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ファッションモデルと義足

義足っていうと、どんなものをイメージしますか?多くの人が、病気や事故で切断せざるを得なかった時に使う無機質なモノを想像するのではないでしょうか?今回はファッションモデルとしても活躍するAimee Mullins(エミー・マランス)さんを通して、失った機能を元に戻す「マイナス⇒ゼロ」テクノロジーと更に魅力的な機能を付け加える「ゼロ⇒プラス」テクノロジーについて考えてみたいと思います。

義足とは

義足とは何でしょうか?日本義肢装具士協会によると、以下のようなことが書かれています。

義足は、外傷や病気などで手足を失った場合に用いる人工の手足である義肢の一種で、切断した下肢に装着するものです。

また、Wikipediaなどネットで検索してみると、「下肢の欠損を補う補装具」、「人工の足」などと書かれています。いずれにせよ、下肢の切断後、機能もしくは外観の再現を目的に装着されています。つまり、片足もしくは両足を失い、できなくなった立ったり、座ったりという行為を取り戻すということがほとんどの場合の目的です。

義足の歴史

義足の歴史は非常に古く、紀元前というレベルになっています。人工の手である義手と比べても古いことからも、ヒトが生命を維持するために、足を使って歩く、移動するということの重要性がわかります。

古いもので有名なモノとしては、紀元前三世紀頃のカプアの墓(イタリア、ナポリ)で見つかった義足で「カプアの棒義足」というものがあります。また、イオニア人の花瓶(プランス、パリ、紀元前四世紀頃)にも、下腿の棒義足が描かれています。また、最近、最古の義足として、エジプトでも義足が見つかっています。この義足の発見は、世界で最も権威のある医学誌である「THE LANCET」で2011年に発表され、当時大きな話題になりました。

この論文が話題になったのは、単に古い義足が見つかったということだけではなく、この義足が外観をケアするだけではなく、歩行を助けるという機能がしっかりと補助されていたためです。詳細は論文に譲るとして、しっかりと体重を支え、前に進む際にかかる親指の付け根の圧力などが歩くのに適する状態になっていたという分析結果が報告されています。

一方、日本では幕末から明治初期に活躍した歌舞伎役者の沢村田之助と言われています。女形として活躍した沢村田之助は釘を踏み、足を切断しても、義足を使い、舞台に上がり続けたと言われています。

いずれの場合においても、義足は決して失った機能や外観を隠すためだけの手段としてではなく、移動したいという欲求をしっかりと叶えるため、もしくは自分の誇りを持った仕事をしっかりと行うため、即ち、「したいことをする」ためのテクノロジーとして使われていたということになります。

ゼロをプラスにする義足

「ゼロをプラスに」する義足としては、最も有名なのはアスリートが使う競技用義足でしょうか。何がゼロという状態かの定義が難しいですが、ブレードランナーとも言われ、競技レベルが急激に上がっており、オリンピックに出ても良いかということが議論になるほどです。

最近では、遠藤謙さんが「義足の図書館」など色々な活動をされており、一般の認知度も上がってきているように感じます。

そんな中、ここでもう少し取り上げたいのは、パラリンピアンでもあり、有名なモデルとしても活躍する Aimee Mullins(エミー・マランス)さん。少し前にTEDで行われたプレゼンが絶賛されたため、ご存じの方も多いかもしれません。(まだの方は是非ご覧ください)

このTEDでの彼女の話をざっくり言うと、

義足であるおかげでモデルとしての幅が広がっており、個性として誰にも出来ない表現ができている。例えば、足そのものを気で作って彫刻したり、ガラスにしたり、更には足の長さもファッションに合わせて自由自在に変更ができる。それは、他に人にとっては本気で嫉妬するレベルだった。

という感じです。

そのような経験を踏まえて、彼女は「障害は克服していくものではなく、プラスに増幅していくものだ」と言っています。そして、プレゼンの最後を以下のように締めくくっています。

I think that if we want to discover the full potential in our humanity, we need to celebrate those heartbreaking strengths and those glorious disabilities that we all have. I think of Shakespeare's Shylock: "If you prick us, do we not bleed, and if you tickle us, do we not laugh?" It is our humanity, and all the potential within it, that makes us beautiful. (私たちが持つ人間らしさに最大の可能性を 見出したければ 誰もが持っているすばらしい長所や 偉大な欠陥を褒め称える必要があります。 『ヴェニスの商人』でシャイロックが言ってるでしょ。 「針で刺せば血が出る」 「くすぐられれば笑いもする」 それが私たちの人間らしさであり そこに潜むすべての可能性が 私たちを美しくするのです) 

このような思想に辿り着くまでにどれくらい掛ったのかはわかりません。生まれてすぐに両足を切断されており、彼女にとってはある意味で両足が義足であることは当たり前であったのかもしれません。それでも想像を遙かに超えるような物理的、精神的な苦労が数え切れないほどあったはずです。それらを乗り越え、エイミーさんは義足であることを自分を演出するための個性だと言っています

Augmentationの技術は、新しい身体をデザインすることが可能です。物理的に「私」の範囲を再設定することになり、認知的、空間的にも拡大することが可能になります。

テクノロジーで全てができるとは思いませんが、テクノロジーでできることも少なからずあります。義足というと、マイナスをゼロにするデバイスと考えるのが一般的でしょう。ただし、エイミーさんのようにゼロからプラスにすることにも使えるです。もしゼロからプラスにしたいというユーザがいたときに、しっかり答えられる技術を研究開発しておく必要があります。いつの時代も障害があるのは技術の方です。決してヒトではありません。


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理工、医学部の教員を経て、パナソニックでロボット研究から新規事業開発まで担当するマネージャ。ヒトと機械の関係に興味有。Robotics HUB https://bit.ly/2YJrAUN Aug Lab https://bit.ly/2YojcP1 など担当。個人の意見です。
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