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【3倍返し】明治安田生命J1 第21節 鹿島アントラーズ-横浜FC レビュー

戦前

前節は何度も決定機を作りながら仕留められず、逆に後半に2失点を喫して敗れた鹿島アントラーズ。7連勝の後の2連敗ということで嫌なムードが漂いつつあるだけに、断ち切っておきたいところ。今節は一週間空いてののホームゲームだ。

鹿島が迎え撃つのは13位横浜FC。13年ぶりとなるJ1の舞台で今季はクラブ記録を塗り替える6勝や3連勝も記録するなど健闘を続けている。ただ、前節はオルンガに2ゴールを許し、柏レイソルに0-3と敗戦。その柏戦から1週間空いて今節を迎える。

なお、両者は8月の第11節で対戦。その時は鹿島がセルフジャッジでプレーが止まった隙を逃さず皆川佑介が決めたゴールを守り切って、横浜FCが1-0で勝利している。

前回対戦時のレビューはこちら

スタメン

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鹿島は前節から1人変更。左サイドバックに永戸勝也が2試合ぶりに起用された。また、ベンチには白崎凌兵が5試合ぶりに入った。

横浜FCは前節から2人変更。ボランチに前節は契約の関係で出場できなかった手塚康平が入り、前線には皆川佑介が起用された。

仕込まれたセットプレー

試合はいきなり動く。ファーストプレーでフリーキックのチャンスを掴んだ横浜FCは、左サイドから手塚が精度の高いボールを供給すると、それにファーサイドで瀬沼優司がボレーで合わせてゴールイン。連敗中の鹿島はわずか2分でビハインドとなる、苦しい展開を強いられることとなった。

このシーン、まずは手塚のキックの質の高さを称えるべきだろう。最初のボールタッチでいきなり、DFラインとキーパーの間に放り込む絶妙なボールを入れたことで、鹿島としてはそもそもの処理が難しくなる場面となった。

また、この先制点に象徴されるように横浜FCは鹿島のセットプレーの守備をよく研究して、準備していたのだろう。徹底的にファーサイドに蹴り込むことで、何度もチャンスを作り出していた。鹿島のファーサイドをケアしているのは永戸だったのだが、彼は空中戦はそこまで弱いわけではないが、自分の背後へのケアはどうしてもルーズになってしまっている。なので、手塚は永戸の頭を越えるボールを蹴り込み、そこに選手を飛び込ませていた。鹿島としてはここを修正しておかないと今後も狙われる可能性は十分にあるだけに、早急な手当てが求められる。

オートマチックな横浜FCのボール保持

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先制点で流れを悪くした鹿島に対して、リズムを掴んだのは横浜FC。横浜FCはボール保持から一層自分たちのペースを確実なものとしていく。

横浜FCのボール保持の中心となっているのは手塚だ。狭いスペースでも苦にせずボールを通せる左足のキック精度の高さとスペースを上手く使ってボールを引き出すことに長けているこのボランチが、最終ラインに降りるところから横浜FCのボール保持はスタートしていく。

鹿島も当然その手塚を放っておくわけはなく、レオ・シルバが高い位置に進出して手塚をケア。相手に数的優位を作らせず、横浜FCがキーパーも使って組み立てようものならそこにもプレスを掛けてロングボールを蹴らせて、そのボールを回収して自分たちのペースに引きずり込むことを目論んでいた。

ただ、横浜FCのボール保持はそれすら想定していたような振る舞いを見せる。長身2トップは高い位置でパワー勝負を仕掛け、左サイドは個人で仕掛けられる松尾佑介が張ることで、小泉慶との1対1に持ち込む。一方、右サイドでは2列目の松浦拓弥が中央に入ってボールを引き出し、サイドバックのマギーニョがその松浦が空けたスペースを使って駆け上がっていく、というオートマチックな動きを繰り返していくことで、確実にボールを前進させて鹿島陣内でのプレーを増やしていった。

鹿島にとって特に厄介だったのが松浦とマギーニョの右サイドのコンビだ。鹿島はレオ・シルバが手塚の対応に出ていったので、中盤をケアするのは三竿健斗一人だ。そこに右サイドから松浦が入り込むと、中盤には安永玲央と松浦の2人が受け手となっているため、鹿島にとっては数的不利となってしまう。横浜FCとしてはその状態さえ整えれば、手塚のパス出し能力と松浦のターンして前を向き、そこからボールを運ぶ力を活かしてボールを前進させることはそんなに難しいことではなかった。

