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押印はなくならない。でも電子化・脱ハンコはしたほうがいい。

先ほど、上川陽子法務大臣が、婚姻届や離婚届の押印の欄をなくすことで「オンライン化を進めることを明らかにした。」との報道がありました(2020年10月9日)。これは押印廃止、いわゆる「脱ハンコ」の流れのひとつとして大きな話題となりそうです。

世の中から押印(ハンコを押すこと)は無くなるのでしょうか? 僕はなくならないと思っています。なぜかというと、いまの押印廃止論は、ビジネス上の契約締結とか、行政手続き(各種の届出とか許認可申請など)に必要なハンコを廃止することにより、オンラインでできることを増やして効率や生産性を高めましょうという趣旨だからです。よって、効率がさほど重視されない場面では逆にハンコが重宝されるはずです。

ようするに「ハンコのためだけに出社しなくてよいから」「プリントアウトや製本が不要になるから」「そのほうが速いし便利だから」という理由が脱ハンコの根底にあるからこそ、逆にいえば効率を必ずしも重視しない場面では、ハンコのメリットが大きく見えるのです。


ハンコが好まれる理由

ハンコのメリットとは、その原理(意思表示の確認)が直感的にわかりやすいことにあります。ハンコを手に持ち、朱肉を用いて印影を紙に押し付けるというアクションは、フィジカルな実感をともなうため、老若男女問わず、場所や環境もほとんど選ばずに実行できます。この単純明快さこそがハンコの良さであり長く重宝されてきた理由ではないでしょうか。

加えて、ハンコにはデザイン性と、それにともなう威厳、風格、重み、といった文化的な趣を感得できるという良さがあります。単に情緒的な側面だけではなく、書類にハンコが押してあれば「ぱっと見て」締結済みであるかどうかがわかるわけで、こうした視認性の高さや直感的なわかりやすさは、ミスを減らし、作業の効率を高める意味でも捨てがたい魅力でもあります。


企業も使い分けると思う

よって、まだまだハンコそのもの、押印という習慣そのものは部分的に根強く存続するはずです。特にその機会が頻繁ではなく、かつ重要度が高い契約には今後もハンコが使われるのではないでしょうか。たとえば企業同士のビジネス契約でいえば、まず「取引基本契約書」は(とても重要であるし頻度が低いから)代表印を用いて締結しておき、その後の個別契約については(相対的にリスクが小さく、頻度は高いので)電子契約で行うこととする、などと切り分けるケースが考えられます。


ハンコの方が良い場面

つまり契約には、それほど効率が重要ではないものがあります。冒頭の「婚姻や離婚」手続きがまさにそうだと思いますが、同じ人が毎日のように婚姻や離婚手続きをするわけがないので、この場合は「面倒」だとか「効率的にしたい」という気持ちがそもそも起こりにくいかもしれません。だとすると、「効率化の必要がない」として、まだまだこの分野については脱ハンコへの反発の方が目立ってくる可能性があります。

話はそれますが、ひとつの「反発」の材料として「ハンコを押すことで人は慎重になれる。オンライン化すると軽率になる。」といったたぐいの意見が予想されます。たとえば離婚手続きをするのにも、押印や窓口への持参という「手間」が本人に熟慮、再考をうながし、結果的に離婚を抑止できる、などと考える方がいらっしゃるかもしれません。が、仮にそうだとしても、そのようにして抑制された離婚件数など、極めて表層的な見え方の問題にすぎないのであって、「脱ハンコ」の是非とは少し論点のずれた議論に思えます。

ただそれでも、手続を受け付ける市区町村のほうには(しばらくは手続きフローが併存することによる混乱や負担があるにしても)、電子化されることによって効率や生産性の恩恵があるはずです。電子化されれば大量の手続きを、迅速かつ正確に処理することができるからです。よって長期的には報道のとおり、婚姻や離婚手続きもオンライン化、脱ハンコに向かうことは確定的ではないでしょうか。


電子化は進み、押印機会は減っていく

これらはやはり「人は便利さには勝てない」という、シンプルで個人的な感覚です。

たとえば僕が若い頃は電車に乗るときに毎回「紙製の切符」を買っていまして、それを駅の改札で毎回専用のハサミ(ハサミといっても、切符に一定の形の切り込みをいれるための、穴あけパンチに近いもの)をいれてもらっていました。知らない方にとっては想像すらできない風景だと思いますが、本当に電車に乗るたびにそれをやっていたわけです。

これらの懐かしい情景と文化的な背景をいくら強調できたとしても、まさか今からその方式に戻そうという人はいないでしょう。ようするに今の電子マネーや自動改札の方が、何倍も便利だし効率的だからです。そして一度それを使ってしまうと、切符にハサミをいれていたことは、もはや思い出すことすら難しいのです。


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