見出し画像

免責的債務引受の意味

そもそも免責的債務引受ってなんだ? という素朴な疑問から。普段はあまり着目することのない、民法の条文。なかでも今回の民法改正により明文化された、免責的債務引受についてメモ的にまとめます。

借金などの肩代わり

これまでは「条文にない法制度」として存在してきた「免責的債務引受」は、今回の民法改正で条文が新設されました(472条~472条の4)。免責的債務引受とは、引受人と債務者との契約、又は引受人と債権者との契約によって債務を引受人に移転させることで、簡単にいえば「借金などの肩代わり」契約ですね。

民法に条文が新設された

これまでの民法には書いてなかったのですが、判例などで実務には存在していたもので、規定が新設されました。条文を引用します。

(免責的債務引受の要件及び効果)
第472条 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

この条文の意味は、免責的債務引受は新しい債務者が債務を引き受けることで、新債務者だけが債務を負担することになり、もとの債務者は債務を免れるよということです。そして免責的債務引受は「契約によってすることができる」とあります。なるほど契約書がいるわけですね。ただし、単に債権者と契約すればいいのではなく、債権者と引受人との契約による場合は債務者への通知が、債務者と引受人との契約による場合は債権者の承諾が必要です。

免責的債務引受は契約による
①債権者と引受人との契約 → 債務者への「通知」が必要
②債務者と引受人との契約 → 債権者の「承諾」が必要

肩代わりということはつまり、借金など(債務)が引受人に移動して、以後はその引受人の借金になってしまうも同然なのです。しかも、引受人は求償権を取得しない(472条の3)ため、あとで元の債務者に返してくれということもできません。まったくの完全な肩代わりです。

そもそもなんでそんなルールがあるのか?

ここまで読むと、他人の借金を肩代わりしたうえ、あとで返してもらうことすらできないというような不利な行為があり得るのかという素朴な疑問がわいてこないでしょうか。僕ははじめ、なんでそんな決まりがあるのだろう。他人の債務を引き受けて、本人の債務は「チャラ」になるなんておかしい。と思っていました。

しかし民法に規定が新設されるくらいですから、こうした契約にも一定のニーズがあるわけです。免責的債務引受は相続などのシチュエーションで活用されます。

相続した借金を相続人のひとりが負担する場合

たとえば父親の残した借金が、3人の子に相続された場合、債権者は3人にたいして相続分に応じた割合で返済を請求することができます。それだと面倒であるし、借金のいきさつや兄弟間での実情にてらして公平でないなどの問題がでてきます。そこで3人の兄弟間で話し合って、長男がひとりで債務を引き受けることで合意したとします。

ただ3人で話し合って決めただけだと、兄弟間でのみ通用する話なので、債権者にたいしては意味がありません。そこで長男を引受人とする免責的債務引受の契約をすることで、債務者の交代を実現するというわけです。

もちろん、長男を除く二人が相続放棄する手もありますが、免責的債務引受契約は債務を限定して債務者を交代させることができるため、狙いを定めて債務を管理できる良さがあります。


あわせてお読みください

契約書のひな型をまとめています。あなたのビジネスにお役立てください。


もしこの記事が少しでも「役に立ったな」「有益だな」と思っていただけましたら、サポートをご検討いただけますと大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。