鹿島の若手選手についての話
シーズンも半ばを過ぎた今季、鹿島アントラーズは紆余曲折ありながらもここまで戦い抜いてきた。結果どういう締めくくりになるかはこれからの試合次第だし、だからこそ大事になってくるのだが、どういう結末になるにせよこのままだとある課題が浮かび上がってくることになる。
伸び悩む若手選手のプレータイム
それは、若手選手の台頭が思ったよりも少ないことである。
今季ここまで、主力として稼働している若手と言える23歳以下の選手は関川郁万と佐野海舟くらい。その他のメンバーは4年目を迎えた荒木遼太郎や松村優太を始め、安定してプレータイムを得ることができていない状況だ。しかも、昌子源と植田直通が今季加入したとはいえ関川は昨季も主力としてフル稼働しているし、佐野はJ1初挑戦とはいえ三竿健斗の穴を埋めるべく獲得してきた移籍組である。チームの底上げとしてはこの部分で言えば期待値よりも弱い現状である、と言わざるを得ないだろう。
ここ数シーズンで比較してみたい。以下は直近4シーズンの23歳以下の選手のリーグ戦の出場時間である。年齢は年度ごとの満年齢で計算し、試合あたりの分数は試合数で割っている。
こう見ていると、昨季からの鈍化具合とそれに輪をかける今季の伸び悩み具合が見て取れる。2020シーズンや2021シーズンは1試合あたりの出場時間で考えると、大体3人から4人の若手が主力として出場時間を得ているが、昨季や今季は1人から精々2人、といった具合だ。もちろん今季はここから伸びてくる可能性もあるが、現状では鈴木優磨がどこかで「予想を(良い意味で)裏切って、出てくる若手がもっと欲しい」といった趣旨のコメントを残していたのが納得ともいえる状況になっている。
岩政監督のスタイルが求める基準とのギャップ
では、なぜ若手選手の台頭が少ないのか。原因の一つに考えられるのが、岩政監督の選ぶ戦い方にある。
元々、岩政監督は特定の戦い方に選手を当てはめていくやり方は志向しておらず、いる選手たちに合わせて戦い方を決めていくやり方を採っている。「オーダーメイド」といった言葉に代表されるように、選手の個々の良さを組み合わせていきながら、最適なバランスを探り、そのうえで変幻自在で相手が捕まえられないような戦い方を構築していく。就任以来、その方針はブラさずにチーム作りを進めてきた。
その中で波がありながらも、鹿島の戦い方は現在徐々に固まりつつある。ただ、そこで優先して起用される選手はそれぞれの良さを持っている以外にも、身体を張ったり、プレーを止めずに動き続けることができるというような、常に高い強度でプレーすることができて、なおかつ個人戦術の判断力の高い選手たちである。2列目なんかはその最たる例であり、樋口雄太、仲間隼斗、名古新太郎といったプレータイムを安定して得ている選手たちは、相手に捕まらずに的確に動き続けることができ、なおかつフィジカルバトルでも戦える能力を持っている。個々の良さを活かすために、チームの輪を繋いでいる糸が強度と個人戦術であり、その糸を強くできる選手でないと、今の鹿島では中々出番を得られないのである。
当初、岩政監督はこの糸よりも個々の良さの方を重要視するような選手起用をしており、その時には荒木や松村のようなプレーヤーにもチャンスがそれなりに与えられていた。ただ、そこでチームが上手くいかなかったことで方針転換。糸の強さの方が重要視されることになり、現状では糸の強さの基準が今出ている選手たちが作っているものをベースにしている。その差を埋められないのが、端的にいって若手選手たちが出番を中々得られない要因の一つだろう。
逆に言うと、この糸の強さを維持できているからこそ、今の鹿島はチームとして成り立っているのであって、もっと言えば糸の強さを維持できる選手がいるいないで、チームのクオリティが大きく左右されかねないというリスクも孕んでいる。オーダーメイドであるからこそ、誰かがいなくなるとその分ダメージも大きくなってしまう。選手の入れ替わりが激しい昨今の状況で、この糸の強さをどこまで維持できるか?という問いは、いつか突きつけられることになるかもしれないのだ。
