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【足りないものはなんですか】明治安田生命J1 第6節 湘南ベルマーレ-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節、待望の今季公式戦初勝利を挙げた鹿島アントラーズ。負のスパイラルから抜け出し、ここから上昇気流に乗っていけるかというところで今節を迎える。今節は中3日でのアウェイゲームだ。

鹿島を迎え撃つのは湘南ベルマーレ。昨季辛くも残留を果たしたが、今季もここまでリーグ戦1分4敗と勝ちなし。前節も柏レイソルに2点を奪って追いすがったが、2-3で敗れている。

今節は気温27℃、湿度82%の高温多湿での試合。風もなく、連戦の中ではかなり過酷な環境と言えるだろう。

スタメン

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鹿島は前節から4人変更。左サイドバックに移籍後初先発となる杉岡大暉、ボランチに永木亮太、2列目には土居聖真、前線の一角には白崎凌兵が起用された。

湘南は前節から7人変更。GKにはJ1デビュー戦となる谷晃生、移籍後リーグ戦初先発となる馬渡和彰を左ウィングバック、岩崎悠人を2トップの一角で起用してきた。

良いとこ取りを狙う湘南の守備

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なるべく高い位置でボールを奪うために前からプレスを仕掛けたいけど、でもそうなると後ろの人数が足りなくなってしまう…。

簡単に崩されないように後ろの人数増やしたいけど、でもそうなると高い位置でボールを奪うのは難しい…。

サッカーの守備において、どんなチームでも直面する二面性の問題。前から行くのか、後ろに引くのか、その最適解を求め続けるのが守備というものでもあるのだが、湘南が今節選択したのはその良いとこ取りとも言えるものだった。

湘南の守備時の陣形は5-3-2。この前の5枚と後ろの5枚の役割分担は非常にハッキリしていた。前の5枚は前線からプレスを掛けにいく部隊、後ろの5枚はコンパクトさは保ちつつも引いてスペースを消す撤退部隊という風にだ。

これは湘南が自分たちの武器と陣容を考えた上でのものだろう。湘南の武器と言えば、走力を活かしたカウンターだ。チャンスと見れば、一気に人数を掛けて相手の守備が整う前に攻め切ってしまう。そのためにはなるべく高い位置で奪いたい。でも、チーム全体で人数を掛けて前から行くと、相手にロングボールで裏を狙われる可能性がある。そうなると1対1の局面が増えてくるが、湘南の守備陣にリバプールのファン・ダイクのような選手はいない。だから、後ろに守り切れるだけの人数は残しておきたい。この日の湘南は前から行きつつ、後ろの人数も残しておくという二面性を持った守備スタイルを取っていたのだ。

鹿島のリスク回避のマインド

そんな湘南に対して鹿島はどう振る舞ったか。湘南がボール保持時にあまりポゼッションにこだわらず、とりあえず縦に入れてセカンドボールの勝負で競り勝ってボールを拾い、そこから一気に手数をかけずに押し込む、というスタイルだったため、この試合は鹿島がボールを握る時間が長かった。

鹿島は湘南の2トップに対して、永木が最終ラインに降りてセンターバックと合わせて3枚で組み立てを行うことで、数的優位を確保。ここまでは今季これまでの試合でもよく見られた光景だ。

ただ、今節の鹿島はここ数試合で向上していた相手を引き付けた上でパスを出し、前の受け手が余裕を持って受けられるようにボールを前進させていく、といったプレーはあまり見られず、割と早い段階でボールを手放すことが多かったため、数的優位を確保した割にはそこまで効果的にボールを前線に届けることが出来ていなかった

これにはまだ鹿島の組み立ての完成度が高くないというのも影響しているだろう。ただ、それ以上に鹿島は高い位置で湘南にボールを奪われることを恐れていたという部分が大きいように思えた。湘南の武器は先述したように走力を活かしたカウンターだ。ただ、逆にそこを封じることが出来れば、失点の可能性をかなり削ることが出来る。湘南のボール保持からの遅攻は機能していたとは言い難いし、前線にスペシャルなアタッカーがいる訳でもない。

