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スマートグラスの進歩:isee! “WorkingAwards”2023を介して、isee! "Working Awards"2018を振り返る

スマートグラスは眼鏡のような形状で、眼鏡と同様に目の周辺に装着して使用するウェアラブルデバイスの1つである。実際に見ている光景に情報を付加し、重ねて表示することができるディスプレイで、その用途から「拡張現実(Augmented Reality:AR)眼鏡」と呼ばれることもある。

スマートグラスは、視界を確保しながら両手が自由に使えることに大きな利点があり、産業向けを中心に実用化が進んでいる([1])。

弱視者(最近ではロービジョン者とも呼ばれる)は、目が全く見えないわけではないが、視機能が極端に弱く日常生活や就労の場などで不自由を強いられる。その見え方は人によって違いがあり、眼鏡の使用などこれまでの光学的な方法で矯正することは困難だった。この課題を解決する解決法として、市場に出てきそうな眼鏡型デバイス(いわゆるスマートグラス)がある。その中には、半導体レーザーの技術を応用し、網膜に画像を直接投影するものがある。こうしたデバイスは将来的には広範な応用を期待できる([2])。

2023年03月12日、私は一般客として、オンラインでisee! “WorkingAwards”2023(以下「2023」)に参加した([3])。

このイベントを契機にして、私はisee! "Working Awards"2018(以下「2018」)([4])に一般客として参加したことを振り返り、かつ、その会場であった神戸アイセンター「Vision Park(ビジョンパーク)」内に展示されたスマートグラスの紹介を決意した。そして、これらのスマートグラスを紹介する。

monoca projectはSmartEyeglass(図01)とスマートフォン アプリケーション ソフトウェア(図02)を展示した。

これらのスマートグラスなどは、ロービジョン者などの視覚障害者が単独で歩行できるようにする、monoca projectによる現在開発中の解決法である([5])。

SmartEyeglassに搭載されているカメラが撮影している映像を、遠隔監視のガイドが確認でき、かつ、このスマートグラスから全地球測位システム(Global Positioning System, Global Positioning Satellite:GPS)の情報も送信されるので、その使用者は現在地を把握できる。それ故、このスマートグラスの使用者は外出したいときには、いつでも外出できるようになる。

このスマートグラス単体で、文字・物体解析人工知能(AI)による信号機、トラック、トイレなどの物体検出や文字解析を提供する。また、仕事や日常生活でも利用できるよう、AIはアプリケーション ソフトウェアに組み込まれる。なお、このAIによる解析はクラウドでのそれと異なるので、機密情報の漏洩やプライバシーへの配慮に対処可能である。

図01.monoca project:SmartEyeglass。
図02.monoca project:スマートフォン アプリケーション ソフトウェア。

株式会社QDレーザは網膜走査型レーザ アイウェアRETISSAメディカル タイプ(仮)(図03,[6][7])を展示した。

図03.株式会社QDレーザ:網膜走査型レーザ アイウェアRETISSAメディカル タイプ(仮) 右目用。

網膜走査型レーザアイウェアRETISSAは小型で軽量な光学系を採用し、サングラスや眼鏡と同様の外観を実現したものである。

初期プロトタイプがA4サイズ、総重量7kgを超えていたのに対し、最新製品であるRETISSA® Display IIでは、眼鏡部分が約66g、コントローラ部分が掌サイズで約260gである。

このスマートグラスは、網膜投影によるロービジョン者などに対する総合的な視覚支援の実現を目指すだけでなく、新しいAR体験も実現している。

そして、株式会社オトングラス(本社:東京都千代田区、代表取締役:島影圭佑、以下敬称略)はOTON GLASS(図04)を展示した。

図04.株式会社オトングラス:OTON GLASS。

OTON GLASSは、島影が父親の失読症(2012年)をきっかけに、2013年に誰もが文字を読むことができる世界を実現したいと開発したものである。2017年に受注生産での販売を開始して以来、眼鏡部分に搭載されたカメラで撮影した文字を読み上げるという革新的な仕組みと眼鏡型ならではの使いやすさで注目されている。

2019年03月06日、株式会社ジンズは、ビジョンである“Magnify Life”(マグニファイ・ライフ=人々の生活を拡大し、豊かにする)を実現する活動の一環として、株式会社オトングラス(本社:東京都千代田区、代表取締役:島影圭佑、以下オトングラス)への事業協力を開始した。

株式会社ジンズは、OTON GLASSの製品改良や量産化へ向け、これまでのアイウェア ブランドとしての知見やノウハウなど様々なリソースを提供していく予定である([8][9])。

「2018」で展示された、スマートグラス以前のロービジョン エイド(補助具)には、据置型拡大読書器であるクリアビューC HD22(図05,[10])やiPad(図06,[11])が含まれる。但し、前者は据置型機器なので持ち運びが困難で、後者は持ち運びが可能とはいえ多少は嵩張る。

図05.株式会社 システムギアビジョン:クリアビューC HD22。
図06.iPad。
アプリケーション ソフトウェアの使用により、ロービジョン エイドとして使用可能。

