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愛すべきヒッピーのゆまちゃん

彼女は裸族だった。家にいる時に服は着ていなかった。服を着ないのがなぜいいのか聞いたら少し間があってから「洗濯物が減るやん」って私に言った。それが裸で過ごすということの本当の理由じゃないことは分かった。というか最初から理由なんてないことは知っている。

ゆまちゃんはヒッピーだ。自分で言っていた。私もゆまちゃんのことはヒッピーだと思っているけど、今思うとヒッピーという単語が指す意味を正確にはしらない。私たちは、使っている言葉について辞書をいちいち引くわけじゃない。適当なイメージで使っている。だから、「ゆまちゃんってヒッピーだよね」って言ったら、人によっては「あの人のことはヒッピーって言わなくない?」って言われたりするだろう。それは置いといて、とにかくゆまちゃんは部屋にお香をたいて、酒に酔いながらクネクネ踊り出すのが常だった。

ゆまちゃんは、私がとても慕っている人生の先輩である。なぜなら、ゆまちゃんは世界を放浪しているからだ。直近だとスペインのイビザ島に住んでいたし、インドにも2年間滞在していた。私は自分が旅人になりたいからといって、他人が勇気ある旅人だと、途端にその人に尊敬の眼差しを向け出す。私の価値観の「ものさし」はいかに単純か。日本の生活とはかけ離れた旅をした人ほど、私の尊敬メーターは大きく振れる。インドで2年生活?すげえじゃん。速攻で「人生の先輩」入りだ。

ゆまちゃんは私と似ているところがあった。そして私はそれが少し不服だった。

私はある日仕事先の人間関係で、ある人に腹を立てていた。そして、ゆまちゃんにその人について愚痴った。だが、ゆまちゃんは愚痴に共感してくれるタイプの人間ではなかった。

「その状況なら、その人はこういう意味でその言葉を言ったんじゃないの。」「私だったら、こういう意味で捉えるけど。」私の愚痴に一切共感せず、次々に新しい考え方の提案をしてくる。私は物足りなかった。そう、ちょっとは共感してくれやって思っていた。

でも、私はまさにゆまちゃんと『同じタイプの人間』であった。つまり、他人の愚痴にただ共感することなんて、出来ない人間であった。他人は共感を求めて愚痴をこぼすのに、私たちは次々と論破したがった。第三者として聞いていると、その人が状況を一方面からしか見ていないことに即座に気付ける。それを、つついてやりたい。こういう風にも考えられない?と提案したがる。でも愚痴っている方は、そんなの要らない。

私は「共感が必要な人間」なんかになりたくなかった。ただ共感されるなんて、おもしろくない。違う意見があって、議論するのがおもしろいんじゃないの。

というのは、自分の中の模範解答なだけで、そう考える自分に憧れるんだけど、実際の心は共感を欲しがっているってことに気づいた。なんということだ。こんなことを言うなんて、今日の自分はなかなか正直に自分の心を覗いた。

ゆまちゃんは誰よりも「何気ない一言をかけるのが上手い」人間だった。説明するのは、難しい。

どういうことかというと、ゆまちゃんは「私を気にかけてくれる」と感じさせるのが上手かった。いや、「私を気にかけてくれる」と気付くわけではなく、むしろ無意識にそう感じるというレベルだ。ゆまちゃんは私と目が合ったら「おーう」とか「ヘーイ」とか言った。そして、私の名前を無意味に呼んだ。「ありがとう」って、何気なく、でも頻繁に言った。「昨日の休み楽しかった?」「連勤続きやん」って人の予定をよく気にした。何気ない声かけは、度重なると大きな親しみになる。実は私もしてみようとしている。だけどすぐに「してみる」ことを忘れた。

ゆまちゃんとは一緒にいて楽しい。刺激も受ける。ゆまちゃんに尊敬の目を向けているし、見習おうと思っている。でも、実は時々逃げたかった。

なんで逃げたいのかは、多分たくさんの理由があった。他人を見習って生活を改めようとするよりも、ありのままで、自由に、何も考えずに過ごしたいのかもしれなかった。だって他人を気にしすぎると、疲れる。誰も私を気にしてない状況がなんとも恋しくなる。(私が誰かを気にしているだけなのだが。誰もお前のことを気にしてなんかねーよ。ってことぐらい分かってるんだよ?)

誰かを常に「いいなあ」って見つめなきゃいけないのは、つらいもんだ。でもやっぱ、もっと一緒にいたら、何かを掴めるんじゃないかって気がしたりもする。

↑こんな考えはすごく利己的に聞こえてきた。人って自分にとって良いか悪いかで、一緒にいる誰かを決めるのかよ。

そんな考えで、一緒にいる人を選択したくなんかないよ。流れのままに人と出会って別れたいんだよ。ってかっこいいことを言っているように見えたけど、結構心からそう思いたいと思っている、

そんなわけで、ゆまちゃんは今日もまた生きている。あなたみたいな人がこの世に生きているなんて知らなかったよ。出会うなんて、想像もしてなかったよ。だから、出会えたことに結構びっくりしているよ。っていうお話。

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