鹿島は中央に入り込んだ松浦をケアする人材を送り込めれば良かったのだが、右サイドにはスピードもあってドリブルでも運べるマギーニョがいるため、安易にサイドを空けて中央に人数を割くと、彼に一気に裏を突かれてクロスからのフィニッシュに持ち込まれる可能性があるため、そうやすやすとサイドを捨てられないのが中々にツラいところだった。さらに、手塚を中心とした横浜FCの組み立て部隊の、少々のプレッシャーなら苦にせずボールを運べるという質の高さにもかなり鹿島は苦労させられていた。

横浜FCはこうした自分たちの流れの中から追加点を得ることに成功する。13分、コーナーキックのこぼれ球を拾った松尾が1対1で仕掛けて、左サイドからカットインして放ったシュートがそのままネットに吸い込まれた。

鹿島としては松尾に対応したのがアタッカーの和泉竜司だったという点で分の悪さが否めなかったし、失点に繋がるコーナーキックを与えたレオ・シルバの自陣でのルーズな対応が気になる失点だった。

攻めあぐねる鹿島

序盤に2失点していることで、ものの見事に連敗中の嫌な流れを引きずっている感がありありとピッチに出てしまっている鹿島。どこが明確に悪い訳でもないが、なんかよく分からないうちにやられているという、流れとしては最悪に近い13分間だった。

ただ、徐々に落ち着きだしたことや、横浜FCが2点をリードしたこともあって引き気味になったことで、徐々に鹿島のボール保持の時間が増えていく。横浜FCの2トップに対して、鹿島は三竿が最終ラインに降りることで数的優位を形成。そこからボールを前進させることに関してはさほど苦労せずに出来ていた。

しかし、ここから鹿島は攻めあぐねてしまう。理由としては横浜FCの守備のメリハリが徹底していたからというのが大きいだろう。基本的には4-4-2のブロックを作ってスペースを消し、さらに高い位置でボールを失ったらすぐさまプレッシャーを掛けて、鹿島にカウンターに移る時間を与えなかった。おそらく、ボールを失ってから5秒間は全力でプレッシャーを掛け、そこで奪えないようならすぐさま撤退というような決まりがあったように思うのだが、いずれにしても鹿島はボールこそ握るものの、得意のショートカウンターも打ち出せず、思うように決定機を作り出せない時間が続くことになった。

鹿島としては、横浜FCの準備が整っていたために普段は勝てている攻守の切り替えの部分で競り勝てていないのも影響したのか、必要以上にボール保持からの崩しにこだわっている印象が伺えた。エヴェラウドが試合中にもっと自分めがけてボールをシンプルに入れるよう要求していたように、ロングボールを増やしてエヴェラウドのフィジカルをシンプルに活用していくやり方を選んでもいいように筆者も思えたが、チームはボール保持からの攻撃がほとんどで、前半はサイドからのクロスに攻撃が限定されてしまっていた。それでもシュートまで持っていたエヴェラウドのパワーは流石なのだが。

流れを変えた3枚代え

57分~

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2点ビハインドで折り返し、後半に入ってシンプルなロングボールを増やすことで徐々に打開の兆しは見えてきたものの、中々スコアを動かせない中で流れを大きく変えたのは57分の3枚代えだった。鹿島は白崎、荒木遼太郎、上田綺世を投入して布陣も4-1-4-1に変更した。

これがピタリとハマった。前線に掛ける人数が増えたことで、即時奪回に掛けるパワーが増すようになり、ボールを奪われてもすぐに奪い返して二次三次攻撃に繋げることで、横浜FCを自陣に釘付け出来るようになっていった。

流れに乗った鹿島は反撃の狼煙を上げる。58分、右サイドで荒木がボールを受けると、ファン・アラーノとの連係でゴール前に侵入。一度はクリアされたものの、三竿が拾うと二次攻撃が開始。最後はアラーノの折り返しをエヴェラウドが沈めて、鹿島は1点を返した。

