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鹿島アントラーズの行く末

あまりにもあっけなかった。天皇杯3回戦、昨季準決勝で苦杯を舐めたヴァンフォーレ甲府相手にリベンジを期した鹿島アントラーズだったが、試合はPK戦の2巡目にまでもつれ込んだ末に敗戦。2年連続で下位カテゴリーの同じ相手に敗れ、タイトルの可能性が早くも一つ消える結果となった。


厳しい岩政アントラーズの現状

岩政さんが鹿島の監督になってここまで1年弱が経つが、ここまでの結果としては正直かなり厳しいと言わざるを得ない。先述の天皇杯の結果もそうだが、リーグ戦でも後半戦に入っているが現在3試合勝ちなしで、首位との勝点差は13離されている。また、さらに厳しいのが、岩政さんやクラブが逐一言っていた「新しい鹿島をつくる」という面でもクオリティとしてはかなり物足りないということ。ピッチ上でチャレンジの痕跡を窺うことはできるものの、その進捗としてはあまりに進んでおらず、ゴールへは先が長く、その面影が中々見えてこない状況である。

ここで改めて、現状の岩政アントラーズについて整理したい。

<攻撃>
・軸となっているのは鈴木優磨とディエゴ・ピトゥカ
・優磨が自由に動く分、前線で起点となれるポストプレイヤーが必須
・大外からのクロスにターゲット2枚を飛び込ませる以外は、引いた相手を崩すのはそこまで上手くない
・藤井智也、松村優太、荒木遼太郎といったスペシャリティを持つ面々の組み込みは上手くいっていない
・ボール保持の中心はピトゥカ
・ピトゥカの他に、樋口雄太、仲間隼斗、名古新太郎らを起用するとある程度ボールは持てる
・CBは独力でボールを運べないため、ボールを前進させるためにはそれなりに人数が必要
自陣ポゼッションからのシュート率はここ数シーズンでは一番高い

<守備→攻撃>
・狙っているのは基本的に速攻
・第一選択肢は裏抜けした選手へのロングボール
・裏抜けがダメなら、密集をパスで打開してサイドに展開するか、ドリブルで独力突破
数字上はここ数シーズンに比べて良くない

<攻撃→守備>
・原則としては即時奪回
・4-4-2のブロック守備ができるときは、ブロック形成を優先させることも
・攻撃で陣形を動かしていると、スペースが生まれやすく消しきれないことも
・強度はそこまで高くない

<守備>
・ハイプレスと4-4-2ブロックの併用
・理想はハイプレス
・ハイプレスは強度が高くないのと、選手によってクオリティに差が出るのが課題
・4-4-2ブロックはある程度機能している
・CBの対人能力の強さ、早川友基のシュートストップで凌げている部分も

<まとめ>
・守備は10完封、1試合平均1失点を切っており、まずまず安定はしている
攻撃については中位から下の数字が多い

こう見ていると、必ずしも全てが悪いわけではない。「誰が出ても、思い通りにボールを運んで崩す」とまではいかないが、メンバーが揃えばボールを持つことは(ポゼッションからゴールにまでは中々至らないが)できるようになってきたし、植田直通の復帰や関川郁万の成長もあって4-4-2のブロック守備の強度はここ数年の中でかなり高いものになっていて、引いて守ってもそう簡単には崩されないところにまではきている。実際、岩政さんのコメントからもそうした成長は窺える部分がある。

データを見ると、非常にいいデータは出ている。自分たちでボールを保持したところからシュートまで行く確率やゴールにする確率はどんどん上がってきていると思っている。

アウェイ広島戦試合後コメントより

ただ、優勝を目指すチームにとってこの成長具合では目標値には程遠いと言わざるを得ない。

さらに言うと問題なのが、このチャレンジ&エラーの段階で一度勝ちなしの沼に入り込んでしまうと、そこから抜け出すのに時間がかかるということだ。今季だけですでに4連敗含む5試合勝ちなし、2度の3試合勝ちなしをリーグ戦で経験している。一度良い流れが切れてしまうと、それだけでチームとして一気に調子を落としてしまい、雰囲気が悪くなってチームビルディングもストップしてしまう。天皇杯に敗れた今だってそうだ。この負のスパイラルに鹿島は今季何度もハマってしまっている。

ましてや、今季はスタートから岩政さんが指揮を執り、編成もある程度岩政さんのやりたいサッカーに合うように整えられている(こんなに人数が多い状態なのは予想外だろうが)。それでこの結果である。まだ巻き返しの可能性はあるとはいえ、現時点ではとでも評価しがたいだろう。