つまり、鹿島は湘南のカウンターを発動させないために、あえてリスクを避けた組み立てを行っていたのではないだろうか。何度も言うように鹿島が一番気をつけなければならないのは湘南のカウンターだ。しかも、先に失点してしまうと湘南は前から行く人数を減らし、後ろの人数を増やして守備を固めてくるだろう(実際、先制後湘南は本当にそうしてきた)。それを崩してゴールを奪うにはかなりのパワーがいるし、それを中3日の高温多湿の試合で求めるのはキツい。だからこそ、この日の鹿島は先に点を奪うことより、先に点を奪われないことの方を重要視した試合の入り方を選択したのだと思える。

打開点となる広瀬陸斗

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そんな訳で、立ち上がりからしばらくは鹿島がボールを持つものの、あまり押し込めているとは言えない時間帯が続いていく。その中で鹿島は右サイドから徐々に打開点を見つけ出していく。その足掛かりとなったのは、広瀬陸斗だ。

広瀬のボール保持時の立ち位置は最終ラインの3枚に近く、左サイドバックの杉岡と比べるとかなり低いものだった。広瀬はここでパスを引き出すことで、湘南の左サイドの山田直輝を引きずり出そうとしていた。山田を引きずり出したところで、ボールを受けに下がってきた白崎や土居にパスを預ければ、彼らは前を向いた状態で中盤の広いスペースを使うことが出来る。前から行く部隊にも後ろで引いて守る部隊にも人数を掛ければ、必然的にその真ん中でバランスを取る中盤の選手はいなくなる。広瀬の動きは湘南の守り方を逆手に取ったものだったのだ。

さらに、広瀬の良いところはそこから前に出ていく走力も兼ね備えているところだ。縦パスを入れた後、広瀬はすぐに前のスペースへと走りだし、中盤でボールを持った選手からのパスを受ける。そうすれば、自分の武器であるクロスを活かせる状況でボールが持てるし、プレスに来ていた相手を置き去りにしているため、スペースとボールを扱う余裕もあるという訳だ。

広瀬を活かすため、土居も前半の半ばあたりから立ち位置をやや中央寄りに変え、広瀬のパスの受け手となると同時に、広瀬が走り出せるスペースも作り出していた。左サイドの杉岡とエヴェラウドが共に高い位置でスペースもなく窒息してしまったり、エヴェラウドがせっかく楔を受けても、DFを背負った状態だと安易にボールロストしてしまって、左サイドがあまり機能していなかったことを考えれば、右サイドはまさに鹿島の攻撃の打開点となっていた(そこに気づいて、松田天馬と山田直輝の立ち位置を入れ替えて修正してきた湘南の動きも流石)。

相手に寄せられても慌てずパスを通せる力やクロスなどでチャンスを演出する力、またさらに終盤になっても上下動を繰り返せる運動量を考えれば、広瀬は鹿島の右サイドバックのレギュラーを不動のものとしつつあるだろうし、今鹿島で最も欠かせない選手になりつつある

明暗を分けた「個の」パフォーマンス

広瀬の動きもあって、徐々に湘南ゴールに迫れるようになってきた鹿島。前半の半ば過ぎから、後半に入ってもこの流れは続いていたが、肝心のゴールを奪うことが出来ない。

一番の決定機は59分に迎えたものだろう。犬飼智也からのパスを受けた上田綺世が強引に相手を剥がしてシュート、これがポストに当たってこぼれたところに白崎が反応したが、シュートは大きく枠を外れてしまった。

