免疫老化プロジェクト:令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所 一般公開から学んだこと その05

2019年11月09日、私は医薬基盤・健康・栄養研究所(以下同研究所)を訪れ、一般客として令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所 一般公開(以下同一般公開)に参加した(1,2)。

同研究所免疫老化プロジェクト(以下同プロジェクト)は加齢に伴う免疫老化現象の解明を目指した研究を行うことで、免疫老化メカニズムを解明し、かつ、ヒト臨床検体や霊長類動物モデルを用いて免疫老化現象のバイオマーカーを探索している。
それと同時に、加齢に伴う免疫老化現象を踏まえた創薬研究により、後天性免疫不全症候群(AIDS)根治を目指した免疫療法と万能インフルエンザワクチンを開発している(3)。

同プロジェクトは「8.私がオバあちゃんになっても~健康長寿の秘訣とは~」で、「免疫老化」に関して言及した(図01,4)。
「免疫老化」とは、免疫機能は加齢とともに低下するということである。
その原因は、加齢による骨髄や胸腺の委縮あるいは機能低下である。その結果、免疫機能が低下する。
その症状は、感染症に罹りやすくなり、重症化もしやすくなることである。特に獲得免疫の機能は加齢とともに衰えてくることため、新型インフルエンザなどの新型感染症にもかかりやすくなる。実際、上気道感染が原因で寝たきりになる、または、命に関わってしまうこともある。
なお、老化したヘルパーT細胞ではメニンの機能が低下しており、それがBach2タンパク量の減少につながっていること、ならびに、メニンがBach2遺伝子の転写・発現を維持していることが分かった。そして、ヘルパーT細胞の老化に伴って、メニンによるBach2の発現誘導が低下することが、細胞老化随伴分泌現象(5)やエフェクター・サイトカイン産生上昇を誘導し、老化に伴った免疫機能異常を誘発し、炎症疾患の増加を引き起こす可能性が示唆された(6)。

02..「免疫」の「老化」とは?

図01.「免疫」の「老化」とは?。

同プロジェクトは万能インフルエンザワクチンの研究・開発に関しても言及した(図02,3)。

03.この研究は

図02.この研究は何の役に立つの?。

同プロジェクトによる研究、特にAIDS根治を目指した免疫療法と万能インフルエンザワクチンを開発に、私は大いに期待する。

なお、参考文献4~6以外の免疫を知るために必須な文献を以下に示す。

審良静男 著,黒崎知博 著.新しい免疫入門:自然免疫から自然炎症まで.第1刷,株式会社 講談社,2014年12月20日,224 p.(ブルーバックス).
本著は、免疫系が非常に複雑な系であることを教えている。
特に、以下のことは非常に興味深い。
 腸内細菌が腸管免疫に関わっている(p.168-170)。
 大量の自己細胞のネクローシスが自然炎症を引き起こす。自然炎症が損傷組織の修復に関わっている一方で、2型糖尿病、痛風、および、アルツハイマー病などの多くの慢性疾患に関わっている(p.173-182)。
 がんの免疫療法と自己免疫疾患はある意味、表裏一体である(p.201-202)。

松本健治 監修.免疫学の基本.初版第1 刷・電子版ver1.00,株式会社 マイナビ出版,2018 年12 月28日,240 p.(運動・からだ図解).
本著は、免疫、免疫系、感染症、予防接種、アレルギー、自己免疫疾患、がん免疫療法、ならびに、臓器移植に関して簡潔かつ分かり易く解説している。

三村俊英 著.基礎からわかる免疫学.初版,株式会社 ナツメ社,2011年06月30日,231 p.
本著は、免疫、免疫系、感染症、自己免疫疾患やその治療薬、アレルギー、ならびに、がんやその免疫療法を知るための初学者向けの良書である。

宮坂昌之 著,定岡恵 著.免疫と「病」の科学:万病のもと「慢性炎症」とは何か.第1刷,株式会社 講談社,2018年12月20日,288 p.(ブルーバックス).
本著は慢性炎症、その関連細胞、それが引き起こす様々な疾患、ならびに、こうした疾患の治療法と予防法に関して言及している。
免疫チェックポイント分子群や免疫チェックポイント阻害薬に関しても言及している(p.115-127)。
慢性炎症が、がん、肥満、2型糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞、脳梗塞、肝炎、肝硬変、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ、老化、アルツハイマー病、うつ病、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎などを引き起こしていることは実に興味深い(p.129-202)。
上記の疾患の治療法として抗体医薬品が普及していることに時代の流れと技術の進歩を痛感する(p.203-235)。

山科正平 著.カラー図解 新しい人体の教科書 下.第1刷,株式会社 講談社,2017年10月20日,p. 10-65.(ブルーバックス).
血液と血球、ならびに、リンパ系器官と免疫系を知るための初心者用ガイドブックとして有用である。

免疫のしくみと難病治療への期待:アレルギーや難病も根治できる!.株式会社 ニュートンプレス,2013年11月15日,144p.(Newton別冊).
本著は内容が少し古いとはいえ、免疫系全般、病気と免疫、アレルギーとがん、ならびに、免疫学の歴史を知るための初学者向けの本として有用である。
なお、ページ数の割に情報量が多いので、読破には時間を要する。
私は本著から以下のことを学んだ。
 抗体の遺伝子(p.22-27)や免疫系による病原体に関する情報の伝達(p.30-37)に関する事柄は結構複雑である。
 自然免疫が自己免疫疾患に関わっているだけでなく、自然免疫による自然炎症が2型糖尿病、痛風、動脈硬化、および、アルツハイマー病などの多くの慢性疾患に関わっている(p.38-45、p.118-119)。
 ABO式血液型の比率は各人種・民族で異なり、その血液型で疾患の罹りやすさが変わる(p.46-51)。
 ウイルスワクチンや抗ウイルス薬は各ウイルスに対して開発・製造される(p.62-65、p.80-87)。
 加齢による胸腺の縮小、免疫細胞数の減少、皮膚の水分量の減少、ならびに、体力や内臓機能の低下などにより、免疫老化が生じる(p.68-73)。
 衛生仮説(p.102-103)。
 アトピー性皮膚炎やぜんそくなどの慢性アレルギー疾患に、好塩基球がその司令塔として関わっている(p.106-107)。
 マウスにおいて、2型マクロファージが皮膚のアレルギー炎症を抑制する(p.116-117)。
 大腸がんの進行に未分化骨髄球が関わっている(p.124-125)。

参考文献
1 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所一般公開の開催について【11月9日(土)】”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ.2019年07月01日.https://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/2019/07/005997.html,(参照2020年02月15日).
2 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“(当日の企画を掲載しました)令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所一般公開の開催について【11月9日(土)】”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ.2019年11月05日.https://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/2019/11/006087.html,(参照2020年02月15日).
3 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“Work”.国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 免疫老化プロジェクト ホームページ.https://www.nibiohn.go.jp/immunosenescence/mission.html,(参照2020年02月29日).
4 公益財団法人 長寿科学振興財団.“免疫系の老化”.健康長寿ネット トップページ.健康長寿とは.老化.2019年08月05日.https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka/meneki-rouka.html,(参照2020年03月01日).
5 公益社団法人 日本薬学会.“細胞老化随伴分泌現象”.日本薬学会 ホームページ.薬学豆知識.薬学用語解説.https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E7%B4%B0%E8%83%9E%E8%80%81%E5%8C%96%E9%9A%8F%E4%BC%B4%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%8F%BE%E8%B1%A1,(参照2020年03月01日).
6 国立研究開発法人 科学技術振興機構.“免疫システムの老化を引き起こす仕組みを発見”.科学技術振興機構 トップページ.プレスリリース一覧.共同発表.2014年04月02日.https://www.jst.go.jp/pr/announce/20140402-2/,(参照2020年03月01日).


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