未熟な岩政監督

ただ、個人的に言わせてもらえれば、こうなる可能性は十分あるなとは思っていた。

理由としては、岩政さんのキャリアとしての未熟さが挙げられる。たしかに、解説者としては慧眼が光っていたかもしれない。ただ、指導者の経歴としてはあまりに浅い段階で鹿島の監督を任せてしまった。育成年代でのキャリアはあったが、監督としては大学で1年やっただけで鹿島のコーチに招かれ、そこから半年で監督に就任。この状況で「新しいチームのスタイルをイチから作る」「結果を出す」ことを求められ、それに応えるのはかなり難易度が高い。岩政さんがグアルディオラやクロップのようなスーパースターならそれを達成できるかもしれないが、その可能性は必ずしも高くない中でそこに期待するのは、クラブとしてはかなり無謀な選択と言える。

岩政さん自身もこの自身のキャリアの浅さが故の苦労にぶつかっている部分がありそうだな、と思っている。具体的には選手の人心掌握の部分だ。岩政さんはこの部分にかなり気を遣っている。選手のやりたいプレーは中心選手であればあるほど基本的に尊重しているし、昨季の天皇杯に敗れた直後のアウェイ磐田戦や今季の負けが続いていた時のアウェイ新潟戦ではこれまでのやり方からスパッと切り替え、現実的に勝点を取りに行く方向にシフトした。これは基本的に岩政さんが選手たち個々を尊重しているスタイルなのもあるかもしれないが、自身にまだ確固たるカリスマ性がないため、選手たちの信頼を損ねると一気にチームが崩壊するリスクを回避したいが故なのかもしれない。ただ、現状を見ていると選手たちを尊重しすぎているからこそ、結果上手くいっていない部分も垣間見えてしまっている。

岩政アントラーズへのオーダーの妥当性

また、鹿島アントラーズというクラブとして、岩政さんに求めるオーダーの部分にも疑問が残るところは多い。先述したように、そもそも新人監督の岩政さんに新たなスタイル作りと結果の両軸を求めている時点でかなり無謀なオーダーなのだが、それ以上に「岩政さんのやりたいスタイル→クラブがやりたいスタイル」になっており、クラブとしてどういうサッカーがやりたいのかというのがあまりに見えてこないのが実情だ。

ちなみに、鹿島の今季の強化指針は以下の通りになっている。

主導権を握り、勝ち切るための勝負強さにこだわるフットボールを目指す。攻撃ではゴールへ向かう迫力とビルドアップのテンポ、守備では様々な試合展開に対応する守りの柔軟性を追求する。岩政大樹監督のもと、現有戦力と新加入選手たちを融合させ、新たな鹿島アントラーズのフットボールをみせる。

2023シーズン強化指針

言っていることはそれっぽいが、言ってしまえばこれは全て当たり前のことであり、強いチームはみんなこれができている上で、それ以上のプラスアルファを身につけているのだ。クラブとして求めていることは必要最低限で、それ以上は結果を出してくれれば、スタイルやプロセスはどういうものであっても構わない。そのオーダーの投げ方は、とても新人監督にしていいものとは思えない。

また、結果に対する姿勢にも岩政さんとクラブとの間でズレを感じる部分はある。岩政さんの姿勢はこうだった。

「開幕の時点で、一番の力を持つことは恐らくない。川崎、マリノスが抜けている状態」と現実を見据えながらも「そこに、僕たちも含めたチームが距離を縮めていくシーズンになる。開幕をどういう状態でスタートし、どういう状態で前半で勝ち点を稼ぎ、後半に優勝まで持って行くことを描きながらやっていく。絵はできている。最終的には一番高いところに立ってシーズンを終わりたい」

シーズン始動日のコメント

「ナポリはスパレッティ監督が1年目から結果を出していますが、サッリ監督の時代から何年も積み重ねたサッカーがあって監督がマネジメントしている。アーセナルはアルテタ監督が壊れたところからつくり直し、結果を出していますが今、4年目。監督1年目でも、難しさは違う。大きく分けて2つあるが、鹿島は後者ですから。難しさは当然あります。他のチームが当たり前に何年も前から取り組んだことに取り組んでこなかった現状がある。これを一からやりながら結果につなげる作業は簡単でない。それをやるために呼ばれたと思っている。それをやれると自分で言い聞かせながら選手と取り組んでいる」

