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京都戦に見られた鹿島アントラーズの変化

1-0でリーグ戦約1ヶ月ぶりの勝利を飾った先週の京都サンガF.C.との一戦。その試合で、鹿島アントラーズは確かな変化を見せていた。

変化の概要

スタメン

変化が見られたのは、中盤の配置だ。今季の鹿島は4-4-2をベースにしているとはいえ、試合によってフラットな4-4-2だったり、ボランチを縦関係にした4-1-3-2だったり、4-2-3-1だったりと相手との噛み合わせを考慮して布陣を変化させている。ただ、これまでボランチを縦関係にする時はディエゴ・ピトゥカに高い位置を取らせ、樋口雄太がアンカーとしてバランスを取ることが多かった。しかし、今節はその逆。ピトゥカがアンカーとしてバランスを取り、樋口がトップ下の位置を取っていたのだ。

変化の理由

そうした配置にしたのは、おそらく鹿島がこのところやられまくっていた弱点を潰すためではないかと思っている。

鹿島の守備陣は基本的に人への意識が強い。ゾーンの意識がないわけではないが、ポジションを動かした相手に対してはそのマーカーがポジションを出ていっても潰しにいくということが少なくない。1対1で負けなきゃやられない!という考えが根底にあるのだろう。

相手としてはそれを逆手に取ろうとしてくる。相手からしてみたら、動かしたいのは鹿島のセンターバック。対人に強く、中央を塞いでいる彼らをゴール前から退かすことができれば、中央にはスペースが生まれやすくなり、ゴールを奪える可能性が高くなる、というわけだ。

このところ、鹿島はこの守備意識から生まれるズレをずっと狙われていた。特に狙われていたのはセンターバックとサイドバックの間のスペース。サイドバックをピン留めしつつ、サイドに流れる選手がセンターバックを誘き出す。潰しにいくのか、中央を埋めるのか、センターバックの対応が中途半端になったところから、センターバックとサイドバックの間にはスペースが生まれるのだ。これは逆サイドにボールがある時も同様で、基本的にボールサイドに絞って今季の鹿島は守っているのだが、その絞りが甘くなったところを狙われていることは少なくない。勝てていなかった時の失点は概ねこのスペースを使われていることから、おそらく他チームからしたらスカウティングで狙い所にしているのだろう。サイドバックをピン留めして、センターバックを誘い出して、中途半端に出てきたことで生まれたスペースを使おう、と。

裏を返すと、鹿島はこのスペース問題を修正できていないからこそ、失点を重ねていたというわけだ。やられなかったのは左サイドをサイドを攻められていた時に右サイドのスペースを狙われた時ぐらい。ここをやられなかったのは常本佳吾の存在が大きい。3バックならセンターバックとしてもプレー出来る対人の強さと危険な位置を埋められるポジショニングによって、素早くスペースを埋められていたという訳である。他のところに関しては、そもそも構造上の問題が大きい。スペースを埋めようにも人がいないのだ。今季の鹿島は高い位置でボールを奪うことを志向しているし、中盤の面々のデュエルの強さを活かそうと、彼らをどんどん前に出している。前に出すのはいいのだが、前に出した分だけ後ろには人がいなくなる。そこで前の部分をかわされると、途端にその問題が噴出しやすくなってしまったのだ。

京都もこの部分は狙っていたのだろう。右ウイングに豊川雄太を起用したのもその辺りが理由だと思われる。サイドで仕掛けるドリブラーではなく、中央に入り込んでターゲットにもなれる豊川をサイドで起用したのは、彼を右サイドから侵入させてセンターバックとサイドバックの間のスペースを使わせるため。実際、左サイドはウイングの荒木大吾が大外のエリアを担当することが多かったが、右サイドの大外を担当していたのはサイドバックの飯田貴敬。豊川は中央寄りのポジションでピーター・ウタカと2トップ気味になることが少なくなかった。

