最適な支払条項の書き方【いくらを、いつまでに、どのように?】
「支払条項」は、契約書に欠かせないのに、丁寧に説明されることが少ない条項です。当事者が既に合意した代金等について描写的に記載するため、リスク条項などと比べると地味な印象、あるいは、どこか「イージー」な印象があるのかもしれません。
ですが考えてみれば、ビジネスの「売上」がもたらされるのは、支払条項が正常に履行されてこそのはずです。契約は債権の発生原因であり、支払条項は売上を直接規定する唯一の規定ですから、いわば「お札に印刷された金額の数字そのもの」ともいえます。支払条項はビジネス契約において最も重視されるべき条項とすらいえるかもしれません。
そんなわけで、まずは「支払条項」の原則的部分をあらためて確認しておきましょう。ここの基礎的理解があってはじめて、応用的、発展的なビジネス契約のリスク予防手法を理解することができるはずです。
支払条項の基本要素は「いくらを、いつまでに、どのように」
「支払条項」の要素は、①契約金額(代金)と②支払期日、③支払方法です。「いつ、いくらを、どのように」(支払う)、が記載されています。
①契約金額(代金)は「金〇〇円」、のように金額で表すこともあれば、「数量と単価」などの計算方法で表されることがあります。また、現金によるのか、それ以外の手段によるのかの別が示されます。
②支払期日は、明確に定めないと、期日がはっきりせず、債権管理に悪影響をもたらします。また、下請法の規制を受ける取引(下請取引)では、親事業者は支払期日も特定できるように明確に定める義務があります。たとえば「提供後○日以内」との記載では、支払期日が特定されないので認められません。
③支払方法とは、そのままですが、代表例としては「銀行振込」といったいわゆる決済手段を指します。振込のほか、手形や電子記録債権によることがあります。もしかすると将来的にはビットコインなどの暗号資産や各種電子マネーなどが、当たり前のように使われるかもしれませんね。
支払条項の具体的な記載例は、以下のようになります。
支払条項記載例1
業務委託契約書などでよく見かける、オーソドックスな記載例です。
支払回数を複数回に分けるなどの、バリエーションも考えられます。
支払条項記載例2
建築請負工事の代金の支払状況の記載例です。
支払条項記載例3
最後に下請代金の支払制度の通知書の記載例です。下請取引においては、親事業者は下請事業者にたいして、下請代金の支払方法等を書面で通知する義務があります。その例のうち、支払に関する部分の記載例です。
支払遅延について
支払条項の検討の際、下請法による支払遅延の禁止は、知っておきたいポイントです。もちろん、すべての取引が下請法の規制を受けるわけではありませんが、下請法の規律はビジネス契約全般に一定の基準を与える存在として重要です。
最も重要なのは、下請取引において、親事業者は「受領日」から起算して60 日以内に「支払期日」を定めて、下請代金を全額支払わないと、下請法違反となる点です。
ちなみにこの「60日」という期間の起算日である「受領日」ですが、親事業者が下請事業者から物品等又は情報成果物を受領した日、あるいは下請事業者が役務を提供した日のことですから、ようするにモノやサービスを発注者が「受け取ったその日」がすなわち「受領日」なのです。よって、受け取ってから数日事務所に置いておいて担当者が確認をしてからとか、実際に使ってみてからとか、などといった、そういう余裕の一切ない定義となっています。ですので契約書上でこれに抵触する規定にならないように、注意したいところです。
蛇足ですが、もし支払遅延が生じてしまうと、親事業者は下請事業者に対して、その遅延した日数に応じて「年率14.6%の遅延利息」を支払う義務があります。
では3つの記載例を見ていただいたところで、あらためて①契約金額(代金)と②支払期日、③支払方法のポイントまとめます。
①契約金額(代金)のポイント/消費税の記載、端数の記載
契約書の金額の記載では、相手方にいくら請求するか、あるいはいくら支払う必要があるかを明確にします。ここで見落としがちなのが「消費税」の表示です。忘れずに記載してください。
