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契約書のパーツを理解する6【契約書と契約用語】契約期間条項編

契約用語を契約書の「パーツ」としてとらえ、一般条項を個別に深掘りしていくシリーズも、終盤にさしかかってまいりました。第6弾の今回は、普段それほど着目されることのない「契約期間条項」です。

かといって重要でない条項かといえばそんなことはなく、ときに重大な期待をよせられている条項でもあります。

「1年間の自動更新で」などとするのが典型例かと思われますが、契約の期間にはそもそもどんな意味があるのでしょう?


なぜ契約に「期間」があるのか

契約に期間を設ける理由は、継続的な取引に一定の安定(取引の継続性によるメリットの確保)をもたらすためであると同時に、いつか契約を終了させたい時がくるかもしれず、その際になるべくトラブルを起こりにくくする機能があります。

なぜ契約終了にトラブルの懸念があるのでしょうか? たとえばあなたがマンションの清掃を請け負うビルクリーニング業者だったとして、ビルオーナーから年間契約で定期的な清掃を委託された場合、このビルオーナーを安定的な顧客ととらえ、取引継続への期待を持つでしょう。

あるいは、もしせっかく獲得したこの継続的な契約を、ビルオーナーさんが「打ち切ろう」と考えようものなら、あなたは存続を求め、契約解除に強い抵抗感をもつはずです。誰しも一度得た権利を失いたくないものですから当然です。


契約の終了時に揉めることは多い

理屈の上では契約を終了させることはただの手続きにすぎないのですが、売上を失うことになる側の抵抗感というものは並大抵のものではありません。そこで請負側は、なんとかして契約を維持させようとしたり、不合理な契約の打ち切りを発注者の不法行為として賠償請求しようと考えるかもしれません。

発注する側としては、継続的契約を締結する際に、それを終了させる場合があることを見込んで、無事に終了させられるように合理的理由を補強することが大事です。「期間の満了」もれっきとした契約終了の理由になります。加えて、解除事由の合理性に配慮した契約書にしておく必要があります。

個人的にも、契約は「終わらせるのが難しい」という印象があります。契約期間が決まっているのに、それをすぐには受け入れない人もいますから、締結よりも本当に気を使うのです。原因はやはり、継続的な契約には「安定」というメリットがあるからであり、それを維持したい側がなかなか態度を決めなかったり、翻したりするためです。

「期間の満了」を理由に契約を終了させる場合も、相手が当然従ってくれるだろう、などと期待せず、十分な予告期間をとったり、明確に書面で通知をしたり、その他相手の様子になにか変わったところはないか、感覚的な部分も総動員して察知する姿勢が必要です。


期間の定めがなければどうなるのか?

期間があっても揉めるのなら、逆に、はじめから契約期間を定めなければよいのではないか? と考えることもできそうです。

たしかに「期間の定めのない契約」は「いつでも解約できる」と一般に解釈されています。ただし、これもあくまでも理論上のことであり、生きた契約実務のなかにあってはこうした理論が自社を守ってくれるとは限りません。

むしろ理屈ではありえないことが次々起きるのが現実の世界であり、あえて荒波を想定して常に支度を整えておきたいところです。

この場合も、「期間を定めていない」ことで、かえって当事者の継続への期待や、実態、取引内容や業界慣習、信義則などが強く働いて、結果的に契約を終了させることが難しくなることは容易に想像できます。

やはり、契約期間をきちんと設定しておいて「期間満了による契約の終了」というカードを確実に使えるようにしておくこと、そしてそれだけに頼らず、不確定要素を想定して、合理的な解除事由を設定しておくことは最低限のポイントだと思います。


契約が終了すると個別契約も終了するのか

以上、契約期間条項の役割と注意喚起でした。今度契約書を読まれるときには、契約期間条項を見る目も変わるかもしれませんね。

今回の話はここで終わりのつもりでしたが、契約の終了にからめてちょっと小ネタを補足します。個別契約との紐づけです。

もし継続的契約が「基本契約+個別契約」方式の契約であった場合は、基本契約が期間満了(あるいは解除や解約)などによって終了するとき、「個別契約」も終了するのか、あるいは「個別契約」はそのままいきるのかという検討が必要なので、注意してください。

どちらが良いかは任意に選択していただくことですが、基本契約が終了した場合は個別契約も終わる(解除される)としても良いですし、履行が継続中の個別契約があるときは引き続きその個別契約は効力を有するとしても良いわけです。ただしいうまでもなく、いずれとなるかを契約で明確にする必要があります。


途中まで仕上がっていた注文品があったらどうなるのか

それからもうひとつ、やはり契約の終了にちなんで「あるあるネタ」を補足します。

継続的な契約が終了した場合に、もし受注者が途中まで仕事をやり終えていた時は、その成果物の報酬はどうなるのか? という問題です。

これに関して民法には、634条と648条の2という条文があります。

民法634条
 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責に帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
民法648条の2(第2項)
 第634条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。

つまり民法上は、途中でも報酬がもらえることになります。

民法634条が、仕事の中途成果があるときは請負契約が解除されても、請負人は、その履行済みの仕事について報酬を請求できるのが原則としているからです。648条の2は、委任契約でも同様だよということです。

具体的にシチュエーションを想像すると、たとえば建物を建てる請負契約がその建物の完成前に解除されてしまい、途中まで完成した建物が残されている状況とか、大量の事務作業を受託したが、作業に取り掛かったあとでその業務自体が不要になって、注文主がその業務委託をキャンセルした場合などがありそうです。

あなたも、「途中まで仕事を済ませていたのなら、部分的にせよ報酬を請求できるのはあたりまえ」と感じられたのではないでしょうか。

しかし、理論と現実とは違いますから、こうした結論が常に妥当とは限りません。

たしかに契約が途中で打ち切られたとしても、中途成果物(履行済みの部分)の報酬は請求できると考えるのが合理的です。ただ、よりリアルに考えれば、ビジネスにおいて契約が打ち切りになる事態とは、請負人や受託者に落ち度があったから、つまり「クオリティが低かったから」という可能性もあります(もちろんケースバイケースですが)。

もしそうなら、発注者側の心理としては部分的な「報酬」を支払う、というマインドにはなりにくいものです。民法には「注文者が利益を受けるときは」という条件がついているものの、実際にどのような状態であれば「注文者が利益を受けるとき」にあてはまるのかは難しい問題だし、ようするに当事者が、揉めて、こじれた結果「報酬なんか払いたくない」と言い出す場面だって、おそらく十分にあり得るでしょう。報酬支払い義務は原則として肯定されるべきですが、発注者の言い分も考慮したいケースがあるかもしれません。

契約書でこうした事態に備えるとすれば、受注者であれば民法の確認規定を、逆に、発注者であればこうした民法の規定を排除する特約を、それぞれ検討することが有効です。


点から線へ

契約を、成立時という「点」から拡張して、成立から終了までの二点を結ぶ「線分」でとらえるとき、このように新たな課題が見えてきます。契約って本当におもしろいですね。


契約書のひな型をまとめています。あなたのビジネスにお役立てください。


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