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契約書の基礎固め #8 知っておきたい法律3選

契約書の「基礎」を確認するための記事です。契約書についてこれから詳しくなりたい方はぜひ読んでください。重要なポイントが「一気に」学べます。

契約書の基礎を短時間で身につけたい人のために

「どこから学べばよいかわからない」「契約書がチェックできるようになりたいけど、読んで何が分かればいいのかもわからない」

といった疑問にこたえます。

本記事の内容

・契約書を読みとくのに知っておきたい法律を3つ解説します
・すなわち著作権法、下請法、印紙税法の3つが重要です

契約実務においては、著作権法、下請法、印紙税法が重要となります。それぞれ概要だけでも知っておきましょう。

著作権法とは

名前は知っていると思いますが、著作権法はかなり複雑な法律なので、正確に理解しているかといわれると厳しいのではないでしょうか。概要をつかむためには「文化庁のウェブサイト」に著作権制度の詳しい解説がありますので、まずはこちらの概要をご覧になるのが理解の近道です。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/index.html

著作権の帰属が問題になりやすい

ビジネス取引でよく問題になるのは、著作権の帰属と呼ばれる問題です。簡単にいえば、業務委託などで成果物を納品したときに、その成果物の著作権は売主のものなのか、それともそれを発注した買主のものなのか、という問題がでてきます。発注者としては「お金を払って買っているんだから、著作権だってこっちのものだろう。」と考えがちなのですが、法的にはそうではないのです。

著作物の創作を依頼し、報酬を支払ったとしても、著作権が譲渡されたことにはなりません。報酬があるかどうかということと、著作権まで譲渡されるかどうかとは別の問題だからです。著作権の譲渡をするときはそのように契約書に明記する必要があります。(著作権は譲渡できます。ただし人格的な利益を守るための著作者人格権は、譲渡できないことになっています。こうした細かい点については条文の作成をする段階であらためて検討しましょう。)

「 著作権が譲渡」されれば、つまり著作権をもらったことになるので、買主はその著作物を自由に利用したり、他人に利用させることもできます。そして著作者のほうも、あげてしまったことになるので譲受人の了解を得られない限り、その著作物を利用できなくなります。売主にとっても、譲渡するかどうかは大問題なのです。いまは、この点について契約書で正確に決めておかないと、トラブルのもとになるということだけおさえておいてください。


下請法とは

下請法はあまりなじみがない法律かもしれませんが、多くの業務委託取引に適用される法律です。

下請法の概要は、公正取引委員会のウェブサイトに詳しく載っています。特に、「下請取引適正化推進講習会テキスト」(PDF)は必読です。一度は目を通してみてください。
http://www.jftc.go.jp/shitauke/index.html

下請法が対象としているのは「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4種類の取引です。一般に業務委託といわれるタイプや、「〇〇を外注する」といった取引があてはまります。実際には細かい定義があるため、業務委託ならすべてあてはまるとは言えませんが、いまはイメージだけつかんでください。

親事業者から、これらの取引を下請事業者にたいして発注するときに、下請法が適用されることになります。ここでいう親事業者とか下請事業者というのは、その資本金の額で決まります。

たとえば、物品の製造・修理委託や、プログラム作成委託、運送、物品の倉庫における保管、情報処理を発注する取引の場合には、「資本金3億円を超える事業者から、資本金3億円以下の法人または個人への発注」と、「資本金1千万円を超え3億円以下の事業者から、資本金1千万円以下の法人または個人への発注」があると、下請法にいう親事業者、下請事業者の関係に該当します。つまり、下請法の適用取引となります。

それと、情報成果物作成・役務提供委託(ただし、上記の情報成果物・役務提供委託は除きます)を発注する取引の場合には、「資本金5千万円を超える事業者から、資本金5千万円以下の法人または個人への発注」と、「資本金1千万円を超え5千万円以下の事業者から、資本金1千万円以下の法人または個人への発注」がると、下請法にいう親事業者、下請事業者の関係に該当します。

つまり、取引の内容がどれであるかと、両社の資本金額のバランスによって、下請法の適用取引になるかどうかが決まります。ちょっと、適用基準がややこしいですよね。簡単にいえば、まず製造業務等か、サービス業務かで分け、次に委託者の資本金を調べて、資本金の対比で該当性をおおまかに判断します。

下請法が適用されるとどうなるの?

問題は、これらにあてはまった場合にどうなるかですが、ようするに発注者である親事業者には、義務と禁止事項があります。

義務は4つ 禁止事項は11項目

親事業者の義務は、全部で4つあります。書面を交付しなければならず、支払期日を決めなければならず、書類は保管しなければならず、支払が遅れたら遅延利息を払わなければなりません。すべて極めて常識的な事ばかりですが、ようするに親事業者が立場を利用して下請けいじめをしないように規制しているのです。

急に親近感がわいてくるから不思議ですね。

①書面の交付義務(発注の際は直ちに3条書面を交付すること。)
②支払期日を定める義務(下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること。)
③書類の作成・保存義務(下請取引の内容を記載した書類を作成し2年間保存すること。)
④遅延利息の支払義務(支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと。)

これだけではありません。禁止事項は11項目あります。しかも、これらはたとえ下請事業者の了解を得ていても禁止です。契約書の内容が禁止事項に抵触しないように注意する必要があります。


1 受領拒否の禁止(第4条第1項第1号)
注文した物品等の受領を拒むこと。
2 下請代金の支払遅延の禁止(第4条第1項第2号)
物品等を受領した日から起算して 60 日以内に定められた支払期日までに下請代金を支払わないこと。
3 下請代金の減額の禁止(第4条第1項第3号)
あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
4 返品の禁止(第4条第1項第4号)
受け取った物を返品すること。
5 買いたたきの禁止(第4条第1項第5号)
類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
6 購入・利用強制の禁止(第4条第1項第6号)
親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。
7 報復措置の禁止(第4条第1項第7号)
下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
8 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条第2項第1号)
有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。
9 割引困難な手形の交付の禁止(第4条第2項第2号)
一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
10 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条第2項第3号)
下請事業者から金銭,労務の提供等をさせること。
11 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(第4条第2項第4号)費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること。


印紙税法とは

最後に、印紙税法です。印紙税法により、課税文書には収入印紙を貼らなければなりませんが、契約書のなかには課税文書に該当するものが多くあります。課税文書に該当しないものもあります。これらを判断するために知っておく必要があります。

もっとも、電子契約の場合にはそもそも課税文書に該当しないため、印紙のことは一切考えなくてもよくなります。今後は印紙税の知識が不要になっていくことでしょう。

しかし、本記事の公開時点ではまだまだ紙の契約書も多くつかわれており、印紙を貼るのか、貼らないのか、貼るのだとしたらいくらの収入印紙は貼ればよいのか、といった疑問もでてくるはずですので、一応押さえておきたいところです。具体的な判断方法は、別の記事に書くことにします。


まとめ

契約実務では著作権法、下請法、印紙税法の知識が役に立ちます。他にもたくさんの法律がかかわってきますし、民法の幅広い知識も当然ベースにあります。とはいえ昨今はインターネットで法律関連の調べ物がずいぶんと楽になりました。そこで、先に概要をおさえておいて、必要になるたびに個別の論点を調べながら補強していくことができます。本記事もその役に立てば幸いです。

クイズ

以下の説明はただしいですか?

A社(資本金1500万円)は、B社(資本金1000万円)に対して、自社が製造販売する機器に使用するため、特殊部品の製造を委託した。この取引に下請法は適用されない。

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