事業者が不特定多数の「消費者」に課税対象のモノやサービスを販売する場合は、「消費税を含めた価格表示」(いわゆる税込み表示)が必要です。事業者間の契約書においても、後日の疑義や確認の手間を避けるために、記載された金額が「税込」なのか、「税抜き」なのかを記載すべきです。「金〇〇万円(消費税別途)」のように書くか、別途「上記の金額/単価は消費税・地方消費税抜きの金額/単価です。」「法定税率による消費税額・地方消費税額分を加算して決済します。」などと書き添える例が考えられます。
またこまかいことですが、契約金額は数量と単価による記載や、ライセンス契約やフランチャイズ契約におけるロイヤルティのように一定の料率による計算結果として表記することもあります。あるいは、月額を定める継続的契約が月の途中で開始した場合や、契約途中で解約が生じた際などに対価に一定のルール(日割り計算等)で清算をすることで金額が定められるケースもあります。そうなるとまれに、計算結果に1円未満の「端数」が生じる可能性がありますから、こうした計算が見込まれる場合は「端数は切り捨て」あるいは「切り上げ」と指定しておくと、運用上の混乱を防ぐことができます。
金額を絶対額ではなく単価で表す場合の記載例
②支払期日のポイント/期間の確認
支払期日は、いうまでもなく「いつまでに支払われるのか」の記載です。「○年○月〇日に支払う」のように日にちを特定できることが望ましいですが、ビジネス契約の多くは、「毎月○日締切,翌月○日支払」のような支払制度で表されることも事実上多くあります。この記載方法でも構いません。
あるいは支払期日を一定期間経過後とする場合(例:納品した時から〇日以内に支払うものとする。)には、初日不算入の原則(民140条)を知っておくべきです。この規定によって、たとえば「納品した時から7日以内に支払う」とあるのは、納品日の「翌日」から7日が経過するまでという意味となります。
また、このように期間で支払期日を表そうとする場合に、期間の起算点を「納品時」「受領時」「検収時」「検査終了時」「検査合格時」など様々なバリエーションがあります。そのようなときはやはり下請法が下請代金の支払期日を「受領日から起算して60日以内」と明確に定めている点に注意します。(仮に「検収時」等から起算して60日以内の支払を定めると、下請法違反になる可能性があります。)
③支払方法のポイント/金融機関休業日、振込手数料
支払方法で多いのは、やはり「銀行振込」です。この場合のポイントは、支払期日が銀行休業日だった場合の対応と、振込手数料の負担の問題です。まず民法上、期間の末日が休日にあたるときは、期間の満了日がその翌日になることがあります。
よって、支払期日が休日の場合にはその前日に振込んでほしいときなどは、その旨の特約が必要です。よってたとえば「支払期日が休日の場合には、その直前の金融機関営業日を支払期日とする」のように記載します。翌営業日でも差し支えなければ、このような記載は不要です。
それから振込手数料ですが、一般常識的にいえば買主(代金を支払う側、債務者)が負担します。民法上も、弁済の費用は債務者負担が原則です(民法485条)。ただ、まれに買主が売主にことわりなく「手数料分を差し引いて振込む」といった事態も無いとは言えません。(下請取引の場合においては、「下請代金から下請代金を下請事業者の金融機関口座へ振り込む際の手数料を差し引いて支払う場合」には「書面で合意する必要」があります。)よって念のためとなりますが、契約書上で、振込手数料がどちらの負担になるのかを記載すべきと言えます。
まとめ
以上が、原則的な支払条項の解説となります。このような基本的な支払条件をクリアにしたうえで、解約時精算などのイレギュラーな対応を検討することが、契約によるリスク予防を真に理解できる近道だと思います。
支払条項はビジネス契約にとって不可欠な、大切な条項です。「いくらを、いつまでに、どのように」の3点を意識しつつ、実際の合意内容と表記に齟齬が無いか、下請法に抵触しないか、必要な事項が過不足なく表記されているか、確認してみてください。
少しでも参考になりますと幸いです。
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