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なぜ鹿島アントラーズは時を戻そうとしているのか

時を戻そう

そんなワードがピッタリ当てはまるようなオフを、今の鹿島アントラーズは過ごしている。オフに入った後から積極的な補強の姿勢は見せていたが、その中で話題になっていたのが、かつて鹿島で活躍し、タイトル獲得に貢献したOBたちに声をかけているということ。そして、その報道通りに植田直通と昌子源の獲得が実現。さらに噂では柴崎岳にも鹿島復帰の要請をしている、とされている。

鹿島で育ち、世界にまで羽ばたいた面々がもう一度鹿島のユニフォームを着て、戦ってくれる。クラブを見てきた我々からしてみれば、この事実だけで嬉しいことこの上ないだろう。

しかし、同時にこうした疑念も浮かびあがってくる。かつての面々を連れてきたからといって、果たしてもう一度タイトルを獲れるようになるのか…?、と。我々が鹿島に求めていることは勝つこと、そして遠ざかっているタイトルを奪冠することであり、そこに今回のアクションが繋がってこなければ呼び戻した意味は?となってしまうわけである。

懸念している状況ってこういうことですよね

合理的な判断

なぜ、鹿島がOBをかき集めているのか。その答えとして最も端的なものは、それが一番いいし、それしか方法がないから、ということだろう。

どういうことか、鹿島の今季の戦いを踏まえて、センターバックが補強ポイントであることは誰の目にも明らかである。昨季よりも失点数は増加しているし、シーズンの多くでセンターバックの一角を担ったのはボランチが本職の三竿健斗だった。質量共に足りていない、この状況を改善することが来季の巻き返しには必須事項であった。

そんな中でセンターバックに求めているのは、おそらくボールが持てて運べることよりも、相手の攻撃をしっかりと食い止めることができることを第一優先に置いているということは昌子や植田に声をかけたことで感じられることである。組み立ての部分やボール保持の部分を重視するなら、昌子や植田に声をかける必要性は薄まる。まずは守備の強度をセンターバックが強く持つことを、今の鹿島は求めていることが窺えるのである。

では、そんな強いセンターバックはどこにいるのか、答えは日本に鹿島が求めるレベルでそんな選手は早々いない、ということである。鹿島が狙っているのはタイトル、つまりリーグトップレベルであり、それを目指すにふさわしいセンターバックを求めているわけである。そうなると、目を向けるべきは必然的に日本代表に選ばれるようなレベルの選手たちに限られてくる。だが、そうした選手でまだ伸びしろがありそうな選手はほとんどが海外にいるか、鹿島より上位のクラブにいるのである。そうした選手たちに声をかけて鹿島に来てくれるのか?言うなれば、板倉滉や冨安健洋、谷口彰悟のようなW杯の舞台で戦う選手に声をかければ鹿島に来てくれる可能性があるのか??、ということなのである。それは今の鹿島においてあまりにも、チームの力関係、財政状況、環境面含めて現実的ではない、ということになる。

助っ人を獲得するということになっても金銭面はネックとなってくる。今の鹿島は移籍市場で札束で殴れるほどの財政的余裕はない。そんな状況で獲ってくる助っ人だったら、昌子や植田の方が期待できると考えてもそれは合理的な判断のはずだ。また、今の鹿島はただでさえ現時点で助っ人を7人抱えている。出場できるのが5人と限られた中で、アウトを考えてもまだ助っ人を獲ってくることは、誰かが出られないというデメリットを抱えることになる。こうしたことを考えて、キム・ミンテやブエノがまだいる状況でセンターバックに助っ人を追加するという判断には至らなかったのではないだろうか。

つまり、いいセンターバックは欲しいけど、選り好みできるほどの余裕は鹿島にはない。だから、帰ってきてくれそうなOBに声をかける。それなら、ビジネス的にもプラスになる。それが今回の時を戻そう、なのではないかと思っている。

「時を戻そう」の弊害

ただ、この動きは必ずしも全てが歓迎できるわけではない。いくつかの懸念事項は考慮しなければならないだろう。

まず、帰ってきたOBが期待されたパフォーマンスを見せてくれるのか、ということである。帰ってきたからには当然、鹿島で活躍していた時のような圧倒的なパフォーマンスをチームとして求めることになるわけだが、わざわざ帰ってくるわけだからそこは当然訳アリなわけであり、少なくとも直近のパフォーマンスは間違いなく期待しているものではない、ということになる。それでもOBに頼らざるを得ない状況というのがまた、クラブにとって苦しいわけなのだが。

また、ことセンターバックに関しては関川郁万が今季初めて主力としてフル稼働しており、一本立ちしそうな気配を見せている。そこに昌子と植田が帰ってくるわけである。そうなると、3バックでも採用しない限り、少なくとも昌子・植田・関川の誰かがベンチを温めることになってしまう。鹿島の主力として充分なレベルのセンターバックを3枚以上抱えているのは贅沢なことではあるが、それでチームのバランスとしては成り立つのか?という懸念は残ることになってしまう。

さらに、この帰ってきた2人は岩政監督が進める「新しい鹿島を作る」上でセンターバックに求めているプレーヤー像とは違ったタイプの選手である。2人ともボールを持つことに関してはあまり得意にしていないし、彼らがいた時の鹿島はセンターバックにボールを運ぶことはそもそもあまり求められていなかった。そこのギャップをどう埋めていくのか、そのギャップを埋める作業というのは来季も今季終盤のようなサッカーをするなら、必要になってくる作業である。ただ、その作業の弊害として、今季終盤は思うように勝点を稼げなかったという結果が残っている。これを考えると、今季もこうした状況が起こり得るリスクを抱えることになる。

まとめ

時を戻すことに関しては、メリットとデメリットの両方があるし、正直単純にチーム強化のことだけを考えると、あまり得策とは言えないだろう。チームとしての伸びしろがそこまで大きくない存在に期待するというのは、苦しい部分がチームとしてあるのは否めないからだ。

それでも、チームは合理的な判断のもと、時を戻すことを決断している。そうなったからには、それが正しかったと証明するほかない。それを示せるかどうかは、ピッチの上で試される。

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください