契約書のパーツを理解する 8【契約書と契約用語】解除条項編

契約書もまた単語のあつまり。ということで一般条項をパーツとして理解しようというこのシリーズも、第8弾「解除条項」です。悩む人も多いこの条項を深掘りして、一般条項はおおむね出そろった(定義にもよりますが)と思いますので、いったんこのシリーズも一区切りつけたいと思います。

解除はむずかしい?

どんな契約もいつかは終わるもの。

ただ、終了原因には種類があります。期間が満了したことによる終了もあれば、相手と話し合って契約関係を解消したことによる終了などです。そして今回説明する「解除」によっても、契約は終了します。

よく、いちど締結した契約を解除できるか? という論点がありますが、継続的契約が成立したら、理由がなければその契約どおりに維持されるので、気まぐれに解除することはできません。

一方の当事者が契約を終了したいとき、他方の当事者も同じならいいのですが(合意解約)、たいてい一方の利益は他方の不利益だったりするので、合意に至らないことも多いです。

そこで今回の解除条項の検討が必要となります。

民法上の解除

解除は原則としては遡及的に、おたがいが原状回復義務を負いつつ契約を終了させることです。解除による契約の終了は特別な事情があったとき、ある意味で「穏便にいかなかった」場合の、契約の後始末のようなものです。

民法は、相手方の債務不履行による契約解除を認めています。法律による解除なのでこれを「法定解除」と言います。法定解除には催告解除(相当の期間を定めて解除すると伝えてから解除すること)と、無催告解除(催告せずいきなり解除すること)とがあります。どういう場合に、どちらの法定解除とすべきかは、民法に規定があります。

ちなみに、旧民法にあった「債務者の責に帰すべき事由」は、新しい民法上は不要となりました。理由として「債務者のせいかどうか」とは関係なく、解除ができることになります。

民法541条
(催告による解除)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

541条のポイントとしては、軽微な不履行だと解除できないという点があります。ただしなにをもって「軽微」とするかは、実際にはケースバイケースとなります。

「無催告解除ができる場合」についても、たとえば全部の履行が不能になった場合や、履行拒絶の意思が明確に示されたときなどが民法で規定されました。もはや履行できないことがはっきりしているのに、催告するのは無意味だからですね。

民法542条
(催告によらない解除)
第542条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

契約上の解除

このように法定解除は、相手方の債務不履行(履行遅滞、不完全履行、履行不能)を原因とした解除ですが、契約で解除事由を定めておくことによる解除も原則として認められており、こちらは「約定解除」と呼ばれます。法定解除となる事由は民法の規定をみればわかりますが、実際の適用場面になると解釈の問題を生じます。そこで、法定解除の事由にプラスするかたちで、契約によって解除事由を合意しておこうというわけです。

ではいったいどのように約定しておけば、自社のメリットとなりうるのでしょうか。ここで、一般的な解除条項のサンプルをみてみましょう。経済産業省のモデル契約書から、解除条項部分を引用しました。

(解  除)
第52条 甲又は乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
① 重大な過失又は背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ その他前各号に準ずるような本契約又は個別契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2. 甲又は乙は、相手方が本契約又は個別契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も相手方の債務不履行が是正されない場合、又は是正される見込みがない場合は、本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
3. 甲又は乙は、第1項各号のいずれかに該当する場合又は前項に定める解除がなされた場合、相手方に対し負担する一切の金銭債務につき相手方から通知催告がなくとも当然に期限の利益を喪失し、直ちに弁済しなければならない。

ご覧のとおり、解除事由を列挙してあり、これらに該当したら催告なく解除だよ、といっています。

ちなみにこの条文例では「本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。」といっていますから、解除される対象は「本契約と個別契約」ということになります。

通常はこれで大丈夫ですが、たとえばこの当事者と締結中の契約がある場合や、今後想定される場合には、解除の対象を広げて(甲乙間で締結したすべての契約、など)おくことも検討できます。


「申立て」と「申立てのおそれ」

具体的な検討のイメージを感じていただくために、上記の解除事由からポイントをピックアップしてみましょう。

第2号に、

「支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合」

という解除事由があります。

これは、相手方の経営状態の悪化を示す兆候をとらえて、危なそうだったら契約を解除できることにしておこう、という意図がみえますす。

こまかいことですが「仮差押・・・の申立があった場合」の部分を「申立てがあった場合、又はそれらのおそれがある場合」とする例もあります。どう違うのでしょうか?

これは申立ての「おそれ」と意味を広げておくことで、明らかな兆候があれば現実の申立を待たずとも解除できると解釈でき、解除する側の初動をはやめる効果がありそうです。売主はこちらを検討してもよいと考えられます。


本契約又は個別契約を継続し難い重大な事由

第5号ですが、これもよく見かける解除事由です。「重大な事由」、「重大な契約違反」があったら解除だよといっています。具体的に書かなくても、重大な違反があったとして解除できれば、なにか不都合なことが起きたときに適用できるかもしれないので、便利な表現です。

ただし「重大」という表現に安心せず、実際にトラブルになった過去のケースがある場合には、そのまま例示しておけば、該当するかどうかの解釈上の争いになることを予防できます。


チェンジオブコントロール

また、上記の例文には書いてありませんでしたが、解除事由の例として、取引先の会社が合併等をした場合にも実質的な支配権の変化を理由に契約を解除できるとすることがあります。

これはいわゆる「チェンジオブコントロール条項」と呼ばれ、取引の相手方が事実上変更になってしまうことへの、リスクヘッジとして盛り込まれます。業界や取引規模にもよるのかもしれませんが、企業買収、組織再編、株主の大幅な変更などが起こり得ると判断した場合は、検討の意義があります。


おわりに 一般条項のふりかえり

ここまであっという間でしたが、全部で8つの一般条項の解説をしてきたことになります。項目だけざっとふりかえります。

①検収条項(商法526条の補足)
②危険負担条項(特定物の債権者主義は改正された)
③不適合責任条項(知った時から1年の救済)
④損害賠償条項(リスクを限定するテクニック)
⑤秘密保持義務条項(なぜ必要かの意識が重要)
⑥契約期間条項(解約との関係)
⑦合意管轄条項(訴訟リスクの回避)
⑧解除条項(解除事由の具体的検討)

当然ながら、どれも重要かつ頻繁に契約書に登場する条項です。

「土台」となるこれらのパーツが読めると、ほとんどの契約書の共通項が理解できることになります。契約書の検討もはかどることでしょう。少しでも読解の参考になりますと幸いです。


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