ただ、この前提がある中で、ケガ人もあって直近出場機会を得ている溝口修平には注目したいところである。正直、彼から発信される糸の強さはまだ主力選手たちに比べると物足りない部分がある。それでも、彼が試合に出場できて、試合の中でインパクトを残せているのは、糸の強さを補う発信力を持っているから。自分の良さを活かすためにはどう動けばいいのか、味方にどういう風に動いてもらえば自分の強みを活かして弱さを隠せるのか。そうした部分を発信して味方に伝える能力が、彼は長けている。この能力を活かしながら試合経験を積み、糸の強さを増していくことができれば、ケガ人が戻ってきても試合に出続けることは可能になるはず。溝口の存在は、今燻っている若手選手たちの見本になるかもしれない。
割に合わないJ1上位陣の若手育成
ここまで若手選手たちが伸び悩んでいる状況について、鹿島の側から原因を探ってきたが、実はこの問題は鹿島に限らずJ1の上位クラブは皆同じような悩みに直面している、と私は思っている。
先ほど紹介したリーグ戦での23歳以下の選手のプレータイムを、今度は今季リーグ戦の鹿島より上位チームでまとめてみたのが以下になる。
実はどのチームも鹿島を下回っているのだ。さらに、この中で主力と言えるのは、名古屋の守備陣の一角である藤井陽也ぐらいであり、上位陣ほど若手選手がチャンスを掴めていないのだ。
これには2つの側面が重なっていると考えている。1つは上位陣は当然優勝やACL出場権獲得といった目標に向かっているチームであり、そのために勝利が常に求められており、若手を使って育てている余裕がないというもの。そして、もう1つは若手を育ててもすぐに海外に行ってしまうので、割に合わないというものだ。
特に、若手の海外流出については、各クラブにとっては頭の痛い話だろう。若い選手を使っていく中で台頭してくれるものの、主力として長い期間稼働することなくステップアップを目指して海外移籍してしまう。それだけでも痛いが、クラブにとってもっと痛いのがそこで満足に移籍金を得られずに、その選手の代役を取るにしても時間的にも資金的にも追いつかないことである。こうなると、チーム力は必然的に低下してしまう。この現象に苦しんでいるのが、鹿島であり、現在の川崎Fである。
早いうちに海を渡らないと、選手としての市場価値はなかなか上がっていかないし、いわゆるビッグクラブへの移籍の可能性も広がらないので、チャンスがあれば積極的に移籍を選択していく。日本サッカーの世界的な立ち位置や欧州から遠く離れているという地理的な側面もあり、この流れは当分止まらないだろう。そう考えた時に、そこで育てて売ることがビジネスとして利を得ることに繋がらないと、売る側としては損ばかりになってしまう。そうなると、勝利への要求が高いクラブとしては、若手の育成への投資よりも、他クラブの即戦力選手の獲得に動くようになるのは、自然な流れだろう。
ホームグロウンやルヴァンカップのU-21選手の起用があるため、育成を全てないがしろにすることはできないものの、今後もリーグの中で常に上位にいたい鹿島にとっては、どこまで若手の育成に投資をするのかというのは勝利を求めていく中で、バランスを考えなければならない問題だろう。自分たちの中で安定したプレータイムを与えられないのなら、他のクラブに武者修行に出す中でそれを確保させ、ある程度形になってきたところで回収して、移籍でやってきた選手たちと組み合わせて、強いチームを形作っていく。それは、一つの有効な手段と言える。
若手が思うように育っていない、もっと若手を使って育てていくべきだ!
そう言うだけなら簡単である。鹿島として考えなければならないのは、その若手をいかに使っていくかということ以外にも、勝利という結果を求める中でどういうバランスを取っていくのか、またそれらを踏まえてどうクラブの将来設計を描いていくのか、ということである。考えるべきことは、多い。