勢いを加速させた白崎凌兵とポジションチェンジ

1点差に迫った後は鹿島がひたすらに攻め込む時間が続いていく。その中で光ったのは久々の出番となった白崎だ。これまではどうしても淡白な動きが目立ち中々序列を上げられなかったが、この日は連続性のある強度の高いプレーを披露。パスを引き出して捌いては動く、このプレーを連続させることを徹底させることで、よりチームの攻勢を加速させていった。

また、前がかりになるチームの中で彼のバランス感覚も活きていた。アラーノが自由な振る舞いを見せる分、彼が守備時にはボランチの位置まで下がってスペースを埋めたかと思えば、チャンスと見るやゴール前まで駆け上がってシュートに絡もうとする。後半の鹿島は白崎が影の司令塔として試合を動かしていた。

74分~

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さらに試合の流れを大きく決定づけたのは後半の飲水タイム前後だろう。横浜FCは3枚代えを敢行して、陣容をフレッシュに。一方の鹿島は前線をエヴェラウドと上田の2トップに変更した。

横浜FCとしては運動量を維持しながらリードを守り抜くつもりだったのだろうが、ボール保持の面で効いていた手塚や松浦を下げてしまったことで、手段が耐えること一択となってしまい、反撃や牽制の手段を失ってしまったのが結果的には痛手に響いたし、鹿島としては引いた横浜FCに対して上田とエヴェラウドのパワーを徹底的にぶつけることを選択。これが結果として、横浜FC守備陣に大きなプレッシャーを掛けることとなった。

やられたらやり返す

攻勢の時間が続く鹿島は最後のカードとして松村優太を右サイドに投入して、さらに攻めの色を強めていく。一方、横浜FCは最後のカードで前線の瀬沼を下げて、田代真一を投入して5バックにシフト。どうにかリードを守り抜こうとする姿勢を鮮明にした。

鹿島の攻勢が実ったのは88分だった。右サイドからのコーナーキックをファーでエヴェラウドが競り勝って折り返すと、これが横浜FC守備陣のクリアミスを誘ってオウンゴールに。鹿島は土壇場でスコアを振り出しに戻した。

さらに、押せ押せの鹿島はアディショナルタイムに再びコーナーキックを得ると、またもファーサイドでエヴェラウドと上田が競り勝って、こぼれ球は荒木の下へ。最後は荒木の折り返しを小泉が流し込んで、ゴールイン。鹿島は最後の最後で試合をひっくり返したのだった。

この2得点とも、横浜FCのゾーン守備の外にボールを蹴り込んで、そこにチームでもトップレベルに空中戦の強いエヴェラウドや上田がいるということは、おそらく2得点とも狙い通りの形なのだろう。確実に競り勝てる場所に競り勝ってくれる可能性の高い選手を置くことで、そこから直接仕留められなくても、こぼれ球がゴールに繋がる可能性は高くなる。前半、横浜FCにセットプレーで散々苦しめられたそのお返しと言わんばかりの2ゴールだった。

結局、試合はそのままタイムアップ。劇的な勝利を果たした鹿島は連敗を2でストップした。

まとめ

大きな一勝だ。先に2点先行を許し、さらにそこまでの時間帯は相手に好き放題やられていたものの、そのままズルズルと行かず、結果として試合をひっくり返した。連敗の嫌な流れを止めるだけでなく、今後に向けて勢いを得られる勝点3のはずだ。

今の鹿島は勢いや流れに関係なく泰然自若と構えてられるほどの強さは残念ながらまだ備わっていない。チームとして最終的にその強さを求めるのは間違ってはいないが、まだその実力がないうちに無理にそうした姿勢を求めるよりは、徹底的に自分たちのストロングを相手にぶつけていくことで主導権を握っていくハードパンチャーみたいなスタイルの方が今のチームには向いているはずだ。そうして積み重ねた勝利の先に、そうした強いチームがあることを過去の自分たちから学ぶことの出来るチームなだけに、余計にそう感じられる。

途中出場でアピールに成功した白崎や徐々に自らの持ち味を出すことが出来てきている松村のように、チームのスタイルの中で自らの実力を発揮できる選手が増えてきており、チームとしての幅も広がりつつある。ここから再び上昇気流に乗っていく時は、今しかない。

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