スマートグラスは、それ以前のロービジョン エイドと異なり、容易に着脱可能である。その一方で、両者を併用するロービジョン ケアは、ロービジョン者の生活の質の維持や向上にとって必須である。ちなみに、その効果は網膜の再生医療に匹敵するものである([12])。

2021年02月26日、有限会社 エクストラはエンビジョン グラスを発売した。このスマートグラスは視覚障害者支援アプリケーション ソフトウェア「Envision AI」と連携して使用する視覚障害者向け高性能ウェアラブル端末である([13])。

また、2023年01月05日、Biel Glasses社とパナソニック株式会社は、2021年から共同で開発を進めてきた視覚障害者を支援するするスマートグラスのプロトタイプを初めて公開した([14])。

私は「2018」で展示されたスマートグラスを改めて振り返ることで、その研究・開発の最前線だけでなく、その利用の現状を知ることができた。これは私にとって非常に有意義なものであった。

私はスマートグラスの開発・普及を強く望んでいる。その一方で、私達の世界はテレビ アニメ『電脳コイル』のそれに近づきつつあるとも考えた([15])。



参考文献

[1] 株式会社 キーエンス.“スマートグラス”.製造現場で役立つIoT用語辞典 ホームページ.データ処理・活用、AI に関連する用語一覧.https://www.keyence.co.jp/ss/general/iot-glossary/smartglasses.jsp,(参照2021年03月27日).

[2] 株式会社 日経BP.“レーザー技術で弱視者を補助、網膜投影するスマートグラス”.未来コトハジメ ホームページ.社会デザイン研究.2016年10月03日.https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/design/h_vol5/,(参照2023年04月01日).

[3] 公益社団法人NEXT VISION.“isee! “isee! "Working Awards"2023受賞内容”.NEXT VISION ホームページ.isee! "Working Awards".https://nextvision.or.jp/prizewinner-2023/,(参照2023年03月24日).

[4] 公益社団法人NEXT VISION.“isee! "Working Awards"2018受賞内容”.NEXT VISION ホームページ.isee! "Working Awards".https://nextvision.or.jp/prizewinner-2018/,(参照2023年03月24日).

[5] monoca project..“私たちのチーム”.monoca project ホームページ.https://www.monoca.org/,(参照2023年04月01日).

[6] 株式会社 QDレーザ.“ビジリウム® テクノロジー”.QDレーザ トップページ.事業領域.https://www.qdlaser.com/applications/eyewear/,(参照2023年04月01日).

[7] 株式会社 QDレーザ.“RETISSAとは”.RETISSA トップページ.https://retissa.biz/about,(参照2023年04月01日).

[8] 株式会社 ジンズ.“株式会社オトングラスへの事業協力を開始”.メガネのJINS トップページ.お知らせ一覧.2019年03月06日.https://www.jins.com/jp/topics_detail.html?info_id=175,(参照2023年04月01日).

[9] 株式会社 オライリー・ジャパン.“ユーザーとの協働による新しいハードウェアのあり方を模索する — OTON GLASS代表 島影圭佑さんインタビュー”.Make:Japan ホームページ.Other.2017年05月16日.https://makezine.jp/blog/2017/05/oton-glass.html,(参照2023年04月01日).

[10] 株式会社 システムギアビジョン.“クリアビューC HD22”.システムギアビジョン ホームページ.据置型拡大読書器.https://www.sgv.co.jp/prd/desktop/clearview_c_hd22.html,(参照2023年04月01日).

[11] 公益社団法人NEXT VISION.“第47回「将来の夢や進路を考える集い」”.NEXT VISION ホームページ.ロービジョンの集い.https://nextvision.or.jp/%E7%AC%AC47%E5%9B%9E/,(参照2023年04月01日).

[12] 公益社団法人NEXT VISION.“代表者メッセージ”.NEXT VISION ホームページ.isee!運動.https://nextvision.or.jp/isee/message/,(参照2023年04月01日).

[13] 有限会社 エクストラ.“エンビジョン グラス”.エクストラ ホームページ.製品.2021年02月26日発売.https://www.extra.co.jp/envisionglasses/index.html,(参照2023年04月01日).

[14] パナソニック ホールディングス株式会社.“Biel Glasses社とパナソニックが視覚情報をサポートするスマートグラスをCES 2023に参考出展”.パナソニック グループ トップページ.Newsroom Japan.製品・サービス.企業・法人向けソリューション.https://news.panasonic.com/jp/topics/204980?_gl=1*icq9ee*_ga*MjQ3OTQ2MTYyLjE2ODAwMDQ0NzU.*_ga_K78QDTE73S*MTY4MDM0NDE1MC4yLjEuMTY4MDM0NDE2My40Ny4wLjA.,(参照2023年04月01日).

[15] 磯 光雄/株式会社 徳間書店・電脳コイル製作委員会.“あらすじ”.『電脳コイル』 ホームページ.https://www.tokuma.jp/coil/story.html,(参照2023年04月01日).

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