開幕戦前日のコメント

選手たちに伝えているのは、リーグ戦は他のチームは関係なく、自分たちが勝ち点をいくつ取るかによって決まるものだということ。昨日までの結果は関係なく、自分たちがこれからどれだけ積み重ねられるか。2007年には9連勝して勝ち点42を稼いでいるが、それぐらいのペースでいけば、自分たちも勝ち点70に乗せられる。そうなれば1位か2位に入れると思うので、自分たち次第だと捉えている。

ホーム湘南戦試合後のコメント

こう見ていると、岩政さんは「チーム作りには一定の時間が必要」「すぐにトップに立てるわけではない」「積み重ねた結果、最終的にトップに立てればいい」というスタンスであり、あくまで優勝を目標にしながらも、そこには一定期間の紆余曲折があることを前提にしたコメントが多くなっている。

一方、クラブとしてはこうした目標を立てている。

アントラーズファミリーが一丸となり、国内3大タイトルの奪還に向けて戦う。今季スローガンの「Football Dream-ひとつに-」は、クラブがこれまでファミリーとともに大切にしてきた結束、団結への思いを表現した。タイトル獲得という唯一無二の目標に向け、選手、スタッフ、そしてクラブに関わるすべての人々とひとつになる。

2023シーズンチーム目標

こちらは「タイトル獲得という唯一無二の目標」という風に、明確に結果を出すことを求めているスタンスだ。これを考えると、岩政さんの「最終的に一番上を目指す」というのは同じなようで、意味合いが若干違っている。岩政さんが今のクラブの立ち位置やチーム作りの進捗状況を鑑みて段階を踏んでいるのに対し、クラブとしては昌子源や植田直通を復帰させ、知念慶、藤井智也、佐野海舟といった即戦力を獲得した今季はタイトル獲得がノルマだとしているように見えるのだ。このズレを踏まえると、クラブとしては岩政さんの進捗がタイトルには届きそうにないと判断した段階でアウト、という判断を下してもおかしくはない。新人監督に無理ゲーなオーダーをしているにも関わらず。

クラブとして難しいオーダーをして任せているのに、結果にはシビア。
その姿勢は今季が始まる時からずっと気になっていたし、その妥当性は上手くいかなかった時に果たしてきちんと振り返ることになるのか。その部分には未だ疑問符を付けざるを得ない。

鹿島はどうしていくべきなのか

では、現状上手くいっていない岩政アントラーズはどうすればいいのか。

案の一つとして挙げられるのは、参謀役となれるコーチの招聘である。経験豊富な副官を岩政さんの下に置き、チームのバランスを取ってもらいながら、チーム作りのスピードアップを図る。クラブとしてもそれを画策していた感はある。

だが、その案は現実的ではないと思う。なぜなら、チームを好転させるほどの手腕を持ちながら、未だ力量としては未知数な新人監督をずっと陰から支え続けてくれるような理想的な人材はそうそういないから、である。自分の力でチームを良くすることができるなら、わざわざ実績もない監督の下にいる必要もないし、自分が監督になってしまった方が手っ取り早いと思うのは自然なことだろう。ただ、それでは謀反の可能性がある武将を配下に抱えるのと同じこと。現場としては、リーダーには忠実、かつ適切なアドバイス役を求めているわけで、そんな都合のいい人を探すのは中々に難しい。

そもそも、ここ数年鹿島というクラブは何度もトライ&エラーを繰り返す中で結果を出せず、もはやそこにかつての常勝の面影はなく、川崎フロンターレ(今季は苦しんでいるが)や横浜F・マリノスといったここ数年の強豪とは水をあけられてしまっている。そのうえで、彼らに追いつけ追い越せとしている状況だ。

そこで考えなければならないのは、彼らと同じことを同じ時間をかけてやっていては絶対に追いつけないということである。当たり前だが、自分たちが成長している間、彼らは歩みを止めて待っていてくれるわけではない。鹿島がやらなければいけないのは、彼らと同じことを彼らより倍速でこなして成し遂げるか、彼らとは全く違うアプローチで強者への道を探るか、なのである。

だからこそ、「他のクラブでも時間がかかったのだから、自分たちがやるにも時間がかかる」という論法はあまりにも弱い。岩政さんもこうした事態になったのは岩政さんの責任ではなく、過去のクラブの行いが悪いのだが、監督という立場を引き受けた以上、この事実と向き合わなければいけない。

チームとして改めて岩政さんにどういうことを求めていき、岩政さんはそれに対してどのようなアプローチで応えていくのか。その部分をもう一度定めないと、鹿島はいつまでも口では立派なことを言っているだけである。そこに先はない。


遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください