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「京都大学 宇治キャンパス公開2022」見聞録02:17.タンパク質の構造を見る(タンパク質のX 線結晶構造解析)

2022年10月23日、私は「京都大学 宇治キャンパス公開2022」(以下「宇治キャンパス公開2022」、図00.01,[1])に一般客として参加した。

「宇治キャンパス公開2022」内の「17.タンパク質の構造を見る(タンパク質のX 線結晶構造解析)」で、大学院農学研究科(宇治地区)(以下同研究科,[2])は参加者にタンパク質の一種であるニワトリ卵白リゾチームの結晶化を体験してもらうことで、結晶を使ったX 線構造解析の原理をわかりやすく紹介した。

最初に、私はニワトリ卵白リゾチームを結晶化した(図17.01,[3][4])。

(a)②リゾチームを結晶化しよう:リゾチーム結晶化の手順。
(b)ニワトリ卵白リゾチーム結晶標本。撮影日:2022年10月29日。
(c)ニワトリ卵白リゾチーム結晶 約150倍。撮影日:2022年10月24日。
株式会社 ケンコー・トキナー製 Do・Nature デジタル マイクロスコープ STV-451Mを用いて撮影。
図17.01.ニワトリ卵白リゾチームの結晶化。

次に、同研究科はニワトリ卵白リゾチームを含むタンパク質のX線結晶構造解析過程(図17.02)、X線回折法の原理(図17.03,4,[5][6]のp.57-71)、および、単結晶X線構造解析装置であるブルカー社 D8 VENTURE(以下同機,図17.04,[7])も紹介した。

図17.02.X線によるタンパク質の結晶構造解析の実際。
図17.03.X線回折法の原理。
図17.04.ブルカー社 D8 VENTURE。

ニワトリ卵白リゾチーム結晶などの既知のタンパク質の結晶構造(=立体構造)の解析は同機でも可能である(図17.05)。

しかし、新規タンパク質の結晶構造を解析する際は、同機を用いて、結晶を厳選する。そして、SPring-8で回折データを測定してもらうことで、その結晶構造を決定する。

なお、X線放射光を使用する場合は、タンパク質分子を結晶化しなければ、その構造を見ることはできない。しかし、結晶化に成功していないタンパク質分子は多数存在し、細胞膜にある膜タンパク質もその1つである。一方、クライオ電子顕微鏡を用いる単粒子解析法では結晶化が不要であり、数多くの膜タンパク質の3次元構造の決定に成功している。また、X線自由電子レーザーによる単粒子構造解析を目指した取り組みも進められている。(図17.06,6のp.5-22,[8][9][10])。

図17.05.向かって左から、ニワトリ卵白リゾチームの結晶とそのX線回折像。
図17.06.シンクロトロンでの測定。

同研究科は「コンピューター モデリング 電子密度マップ」で、ニワトリ卵白リゾチームの電子密度マップ(図17.07,4)とGrimontia hollisaeコラゲナーゼの立体構造(図17.08,[11])を紹介した。

図17.07.ニワトリ卵白リゾチームの電子密度マップ。
図17.08.Grimontia hollisaeコラゲナーゼの立体構造。

 同研究科は「3Dプロジェクターによるタンパク質モデルの表示」で、ニワトリ卵白オボトランスフェリンの立体構造を紹介した(図17.09,[12][13][14]のp.189-190)。

(a)ニワトリ卵白オボトランスフェリンの立体構造。
(b)ニワトリ卵白オボトランスフェリンの鉄結合部位。
図17.09.ニワトリ卵白オボトランスフェリン。

同研究科は「コンピューター導入以前の構造解析」で、コンピューター導入以前のタンパク質の立体構造解析([15][16])で使用されたニワトリ卵白リゾチームのプリセッション写真(図17.10)、プリセッション カメラ FR504(図17.11)、ハーフミラー装置(図17.12)、および、金属モデル(図17.13)を展示した。

(a)写真本体。
(b)解説。
図17.10.ニワトリ卵白リゾチームのプリセッション写真。
(a)カメラ本体。
(b)解説。
図17.11.プリセッション カメラ FR504。
(a)装置本体。
(b)解説。
図17.12.ハーフミラー装置。
(a)金属モデル本体。
(b)解説。
図17.13.実際のハーフミラー装置で使われた金属モデル(α-ヘリックス)。

そして、同研究科は「タンパク質などの構造」で、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid:DNA)モデル(図17.14)、ニワトリ卵白リゾチームの分子モデル(図17.15)、アミノ酸分子モデル(図17.16)、および、タンパク質の二次構造モデル(図17.17)などを展示した([17]のp.24-38)。

図17.14.DNAモデル。
模型での1 cmは、実際の分子での0.1 nmに相当する。
DNAがタンパク質のアミノ酸配列を決める。
図17.15.ニワトリ卵白リゾチームの分子モデル。
モデルでの1 cmは、実際の分子での0.1 nmに相当する。
2014年09月ポケゼミ学生(1年生)作製。
主鎖はアラニンで作成し、重要な残基のみ側鎖を付けている。
4本のヘリックスと3本のストランドから成る1枚のシートがある。 どこにあるのか探してみよう(ヒント:ピンクの水素結合ができている所)。
図17.16.アミノ酸分子モデル。
図17.17.タンパク質の二次構造モデル。

私は本記事を執筆することで、同研究科によるタンパク質のX線結晶構造解析研究を知ることができた。また、この種の研究は私の予想以上に、進展しかつ大規模になっていることも痛感した([18])。

なお、ここで、タンパク質を知るために必須な文献やサイトを以下に示す。

1.10万種類のタンパク質,株式会社 ニュートン プレス,2016年10月25日,192 p.(ニュートン別冊).

本著はタンパク質の特徴、タンパク質の産生過程、タンパク質の種類、酵素の特性、タンパク質の形状の重要性、および、タンパク質研究の重要テーマを詳しく解説している。

また、「SACLA」を使用するX線自由電子レーザーによるタンパク質構造解析、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)、および、タンパク質を産生させないRNA干渉(RNA interference:RNAi)に関しても言及している。

2.チャールズ・タンフォード 原著,ジャクリーン レイノルズ 原著,浜窪隆雄 監訳.NATURE'S ROBOTS:それはタンパク質研究の壮大な歴史.初版 第1刷,株式会社 エヌ・ティー・エス,2018年03月29日,342 p.

本著はタンパク質研究の歴史書であり、かつ、タンパク質研究者の壮大な記録である。

3.公益財団法人 長寿科学振興財団.“三大栄養素のたんぱく質の働きと1日の摂取量”.健康長寿ネット トップページ.健康長寿とは.栄養素.2022年07月22日.https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/tanpaku-amino.html,(参照2023年01月14日).

4.株式会社 明治.“第2回「たんぱく質」って、何だろう?”.明治の食育 ホームページ.知ってミルク.https://www.meiji.co.jp/meiji-shokuiku/know/know_milk/02/,(参照2023年01月14日).

タンパク質は人体にとって非常に重要な栄養素であることを痛感する。

本記事が読者の皆様のお役に立つのなら、嬉しくかつ有難い。

関連記事



参考文献

[1] 国立大学法人 京都大学.“京都大学 宇治キャンパス公開2022 ホームページ”.https://www.jimu.uji.kyoto-u.ac.jp/open-campus/2022/index.html,(参照2023年01月06日).

[2] 国立大学法人 京都大学 農学研究科・農学部.“京都大学 農学研究科・農学部 ホームページ”.https://www.kais.kyoto-u.ac.jp/japanese/,(参照2023年01月16日).

[3] 国立大学法人 京都大学.“公開ラボ”.京都大学 宇治キャンパス公開2022 ホームページ.https://www.jimu.uji.kyoto-u.ac.jp/open-campus/2022/publiclab.html,(参照2023年01月06日).

[4] 国立大学法人 京都大学.“第1章 「タンパク質のX線結晶構造解析」”.京都大学オープン コース ウェア ホームページ.講義検索.生物理化学実験.https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/04/2012_seibutsukagakujikken_01.pdf,(参照2023年01月06日).

[5] 一般社団法人 日本分析機器工業会(JAIMA).“X線分析法の基礎と応用”.JAIMA ホームページ.分析機器情報.分析の原理.X線.https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/xray/foundation/,(参照2023年01月13日).

[6] 日本化学会 編,福本恵紀 著,野澤俊介 著,足立伸一 著.X線分光:放射光の基礎から時間分解計測まで.初版 1刷,共立出版株式会社,2019年07月31日,126 p,(化学の要点シリーズ).

[7] ブルカー ジャパン株式会社.“D8 VENTURE”.ブルカー ジャパン ホームページ.製品とソリューション.X線回折・X線散乱測定システム.単結晶X線構造解析装置(SC-XRD).https://www.bruker.com/ja/products-and-solutions/diffractometers-and-scattering-systems/single-crystal-x-ray-diffractometers/d8-venture.html,(参照2023年01月06日).

[8] 国立研究開発法人 理化学研究所,公益財団法人 高輝度光科学研究センター.“タンパク質X線結晶構造解析”.SPring-8 ホームページ.お知らせ.研究成果をやさしく解説.1999年~2005年.2000年.http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_05_2k/,(参照2023年01月13日).

[9] 公益社団法人 日本生物工学会.“結晶化はしなくて良いの?~クライオ電子顕微鏡の構造生物学への貢献~”.日本生物工学会 ホームページ.生物工学会誌.生物工学会誌 –『続・生物工学基礎講座-バイオよもやま話-』第91巻 第3号(2013年4月号)~第98巻 第12号(2020年).https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9706/9706_yomoyama.pdf,(参照2023年01月17日).

[10] 国立研究開発法人 科学技術振興機構.“SACLA X線自由電子レーザーによる単粒子構造解析を目指した取り組み”.J-Stage トップページ.SPring-8/SACLA利用研究成果集.7巻(2019)2号.書誌.https://www.jstage.jst.go.jp/article/springresrep/7/2/7_321/_pdf/-char/ja,(参照2023年01月17日).

[11] 株式会社 PR TIMES.“細菌性コラゲナーゼの結晶構造を解明 ― 既存酵素との基質特異性の違いが明らかに”.PR TIMES トップページ.プレスリリース.株式会社 ニッピ.2022年08月19日.https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000083625.html,(参照2023年01月13日).

[12] 国立研究開発法人 科学技術振興機構.“オボトランスフェリンの構造と機能”.J-Stage トップページ.化学と生物.35巻(1997)3号.書誌.1997年03月25日.https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/35/3/35_3_201/_pdf/-char/ja,(参照2023年01月16日).

[13] 日本蛋白質構造データバンク(Protein Data Bank Japan:PDBj).“35 フェリチンとトランスフェリン”.PDBj入門 トップページ.今月の分子.https://numon.pdbj.org/mom/35?l=ja,(参照2023年01月14日).

[14] 平山令明 著.カラー図解 分子レベルで見た体のはたらき:いのちを支えるタンパク質を視る.第1刷,株式会社 講談社,2018年05月20日,272 p,(ブルーバックス).

[15] 一般社団法人 日本蛋白質科学会.“第14回「タンパク質およびウイルスの結晶構造解析」 福山恵一先生”.日本蛋白質科学会 ホームページ.蛋白質科学会アーカイブ.シリーズ「わが国の蛋白質科学研究発展の歴史」.https://www.pssj.jp/archives/files/ps_history/PS_History_14.pdf,(参照2023年01月14日).

[16] 一般社団法人 日本蛋白質科学会.“第17回「蛋白質結晶学取り組んだ最初の頃」 月原冨武先生”.日本蛋白質科学会 ホームページ.蛋白質科学会アーカイブ.シリーズ「わが国の蛋白質科学研究発展の歴史」.https://www.pssj.jp/archives/files/ps_history/PS_History_17.pdf,(参照2023年01月14日).

[17] 平山令明 著.カラー図解 分子レベルで見た薬の働き:なぜ効くのか? どのように病気を治すのか?.第1刷,株式会社 講談社,2020年02月20日,312 p,(ブルーバックス).

[18] 国立研究開発法人 理化学研究所 放射光科学研究センター.“構造解析のプロセス”.放射光科学研究センター トップページ.研究内容.構造生物学について.http://rsc.riken.jp/st_bio/process.html,(参照2023年01月14日).

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