため、FC東京に一方的に押し込まれることはなく、主導権は五分の状態で試合は進んでいくが、主導権を完全に握って畳み掛けることも出来る時間帯だっただけに、プレスの出来がもったいなさを招く結果となってしまった。

関川郁万の前向きなミス

試合は五分のままスコアレスで前半を終えるかに思われた。だが、前半アディショナルタイムに試合が動く。関川郁万の縦パスをFC東京にカットされると、そこからFC東京のショートカウンターが発動。最後は中村拓海のパスをカットしようとした関川の足に当たって、ボールはそのままゴールへ。唐突な形で先制したのは、FC東京だった。

見方によっては関川の縦パスからピンチを引き起こし、結果関川のオウンゴールになったのだから、関川の自作自演とも言えるだろうし、関川が縦パスを入れたシーンでは左サイドに永戸もいたため、スコアレスで終わってもOKだった前半アディショナルタイムではあまりにもリスキーなプレーとも言えるだろう。

だが時間帯のことさえ考えなければ、今季の鹿島のセンターバックに求められているのはああいう縦パスである。関川の縦パスは利き足でない左足にも関わらず正確かつパススピードも速かったため、あそこで味方が上手く収めていれば一気にチャンスに繋がった可能性もある。もちろん、時間帯のことも考えなければならないが、ザーゴ監督が求めるスタイルを基にすれば、ああした縦パスを入れたことを咎めるよりも、あそこで上手く受けられなかった受け手の方に改善を求めたほうがチームとしてのサイクルは良いように私は思う。

また、ショートカウンターを受けている際も後手後手の対応になりながら、関川は最後まで首を振って相手の立ち位置や味方の立ち位置を確認することを怠らず、マークを受け渡しながら自身はボールホルダーにチャレンジしようとする姿勢が見えた。このところの関川は自身が失点の責任を被ることを避けたいのか、どこか他人任せな守り方をしている部分もあったが、少なくともこのシーンでは自身の責任を全うしていた。

なあなあのまま失点して責任も曖昧なままならともかく、自身で向き合った末にミスしてその責任を背負えるなら、チームにとって関川が払う授業料は未来への投資としてムダにはならないはずだ。

理想的な2ゴール

とはいえ、またもビハインドの展開となってしまった鹿島。前節のG大阪戦ではここから相手の守備ブロックを崩すのに大苦戦しただけに、今節も苦しい展開が予想されたが、今節は早い時間で追いついたことでそうはさせなかった

後半立ち上がりの相手のカウンターを沖悠哉のセーブで防いだ直後、鹿島は左サイドからファン・アラーノから逆サイドの小泉に展開。アラーノは小泉のリターンを受けると、アーリークロスを供給。これに合わせたのはエヴェラウド。ヘディングシュートは一度キーパーに弾かれるものの、こぼれ球を押し込み、同点ゴールを奪い取った。

この同点ゴールは前半から鹿島が再三狙い続けた形だ。サイドへと揺さぶることで相手の陣形を間延びさせ、中央で自由を得る。現に、アラーノは中央で受けた時、プレッシャーはほとんどかかっていなかった。これならアラーノも精度の高いボールを余裕を持って供給することが出来る。そして、ボールの先にいたのは立ち上がりから渡辺に対し優位に立ち続けていたエヴェラウド。このシーンでもマークを外し、シュートを打てている。狙いを持った攻撃から、優位に立てている部分で勝負を掛ける。鹿島にとっては理想的な得点だった。

逆転ゴールも形は違えど、狙い通りに仕留められた形だろう。左サイドで相手を引き付けることでハーフスペースにスペースを作り出し、そこに入り込んだ荒木にボールが通る。フリーでボールを持った荒木のスルーパスに反応したのは、右サイドからカットインしてきたアラーノ。ワントラップ後、左足ボレーをネットに突き刺し、アラーノは移籍後初ゴールとなった。

スキを逃さず精度もパススピードも完璧なスルーパスを通した荒木の凄さは言うまでもないが、このシーンでは走り込んできたアラーノを称えるべきだろう。おそらくこうしたシーンは練習でも取り組んでいる形のはずだ。守備側にとっては大外から全速力で走り込んできた選手の対応は、視野の外から現れてくるためどうしても対応が遅れてしまう。そこを突いた形だ。土居のフリーランと連動して動き出しを始め、しっかりとゴールに結びつけたアラーノのプレーはまさに今後チームの指針となるものであろう。

狙いを持った試合運びを全うした鹿島

60分~

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1点を追う展開となったFC東京は、逆転を許した直後に3枚代えを敢行。ベンチスタートになっていた安部柊斗、ディエゴ・オリヴェイラ、永井謙佑を投入して、攻撃のギアを上げにかかった。

これに対して、ザーゴも動く。64分にレオ・シルバと和泉竜司を投入した。

64分~

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この交代はもちろん土居の疲労を考慮したり、レオ・シルバのプレータイムをコントロールする意味合いもあるだろうが、明確なメッセージも込められていた。アラーノを中央に持ってくることで彼を使ったシンプルなカウンターを狙いつつ、和泉やレオ・シルバといった切り替えの速い選手たちを入れることで、再度即時奪回の意識をチームに徹底させていたのだ。

83分~

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状況を変えられない長谷川健太監督はルーキーのドリブラー、紺野和也を投入。前線を4枚に増やし、圧力を掛けていこうとする。これに対し、ザーゴも前線を一枚削って、奈良竜樹を最終ラインに投入。カウンターは前線の3枚に任せて、後ろは5バックの人海戦術を取り、このリードを守り抜くという意識をチームに徹底させた。

選手たちもこうしたザーゴの要求に見事に応えた。最終ラインは集中力を切らさず相手に決定機を作らせなかったし、レオ・シルバは圧巻のボール奪取で相手を自陣ゴールから遠ざけることに成功。前線の選手たちも簡単にボールを失うことなく、逆にカウンターやセットプレーであわや3点目という場面まで作り出した。

結局鹿島は最後まで集中を切らさず、試合はそのままタイムアップ。鹿島はリーグ戦4試合ぶりの勝利で、暫定ながら10位に順位を上げた。

まとめ

内容としては今季ベストゲームと言っていいのではないだろうか。中2日の状況で、前半アディショナルタイムに先制点を許す難しい展開の中、すぐに追いつき、逆転したこともそうだが、自分たちのスタイルをピッチでしっかりと表現できたうえで結果を掴んだ、このことが何よりも大きいはずだ。

チームは大分狙いとしていることをピッチで発揮することが出来るようになってきた。これまではそんな中で中々勝点を積み上げることが出来なかったが、今節のように結果を掴むことが出来れば、成長のサイクルはより速さを増していくはずだ。結果を出すことを継続させることで、上位戦線に加わっていきたい。

そのためには、今節で言えばプレッシングのように、噴出した課題の解決も不可欠なはずだ。逆に言えば、こうした点がチームの伸びしろとなっている。結果が出てる良い流れの中で、課題を伸びしろと捉え解決していく。そうしたスタンスを継続できればベストだ。

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