変化の中身

この問題に対処するには色々と方法がある。後ろに人数を掛けてそのスペースを埋めるなり、対人の強さで誘い出されても潰し切ってしまうなり、もっと強度を上げてそもそもそのシーンに至らせないようにするなり。だが、どの対応策にもエクスキューズは存在する。引いてしまっては今の面々を起用している良さは活きにくくなるし、対人の強さは個々の能力にも拠るのですぐに解決できる問題でもないし、そもそも暑くなってくる夏場でこれ以上強度を上げられるのか、という問題もある。同じパターンでやられ続けたのはこの辺のエクスキューズが影響しているのは否めない。

そんな中、ヴァイラーが導き出したのはピトゥカのアンカー起用だった。プレーエリアが広いピトゥカをアンカーに置くことで、攻め込まれた時には彼にスペースを埋めさせ、5バックのような形で守る。昨季の相馬監督の時も同じような形を採っていたことがあったが、それを再び採用したというわけだ。

だが、なぜ樋口ではなくピトゥカなのだろう。樋口もピトゥカと同じくプレーエリアが広く、運動量豊富な選手だ。その理由はサイズ面の問題だろう。168cmの樋口に対して、ピトゥカは178cm。最終ラインのカバーに入るということは、どうしたってエアバトルを強いられることも避けられない。そうした時には高さのあるピトゥカを置いておいた方が、失点のリスクは避けられるということである。

変化の効果

では、この変化に実際効果はあったのだろうか。無失点で抑えて勝ったのだから、結果は出ている。しかし、内容としては正直微妙な部分がある。確かに、ピトゥカはよくスペースを埋めていた。だが、狙われまくっていたのは相変わらずだし、その対応は紙一重の部分が大きく、相手のクオリティによってはやられかねない部分も散見していた。今節抑えられたから次も、という確証は得られていない。

また、攻撃面においてもプラスとは言えない側面があった。これまでこまめに立ち位置を変えてボールを引き出し、動かし方を指示しながら組み立てを支えてきた樋口を高い位置に置いたことで、組み立ての流動性が下がってしまったのだ。ピトゥカも自身のパスセンスの質は高いが、彼はどちらかというと独力で局面を解決しようとするタイプ。味方のサポートという面では樋口の方が優れている。鈴木優磨を出場停止で欠いたこともあり、いつもより前線で起点になれる存在が減った鹿島は、上手いことボールを運ぶ機会が減ってしまっていた。

そもそも、布陣の噛み合わせが悪く、高い位置でボールを奪えていないのが一番気になるところである。前線に人数を掛けていたが、人を捕まえられずにプレスを外されることは少なくなかった。ハマらないプレスのために、後ろのリスクを背負ってまで前に人数を掛ける必要はあるのか?バランスを考えて、布陣を再考してもいいのではないか?という疑問は捨てきれない部分がある。

今季の鹿島は例年以上に布陣をコンパクトにしている。横幅に至っては、ここ数年で最も狭いレベルだ。ボールサイドに人を極端に寄せることで、密集した状況を作り出し、フィジカルコンタクトを増やす。デュエルの局面が増えたことで、そこでのバトルに自信のある個々が最大限に活きる状況を作り出せたことが、今季の鹿島の好調の要因の一つになっているのだ。

Football LABより

相手からしたら、そのコンパクトさをいかに広げさせて、鹿島の土俵でやらせないようにすることを考えた方が、自分たちのペースに引き込むことが出来るし、それを狙ってくる。先述したスペースを狙ってくる動きもそれに類するものだ。コンパクトを維持して強度で圧倒したい鹿島と、距離感を広げさせてスペースを突いていきたい相手チームとの攻防は今後も続くだろう。鹿島としては、今回の変化以外にも二の矢三の矢の対応策を見つけ出して、手を打っていきたい。今回の対応だけで付け焼き刃になってしまい、それが致命傷にならないことを願うばかりだ。

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