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【エースのお仕事】明治安田生命J1 第24節 鹿島アントラーズ-サンフレッチェ広島 レビュー

戦前

前節は中2日かつアウェイ連戦という厳しい日程の中、ヴィッセル神戸に3-1で快勝した鹿島アントラーズ。ただ、4試合ぶりのホームゲームとなる今節も中2日での試合と、過密日程は続いている。

鹿島が迎え撃つのは10位サンフレッチェ広島。今季は上位陣との戦績は芳しくないものの、下位チームとの対戦では確実に勝点を積み上げている。前節は親族のご不幸で城福浩監督を欠く中でヴィッセル神戸に2-1と勝利。今節は中5日での試合だ。

なお、両者は2月の開幕戦で対戦。立ち上がりに鹿島はビッグチャンスを作り出すが決めきれず、逆にミスとカウンターから失点を許すとその後は攻めあぐねて、終盤には再度ミスからトドメを刺されて、0-3と完封負けを喫している。

前回対戦時のレビュー

スタメン

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鹿島は前節から1人変更。上田綺世に代わってエヴェラウドがスタメンに復帰した。

広島は前節から2人変更。ボランチに青山敏弘を起用。チーム得点王レアンドロ・ペレイラが累積警告で出場停止の前線には、ドウグラス・ヴィエイラが入った。

強固な広島の守備ブロック

立ち上がりこそお互いにカウンターを繰り出す攻守が激しく入れ替わる展開となったが、10分を経過する頃になると試合は落ち着きを見せてくる。そうなったのは広島の守備の姿勢が理由として大きい。

広島の守備は時間の経過と共に、撤退の色を鮮明にしていった。5-4-1でブロックを敷き、鹿島にボール保持は許しても、最後のところではやらせない。その意識が強く伺える守り方をしていた。特に中央の荒木隼人と左の佐々木翔のところは強固さが際立っており、彼らは対人戦でもエヴェラウドに互角以上の勝負を繰り広げ、鹿島も試合を通じてかなり中央から右サイドの崩しには苦労していた。

鹿島としてはボール保持は許してもらえるため、焦点はそこからどうやって広島の守備を崩していくかという点に絞られていった。序盤の行ったり来たりの展開(特に6分の犬飼智也がワンツーで抜け出してシュートまで持ち込んだシーンは、相手にとっても完全に予想外だったはず)で先制できればベストだったのだがそうはいかなかったため、ボール保持で陣形を整えながら押し込み、ボールを相手陣内で奪われても即時奪回で二次三次攻撃に繋げてチャンスを作り出していく、という自分たちのゲームモデル通りの攻撃で広島ゴールに迫っていった。

広島の狙いと鹿島の狙われどころと

撤退守備に移行した広島だが、ずっと守りっぱなしだった訳ではない。彼らは二つのポイントから反撃のパンチを繰り出すことで、試合を五分五分に持っていった。

一つ目は、切り替えで鹿島のプレッシャーをいなしてボールを運ぶことだ。鹿島は自分たちが攻め込んでいた時にボールを失うと、すぐさまプレッシャーを掛けて、再びボールを奪おうと画策してくる。広島にとってはその際に鹿島のプレッシャーを外すことが出来れば、必然的に前がかりになっている鹿島の裏を突いてカウンターを仕掛けることが出来る。こうした機会を今節の広島はずっと狙っていたようで、ボール奪取の後のカウンターまでの移行は非常に効率よく行われていた。

起点となったのはシャドーの二人とボランチの川辺駿だ。単独でボールを運べるエゼキエウ、ピッチのあちこちに顔を出して受け手となり、チャンスメイクが出来る森島司、長短のパスを繰り出し、自ら長い距離を走ってゴール前に飛び込める川辺、彼らの特長を最大限に活かして、広島は鹿島ゴールに迫っていった。

もう一つのポイントは逆サイドを使うことだ。今季の鹿島はボール保持者にプレッシャーを激しく掛けるために、一方のサイドにボールがある時はそのサイドに布陣全体が寄るようになっている。広島はその激しいプレッシャーをかわして、鹿島が捨てている逆サイドに展開することでチャンスにつなげようとしていたし、そこからシュートまでたどり着くシーンも作り出している。

この捨てている逆サイドを使われるパターンは、このところ鹿島と対戦する相手が多く使ってくる方法だ。おそらくシーズンも半分を過ぎ、スカウティングから相手にとっては狙いどころの一つになっているのだろう。だが、鹿島としてはこのことを過度に意識する必要はないように思える。そもそも高い位置でボールを奪うことを理想としているチームにとって、プレッシャーを外されるリスクを気にして強度を落としてしまっては元も子もないし、逆サイドにロングキックでボールが渡る時間の間に素早く空けていたサイドにスライドして対応する、という意識もチーム内で徹底されているように試合中の振る舞いから感じられるからだ。

