さようならボクの2015年

ああ12月31日がまたやってきた。

ボクの住んでる賃貸マンションは、それなりの交通量のある道に面しているので年末年始は、静かになるから嬉しいといえば嬉しい。


2014年に角川ホラー文庫から出た『怪ほどき屋』は、おかげさまで2015年も二巻三巻と続けることができて、7月にはボイスドラマ になり、そして12月にはコミカライズが始まり、いろんな人にいろんなカタチで楽しんでもらえる作品をやっと生み出すことが出来たんだなぁと、感慨深い。

いまどき重版がかかるというのは、それだけでも凄いハードルを越えられたということなんだよと、小説の師匠の津原泰水に言われたのは嬉しかったし、そのおかげで筒井康隆さんや金子國義さんや四谷シモンさんに会うことも出来た。

なによりも関心をもってもらって、面白かったにせよつまらなかったにせよ感想がもらえることが、この仕事を続けていてなにものにも代えがたい喜びだ。


みなみ先生と二人三脚でずっと頑張ってきた甲斐があるというものだ。


ボクはマンガ家になりたくてなったのだから、おもに収入がエロマンガであろうとなんだろうと、夢はある程度は叶っている。
でも夢が叶うと、またその上の夢を見る。
それが『怪ほどき屋』で、知ることが出来た。



だが、好事魔多し。
4月になって突然マンガが描けなくなった。

それまでは打ち合わせをして、原作をみなみ先生に書いてもらって、それをネームにすることになんの苦もなかった。それで一ヶ月約48枚位描いて、スマホやPCで配信してもらい、その原稿料とダウンロード印税で、スタッフに少ないながらもお金を渡し、車を買うでもなく、ときどき壊れた家電を買い換えたりしながら家賃15万円の仕事場兼住居を維持してきた。

それが急に描けなくなった。

原因はいまだに分からない…やる気がでないのだ。
一日中眠たくて眠たくて仕方がない。

こうやってテキストは打てるんだけど…いままで俯瞰で見渡せていた、たった24枚のエロマンガの見通しがつかなくなった。とてつもなく広い砂場のようになってしまって、描いても消えてしまうのではないか?意味があるのか?これでいいのだろうか?と、仕事場に入ることすら尻込みするようになった。

いままで容易に描けていた吹き出しの円や、下描きのアタリの円にまで影響が出た。

右手が思うように動かないような気がして、描いては消す描いては消す、その繰り返しに疲れ、ため息が出てしまう。集中が続かない。


そんな中で、一社は電子配信から撤退するということで、取引が無くなった。そんなことはしょっちゅうあったから別になんでもない。

2008年からお世話になっている会社は要求も厳しかったんだけど、こんなボクにそういうこともありますからゆっくりやりましょうと、時々進捗を伺ってくれて、なんとか8月に24枚の原稿を渡すことが出来た。

重たいカラダを引きずって、酸素カプセルに通ったりもした。


シャープペンシルを、たまたま見かけた北星鉛筆の大人の鉛筆に変えてみた。いままですごく筆圧が高かったのに気づき、優しく描くようにしたらちょっと新鮮な気分になれたので、なんとか年内中に一作は渡せそうだ…そう思っていた矢先の11月に税務調査が入った。


ボクらのエロマンガはずっと売れなかった。でも「週刊アクション」など、雑誌にお色気要素がほしいからと一般誌や新創刊の雑誌にも誘われもした。

ただ雑誌アンケートはいいけど単行本は売れないタイプの作家だった。

2005〜6年あたりは、もうコンビニ誌に描いても単行本は出ないという有様で、人材派遣会社に登録してバイトしたりしていた。2008年に携帯配信が始まってから、突然もっと描いて下さいとお願いされた。

本から携帯に変わったとたんに、読者さんがガラッと入れ替わったのだ。

生まれて初めて事業収入で1000万円を超えて消費税を納める立場になった。
1500万円からじゃなかったのかよ!とビックリするくらい、そんなことが自分には起こりえないと思っていたのだ。

