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労働契約書と労働条件通知書の違いとは? 【人を雇うときの契約書】

たとえば小さな会社を経営していて、「今度、ひとりだけ人を雇うことになりました」みたいな場合に、どんな書類が必要でしょうか。まだ「人事」というほど大ごとではないけれど、人様を雇用するわけだから、きちんとしなくては・・・。そんな時真っ先に思い当たるのは、労働契約書(雇用契約書)でしょう。

そして「やっぱりちゃんと契約書もかわしたほうがいいよな」と思って調べてみると、どうやら「労働条件通知書」というものもあるとわかり、どっちをつくるべきか迷われたりしないでしょうか。「そういえば労働条件通知書というのもあるみたいだけど、労働契約書とは違うのかな?」と。

 

労働契約書と労働条件通知書の違いは?

労働契約書と労働条件通知書の違いは、まずは法的な根拠の違いです。労働契約書は労働法に、労働条件通知書は労働基準法に定められています。つまりそのベースにある法律が違うということができます。

次に形式として違いは、労働条件通知書が会社(使用者)からの「通知」というやや一方的なものであるのに対して、労働契約書は当事者間の合意であるという区別もできます。

ただ、あなたが最も気になるのは、ようするにこの場合「どちらをつくればいいのか?」や、あるいは「両方つくったほうがいいのか?」 ということだと思います。


作成義務があるのは労働条件通知書

まず法律で決められていることでいうと、労働条件通知書は労働基準法による作成義務があります。つまり必ず作る必要があります。未交付の場合には罰金も定められています。

一方で労働契約書のほうは、そもそも労働契約が諾成契約であるため、労働契約書をつくってもつくらなくても、労働契約は有効に成立します。よってこの意味では、労働契約書は作らなくてもよいといえます。

労働基準法15条
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

ただし、労働契約書はたしかに労働契約(雇用契約)の成立要件ではないものの、契約の具体的内容を明確にするためには書面化が望ましいことはいうまでもないことです。そして、労働契約法にも契約の書面による確認の努力(できる限り・・・する)ということが求められています。

労働契約法4条
(労働契約の内容の理解の促進)
第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

契約書には、一方的な労働条件の「通知」というより「お互いの合意」という形式的な意味合いが含まれます。契約を確認する意味は、後で「言った」「言わない」になるのを防ぎたいというトラブル防止の面があるので、小さな会社であっても「労働契約書」を作成する意義は十分にあるといえます。

いろいろいいましたが、結局どうしたらいいのでしょうか? 

以下にまとめます。


まとめ

まとめますと、まず作成して交付する法律上の義務があるのは「労働条件通知書」のほうです。この根拠は労働基準法ですから、当然守らなければなりません。次に、前述の通り作成義務はないものの、お互いが合意して締結した証である「労働契約書」の利点も見逃せません。

よって結論として、会社にとって考えられる方法は、労働条件通知書と労働契約書の「両方」を作成するか、あるいは労働条件通知書を兼ねた(=労働条件通知書に書くべきことがもれなく含まれた)労働契約書を作成する、という2パターンから選ぶのがよいことになります。

ちなみに、労働基準法が明示を義務付けている労働条件というのは、労働基準法施行規則5条に書いてあります。つまり、以下に引用した労働条件の内容を盛り込んだ「労働契約書」を交付すれば、使用者は「明示の義務」を満たして労働契約を締結できることになります。

労働基準法施行規則5条
 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項


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