二つの打開点から鹿島ゴールに迫る広島。34分にカウンターからエゼキエウがポスト直撃のシュートを放ったように、こちらも決定機を作り出していた。鹿島としては紙一重ではあるが、今節こうしたカウンターから失点せずにスコアレスのまま試合を続けられたのが非常に大きかった。

広島の勝負どころ

0-0で前半を折り返して後半に入ったが、試合は徐々に膠着していく。お互いに勝負どころを探る中で、先に動いたのは広島の方だった。

58分~

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58分、広島は柏好文と浅野雄也を投入。ハーフタイムに城福監督が最初の5から10分は辛抱して戦おうと指示した通り、その辛抱どころを過ぎてから広島はスピードがあって自ら仕掛けられる二人を投入して、一気に得点を狙いに行った。

鹿島にとってこの試合の勝負の分かれ目は、この広島が勝負を仕掛けてきた時間帯で失点しなかったことのはずだ。実際、開始直後に浅野には左サイドをぶち抜かれあわやPKというピンチを作られているし、その後も彼のスピードに守備陣は大いに苦労していた。それでも結果的に失点しなかった。今まで敗れている試合ではこうした時間帯に耐えきれなかったことが響いていたが、今節の鹿島は中2日という状況にも関わらず、よく耐えたというべきだろう。

エヴェラウドの衝撃

広島の攻勢を耐えながら、鹿島も再びゴールを目指して前に出ていく。66分には永木亮太、荒木遼太郎、遠藤康と3枚同時に、75分には上田綺世も投入して、前線をリフレッシュして攻撃を活性化させようとしていた。

そんな中で、勝負を分けたのは76分のワンプレーだった。鹿島は右サイドでボールを繋ぐと、三竿健斗から逆サイドに展開。これをエヴェラウドが胸トラップで野上結貴との競り合いを制して、裏に抜け出すと最後はキーパーとの1対1を確実に仕留めて、鹿島は貴重な先制点を手にするのだった。

この試合荒木隼人に封じられていたエヴェラウドを上田投入によってプレッシャーの弱まる左サイドに回したことが功を奏した形となるが、それにしても衝撃の一撃だった。あの高さのボールを胸トラップで自分のものに出来るアタッカーはJリーグではまず中々お目にかかれないし、世界でも数えるほどだ。

対峙していた野上にとっても、エヴェラウドのプレーは完全に自分の予想外だったのだろう。野上としてはあのボールにエヴェラウドがヘディングで競ってくることを予想していたはずだし、もしヘディングで競ってきたなら競り負けたとしても、そのままシュートにまで持っていけるような体勢は作れないから、すぐさま失点に繋がるリスクは低いと考えていたのだろう。相手ながら野上のプレーはミスというよりも、自分の想定の上をいかれた相手を褒めるべきものだと思える。

先制した鹿島はこの一点で十分だと言わんばかりに、この後撤退守備に移行。84分には殊勲のエヴェラウドを下げて、関川郁万を投入して5バックに移行。最後はボールキープも混ぜながら、リードを守り切ってタイムアップ。1-0で勝利した鹿島は連勝達成。上位陣にまだまだ食らいついていける結果となった。

まとめ

試合の流れとしては決してパーフェクトなものではなかったのかもしれないが、中2日という状況下で完封勝利を挙げられたことは何よりも評価すべき事柄だろう。上に行くためにはこういう粘れるか粘れないかの局面の成否が大きく関わってくるだけに、今節の勝点3は大きな意味を持つはずだ。

後は何といってもエヴェラウドだ。先述したように今節は多くの時間を荒木隼人に封じられ、中々自身の仕事が出来ていない展開だったが、ワンプレーで自らの持ち味を見せて結果を残し、ヒーローとなった。これぞエース、これぞ助っ人というべきパフォーマンスだ。今節のゴールで今季13ゴールと一年目から期待以上の結果を残してくれているが、彼みたいな存在がいるとチームとして明確な柱が出来るので、戦いやすくなるのは間違いない。

今節の勝利で一度は脱落しかけたかに見えた上位争いが再び現実味を帯びるようになってきた。ここから名古屋グランパス、横浜F・マリノス、川崎フロンターレと上位陣との連戦が続く。今季の順位を左右する重要な試合となる。

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