これを決められなかった鹿島に対して、湘南は途中出場の石原直樹が仕事をする。投入直後から前線で身体を張り、鹿島の最終ラインを押し下げて、同じく途中出場の中川寛斗が活きるスペースを作り出してペースを呼び込んだのを始まりに、巧みなポジショニングで犬飼のマークを外してチャンスを作り出していった。極めつけは、66分。右サイドからのコーナーキックでニアに飛び込んだ古林将太がすらしたボールにいち早く反応し、ゴールゲット。石原直がワンチャンスを活かした一方で、鹿島は犬飼が石原に翻弄されてピンチを止められず、白崎がワンチャンスを決められず。個のパフォーマンスがスコアに直結してしまう形となってしまった。

1点を追う鹿島は4枚のアタッカーを投入して猛攻に出る。しかし、湘南もルーキーの染野唯月にあえて激しくプレッシャーを掛けて染野のリズムを崩し(それでも最終盤でリズムを取り戻して、チャンスに絡み、ピンチも止めた染野はやはり只者ではない)、途中出場の岡本拓也はゴールラインギリギリでのシュートブロックを二度も見せてチームをピンチから救うなど、最後の最後まで抵抗を見せて鹿島にゴールを割らせず、結果としてそのままタイムアップ。

鹿島は連勝して波に乗りたかったが、敗れて17位に後退。一方の湘南は、待望の今季リーグ戦初勝利を奪う形となった。

まとめ

鹿島が決定機を決められず、湘南の決定機を防ぐことも出来なかった。敗因はこの部分が大きな割合を占めているだろう。

ただ、終盤はお互いに消耗の激しい時間帯で一気に前がかりになって攻め込んだため惜しいシーンも生まれたが、本来なら前半からそういったシーンをもっと多く作り出して、それをゴールに結び付けたいところだ。今の鹿島は相手ゴール前にボールを運んでる回数の割には、上手いことをチャンスを作り出せていない部分がある。

ザーゴ監督は浦和戦後にこんなことを言っている。

最後の3分の1のエリアでは、シュートやパスなどたくさんの選択肢がある。そこの部分は、選手たちが決断をする部分なので、私から指示を出すことはない。

これだけ聞くと、ザーゴは最後シュートまでの形は選手たちの判断に任せているように思える。ただ、私はこのコメントが本当半分、ウソ半分くらいなのではないかと思っている。

何故なら、鹿島の今のシュートまでの形はほとんどクロスからのものだ。もし、ザーゴが本当に選手にすべてを任せているのなら、チャンスシーンのバリエーションは良くも悪くももっとカオスになるはずだ。それがクロスからに偏っているということは、ある程度ザーゴがシュートまでの形を仕込んでいるのではないかと個人的には思っている。

個人的に今の鹿島の攻撃の問題点は2つあると思っている。一つはトレーニングで仕込んできたことが試合で上手く発揮できていない、もう一つはそもそもチャンスの可能性が高くなるようにボールを相手のゴール前に運べていないということだろう。

個人的には後者の方が伸びしろが大きいように思える。組み立ての成熟度を上げれば、もっと効率的にボールを前進させられゴール前に持っていけるはずだし、ボールを回しながらお互いのポジショニングを整えられるので、守備への切り替えの部分で相手を上回って、高い位置かつ相手の陣形が崩れた状態という、得点の可能性が上がった状態で攻撃をスタートさせることが出来るはずだ。

今季は過密日程やいきなり夏場にシーズンが本格稼働したことなどもあって、攻守の切り替えの部分で高い強度を保ち続けるのは中々難しいだろう。そんな状況だからこそ、高い強度を効率よく発揮できるための下準備が必要だと私は思う。ザーゴが目指す攻守の切り替えの部分で相手を凌駕するスタイルは、いずれ引いた相手をどう崩すのかという問題に必ず向き合わなければならない時が来る。そのための準備が組み立て、ビルドアップであったり、ポゼッションの部分を今までより重視するということなのだろう。ポゼッションにそこまでこだわっていないのでは?と思うシーンもあるが、今の鹿島のスタイルなら今以上にポゼッションを捨てて戦うことも出来るはずだ。

チームがいずれぶつかるであったであろう問題にザーゴはあえて早い段階で向き合って、解決しようとしている。今はそれゆえの苦しみなのかもしれない。

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