2010年と2011年の2年間で終わったけど。

ユーザーが携帯からスマホへ移行する期間は、配信会社も先行きが見通せずアプリで対応すべきか…しかしアップルは理由もなくリジェクトをするから…などで混乱し、ダウンロード印税が落ち込んだ。月に10万円くらいの印税は、雑誌に描いて単行本が出なかった頃に比べればマシなのだろうけど、住民税や国民健康保険の算出方式が変更されたため、急に金額が上がった。
税金や国保の支払いも分割にしてもらいながら、それでも仕事を増やしてスタッフを維持した。

2014年になると配信会社もユーザーさんもスマホへの移行が安定したせいか、だんだんとまたランキング上位に食い込めるようになり、印税も上向いてきて、また1000万円をほんの数万円上回ることになって、ああよかった…ボクのエロマンガはまだ受け入れられていると嬉しかった。

嬉しいけど…

また2012年と2013年の区役所とのやり取りをやらなくてはならないのかとため息がでた…

1000万円の事業収入は、そりゃあるに越したことはないけれど、決して楽ではない。

スタッフに年間300万円〜400万円を渡す。
家賃は年間180万円。避寒に来る義母や来客のために月極駐車場も借りている。水道光熱費やNHK受信料、通信費で年間50万円〜60万円くらいは必須。国民健康保険と特別区民税は、併せてだいたい50万円くらいになるかな。あと抜けがあるけど国民年金ね。

こうやって均してみると実質手元に残るのは20万円あるかないかくらいなんだけど、ダウンロード印税というのは払われてみるまで毎月幾ら入金されるのかが分からないから、毎月月末が不安でしょうがない。


そして4月からマンガが描けなくなったので、2015年の事業収入は半分くらいに落ち込むだろうなと概算していた11月に、税務調査が入った。


あちらは業務でやっているのは分かっているが、通帳一年分のコピーを提出しなさい、帳簿や日報もないのですか?ほかに隠している収入はありませんか?などと疑いの眼差しで見られることは、気分の良いものではない。
こちらは上がり下がりのある商売だから、昨年の分を少しは取り戻したいと、申告に手心も加える。
しかし練馬区の税務署は、マンガ家やアニメーターなどの作家業に馴れているので「材料費なんて年間10万円もあれば充分でしょう」全部お見通しですよと言わんばかりの態度だ。

いままで申告を手伝ってくれていたお義母さんとも相談して、なんとか修正申告をし納税も済ませた。

住民税の計算しなおしと、過少申告加算税10%、それから2年に遡って延滞金が発生するので、それらは通知待ちの状態だ。10万円で済めば御の字かもしれない。


国税調査官の人は「少額」と言ってたけどね。
まぁ彼らの普段扱ってる金額からすればそうなのだろうけど、今のボクにとっては大金だよ。



1000万円の事業収入が翌年半分に落ち込めば、払わなくてはならないものも払えない。

消費税を納めた2012年の事業収入は約800万円だった。翌年は600万まで落ち込んだ。毎月10万円でなんとかしているところに、毎月3万円を超える国民健康保険料なんか払えるはずもない。簡易保険が差し押さえられてたことがある。親がボクのために作ってくれていたのだ。

その間国民健康保険証は三ヶ月期限のものになり、払わなければ更新されないという状態になり、歯科以外の診療所は自由診療をしないから診療を受けられなかった。2015年の春に還付金で納められるだけ納めた。

おかげで2015年9月に救急車で運ばれる羽目になったときは、保険証が有効で幸運だった。

2015年の12月に、ボクの知らない記号番号のゆうちょ口座が差し押さえられたので、区役所に電話した。そこにそれだけの金額があるのに払わないのはおかしいと区役所は言うが、たぶん簡易保険のために作られたボクの自由にならない口座だろう。それだけの金額がボクの自由になるのなら、とっくに支払っている。

