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ナノの世界で光る超微粒子!:理化学研究所 大阪地区 一般公開2019から学んだこと その07

PDF版は「ナノの世界で光る超微粒子!」を参照。


2019年11月23日、私は理化学研究所 大阪地区(以下大阪地区)を訪れ、一般客として理化学研究所大阪地区一般公開2019(以下同一般公開)に参加した([1])。

「18.ナノの世界で光る超微粒子!」(図01)で、生命機能科学研究センター(以下同センター)ナノバイオプローブ研究チーム(以下同チーム,[2])は量子ドット(図02,03,[3])を展示することで、高輝度・抗光退色・多色1分子イメージング用蛍光プローブ、細胞環境(膜電位、pH、粘性)に応答する近赤外蛍光プローブ、生物発光共役自己発光近赤外蛍光プローブ、“生体の第2光学窓”近赤外蛍光プローブ、および、がん転移・免疫・炎症反応の生体近赤外蛍光イメージング技術に関する研究を紹介した。

図01.「18.ナノの世界で光る超微粒子!」。
図02.量子ドット。
向かって左から右に進むにつれて、粒子径が大きくなる。
粒子径の微妙な違いによって異なる色の蛍光を発する。
図03.マウス模型内の量子ドット。
マウス模型内で赤色量子ドットが発光している。

2021年08月02日、同チームと門出健次 北海道大学大学院 先端生命科学研究院 教授らによる共同研究チームは、ヒトで唯一使用が認められている近赤外蛍光色素であるインドシアニン グリーン(Indocyanine Green:ICG)をもとに、ICGのポリメチン鎖を延長することで、短波赤外領域で蛍光発光するICG誘導体色素(ICG-C11)を開発したことを発表した。

ICG誘導体色素の合成はこれまで困難であったが、反応条件を最適化することで成功した。さらに、短波赤外の蛍光ラベル化剤(ICG-C11-NHS)も合成し、分子イメージング用蛍光ラベル剤を容易に作製できるようした。そして、ICG-C11-NHSを用いて、マウス乳がん腫瘍を高感度で検出した。

今回、合成に成功したICG系の短波蛍光色素は、短波赤外蛍光イメージング技術を医療応用する上で、ブレークスルーとなる技術である。これまで短波赤外蛍光イメージングの実用化を困難にしていた最大の理由は、生体で使用できる安全性の高い短波赤外蛍光色素がなかったことである。本研究成果により、短波赤外蛍光イメージング技術が医療分野で大きく前進すると期待される([4])。

なお、本研究は「18.ナノの世界で光る超微粒子!」で紹介された研究(図04)である。

図04.「がん細胞を光らせて検出するための仕掛けをわかりやすく説明しよう」。

また、2022年10月21日、同チーム、門出健次 北海道大学大学院 先端生命科学研究院 化学生物学研究室 教授ら、および、平野賢一 大阪大学大学院 医学系研究科 中性脂肪学 共同研究講座 特任教授(常勤)らの共同研究グループは、生体を透過する近赤外蛍光を用いた心筋脂肪酸代謝の生体蛍光イメージングを実現するため、ヨウ素(I)123 ベータ(β)メチル-p-ヨードフェニルペンタデカン酸(123I-β-methyl-p-iodophenyl-pentadecanoic acid:I-BMIPP)の放射性ヨウ素の代わりに近赤外蛍光色素Alexa680で修飾した近赤外蛍光プローブ「Alexa680-BMPP」を開発したことを発表した。この化合物が発する近赤外蛍光の観測により、ヒト心筋培養細胞およびマウス個体において心筋での脂肪酸代謝が可視化できることを確認した。

今回、世界に先駆けて合成に成功した近赤外蛍光を発する長鎖脂肪酸(Alexa680-BMPP)は、心筋における脂肪酸代謝の蛍光イメージングを可能にする。これにより、SPECTなどの放射線イメージングでしか検査できなかった心筋の脂肪酸代謝を、より簡便に画像化できるようになる。この近赤外蛍光を用いた心筋イメージング技術は、さまざまな心臓疾患研究への応用が期待できる([5])。

「18.ナノの世界で光る超微粒子!」から、私は近赤外蛍光プローブや生体近赤外蛍光イメージング技術の研究の最前線を知ることができた。その意味では、同チームに非常に感謝している。



参考文献

[1] 国立研究開発法人 理化学研究所 大阪地区.“大阪地区一般公開2019 開催報告”.理化学研究所 大阪地区 ホームページ.お知らせ.2019年12月25日.https://osaka.riken.jp/open2019/report.html,(参照2023年03月02日).

[2] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター.“チームリーダー 神 隆 D.Sci. ナノバイオプローブ研究チーム”.理化学研究所 生命機能科学研究センター ホームページ.研究.研究室.https://www.bdr.riken.jp/ja/research/labs/jin-t/index.html,(参照2023年03月02日).

[3] 株式会社 同仁化学研究所.“「蛍光生物学」の最前線3”.同仁化学研究所 ホームページ.製品情報.DOJIN NEWS.ドージン ニュース(2010年~2012年発刊).140号(2011年09月発行).http://www.dojindo.co.jp/letterj/140/review/02.html,(参照2023年03月02日).

[4] 国立研究開発法人 理化学研究所.“生体蛍光イメージングのための短波赤外蛍光色素-乳がんの光診断など医療応用に期待-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2021.2021年08月02日.https://www.riken.jp/press/2021/20210802_2/index.html,(参照2023年03月02日).

[5] 国立研究開発法人 理化学研究所.“心臓の異常を光で診断-近赤外蛍光を利用した脂肪酸代謝の生体蛍光イメージング-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2022.2022年10月21日.https://www.riken.jp/press/2022/20221021_1/index.html,(参照2023年03月04日).

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