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困ったときに使われる「かなんなぁ」

「君にはかなわないなぁ」は「あなたには勝てない」を意味し、漢字では「敵わない」と書く。では、関西人の「自分、かなわんなぁ」はどういう意味か? この場合は「敵わない」ではなく「困ったもの」を表し、略して「かなんなぁ」ともいう。
「かなう」には「敵う」のほかに、「叶う」と「適う」があり、「かなん」は「適う」に近い。つまり、「理に合わない」ことを示しているのだ。
 たとえば取引先へ値上げの交渉に出かけたとする。諸物価の値上がりや人件費の値上げなど、さまざまな要因を説明して最後には頭を下げる。そんなとき、関東なら取引先の担当者は、「う~ん、困ったものだね」と表情を曇らせる。ただし、この時点では、値上げを了承するかどうかは不明だ。これが関西の場合、同じような状況で頭を下げたら、「う~ん、かなんなぁ」との返事が来る。ただし関東と違い、すでに条件を呑む意思があるのだ。
「かなんなぁ」には「あきらめ」の意味も含まれていて、「条件に合わないけれど仕方がない」ときに「かなんなぁ、そやけどしょうがないか」といったりする。また、どうしても断れない申し出を受けたときも、「かなんなぁ」と言いながら引き受けたりする。どうしても条件が呑めないときは「考えとくわ」と婉曲に拒否するか、単刀直入に「そんなん、あかん、あかん」である。
 この「かなんなぁ」は、人に伝えるだけではなく、独り言でも使う。天気予報で晴となっていたのに、突然、雨が降り出した時、「傘、持ってきてないがな。かなんなぁ」とつぶやく。電車に乗って席が空いていないとき、「今日、足痛いのに座られへんがな。かなんなぁ」と周囲に聞こえるようにいったりもする。この場合は「困った」の意味が強く、「貯金がのうなって、かなんわぁ」とか「財布落として、かなんことになった」とも表現する。
 ちなみに、「敵わない」の場合は「かなわん」で、「大阪は東京にかなわん」とはいうが、略して「かなん」とはいわない。肯定の「適う」は同じだが、「適った」は促音が音便化して「かのうた」もしくは「かのた」となり、「理に適った話」は「理にかのた話」だ。
 このように、「かなんなぁ」は否定語ではあるが、しぶしぶの肯定も含まれている。何らかの意思を示して「かなんなぁ」といわれても、完全な拒絶どころか、「仕方ない」「しょうがない」という意味であることを覚えておいて欲しい。

「関西人VS関東人 ここまで違う言葉の常識」(河出書房新社)より
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