分割でも払いますからという主旨をまた説明したが、木で鼻をくくったような対応だった。春に窓口に納付に行った時に通知書には「9割の人が払ってます」と書いてあるのは本当ですか?と尋ねてみたが、そう応えるよう指導してるのだろう。

念書を書きますという交渉すら受け付けてくれなくなった。以前はこれだけ分払ってくれれば差し押さえは解除しますということが出来たのだが、全額納めるまで差し押さえは解除できないそうだ。

たぶん9割の人が納めているというのは嘘だろう。
余裕がなく上から言われているのだと、日本人なら誰でも察しがつく。

消費税額が上がり、そしてまた納めなければならなくなったり、マイナンバーを管理しなければならなかったりで、もうお義母さんの手にも負えなかろうと来年からはご紹介いただいた会計士さんにお願いすることにした。

お金で解決できることはお金で解決して、少しは心の負担をなくしたい。
それで倒れてばかりいては、原稿が上がらないからだ。

そんなわけで残念ながら2015年中にもう一本マンガを仕上げることが出来なかった。

でも放り出さないかぎり上がらない原稿はない。
それを決めるのは自分自身なのだ。


先日「ピカ☆マイ」という全力女優アイドルの現場に誘われて行った。
秋元才加ちゃんを応援している友人たちがハマって通っている理由も知りたかったし、4回の公演で合計600人動員できないと解散という課題を与えられたコたちに、せめてものクリスマスプレゼントになればという気持ちもあった。

メタ構造の芝居では「ガル☆ラン(ガールズ・オン・ザ・ラン)」というグループは、結局動員達成できずに終わるという結末だったが、演じていた「ピカ☆マイ」ちゃんたちは、動員達成してハッピーエンドで公演を終えることが出来た。


対バンしても彼女たちは他の地下のコたちと比べると、声量が違うのだと友人に教えられた。CDを購入し聴いてみたら、愚直なまでにエフェクトをかけていない、ほぼ生音と言っていい音源だった。
真っ直ぐすぎて売れないかもしれないけど、隣に座った友人は言った。

「練習は嘘をつかない」

なるほど、ボクの友人たちが応援したくなる理由はそこかと感じた。
秋元才加ちゃんを応援するボクたちは、AKB48時代から「秋元界隈は特殊だから」とよく言われた。全力で挑む者の夢は叶ってほしいと願う心の熱いヤツらが案外多いからだ。

ボクは「ガールズ・オン・ザ・ラン」を観ながら、聴きながら、彼女たちに「夢をあきらめるなよ、夢のカタチは変わってもいいんだよ」と言ってあげたいと同時に、それはボクも同じなんだよと改めて教えられた。

夢を諦めないという言葉は確かにカッコいいし、夢見る若者をバカにはしない。
ボクのようにぬるい夢の中でも諦めなければ、時々もっと上の夢を見られるチャンスはやってくる。そう信じている。

生々しい会計事情を書いたのは、こんな苦しい2015年だったけどボクはやっぱり夢のあきらめ方を知らないからだ。
マンガを描いたり小説を書いたり物語を書く、こうやって日記やエッセイを書いていたいんだ。

どうしてもやる気がでない…それでも信じて待ってくれる人の信頼に応えたい…なんとか描きたい…いままでのように描けるようになりたい。
作家でもアイドルでもその夢を諦めるか諦めないかは自分で決められるけど、ずっと夢の中で生きてゆくことは自分だけでは決められない。


アイドルなら応援してくれるファンが、
作家なら本を買ってくれる読者が、

そしてプロダクションや出版社など、いっしょに仕事をしたいと言ってくれる人たちが必要だ。

その人達のおかげで夢の中で生きていけるのだから、やっぱり自分自身がそれに応えられるモノを持っていなければならないのだ。

2015年は、冒頭に書いたように自分でも信じられないくらい嬉しいこともあったし、描けない苦しみも味わった。そして25年も作家生活を続けていて、まだこんなことがあるのかよ!とガックリすることもあった。


まだ書けないこともある。


2016年もどうせ何かあるに違いない。
待ってろよ、2016年!

すぐに行くからな!






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