ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)関連記事まとめ 第1版

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2020年07月21日、MSD株式会社(以下MSD)は、9価HPVワクチン「シルガード®9水性懸濁筋注シリンジ(組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来))」(以下シルガード®9)について、9歳以上の女性を対象に、HPV6、11、16、18、31、33、45、52、および、58型の感染に起因する子宮頸がん(扁平上皮細胞がん、および、腺癌)、および、その前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)1、2、および、3、ならびに、上皮内腺がん(AIS))、外陰上皮内腫瘍(VIN)1、2、および、3、腟上皮内腫瘍(VaIN)1、2、および、3、ならびに、尖圭コンジローマの予防を効能・効果として、製造販売承認を取得した(1)。
2021年02月24日、MSDはシルガード®9を9歳以上の女性を対象に、上記の疾患の予防を効能・効果として、発売した(2)。

一方、2020年12月25日、MSDは4価HPVワクチン「ガーダシル®水性懸濁筋注シリンジ(一般名:組換え沈降4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)、以下ガーダシル®)」に関して、以下の内容に関する製造販売承認事項一部変更承認を取得した(3)。
効能または効果:ヒトパピローマウイルス6、11、16、および、18型の感染に起因する肛門がん(扁平上皮がん)およびその前駆病変(肛門上皮内腫瘍(AIN)1、2、および、3)、ならびに、男性での尖圭コンジローマの予防適応の追加。
用法及び用量:9歳以上の男性への接種対象拡大。

私は一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(以下JAMT:ジャムティ,4)海外がん医療情報リファレンス(5)で翻訳ボランティアとして、米国国立がん研究所(NCI)や米国疾病対策予防センター(CDC)などによるHPV、特にHPVワクチンに関連する記事を翻訳している。
ここで、拙翻訳記事などを以下に示す。なお、原文はいずれもリンク先を参照。

 “HPVワクチン接種率低迷の「危機」― Noel Brewer博士との対談/NCIブログ~がん研究の動向~”.2016年02月17日.http://www.cancerit.jp/37870.html,(参照2021年03月29日).
2016年01月下旬、NCI指定がんセンター全69施設は、米国におけるHPVワクチン接種に関する合同声明を発表した。本合同声明はHPVワクチンの低接種率が続いている状態を「公衆衛生に対する脅威」と評し、親などの保護者が小児に接種するよう推奨し、そして、臨床医に「小児へのHPVワクチン接種を強く推奨することでがん予防を提唱する」よう要請した。

 “米国でワクチンが標的とする型のHPV感染有病率が低下/NCIブログ~がん研究の動向~”.2016年05月17日.http://www.cancerit.jp/38709.html,(参照2021年03月29日).
米国ではHPVワクチン接種の推奨以降、4価HPVワクチンが標的とする型のHPVによる感染が、10代女児で約1/3に低下したことが新規研究結果から示された。

 “CDCがHPVワクチン接種の推奨を更新”.2016年12月09日.https://www.cancerit.jp/53011.html,(参照2021年03月29日).
15歳未満の思春期においては、6カ月以上の間隔をおくHPVワクチン接種は3回でなく2回で十分であることを、CDCと米国予防接種諮問委員会(the Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)は新たな推奨で示した。

 “ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン”.2018年07月19日.http://www.cancerit.jp/38616.html,(参照2021年03月29日).
HPVワクチン、特にその重要性や安全性に関して、簡潔かつ詳しく記載している。

 “ISA101ワクチン+ニボルマブがHPV関連がんに奏効”.2018年10月18日.https://www.cancerit.jp/61021.html,(参照2021年03月29日).
Bonnie Glisson医師(MDアンダーソンがんセンター胸部・頭頸部腫瘍内科教授兼アベル―ハンガー財団特別教授)らはISA101ワクチン(強力な発がん作用を有するHPV16型が産生する主要ペプチドを標的とする)+ニボルマブの併用療法を実施した。
対象となった再発HPV16型関連がん患者24人のうち、22人は中咽頭がん患者、1人は子宮頸がん患者、1人は肛門がん患者であった。
8人(33%)で抗腫瘍効果がみられ、そのうち2人は完全奏効を示した。8人はいずれも中咽頭がん患者であった。奏効期間中央値は10.3カ月であった。
全生存期間中央値は17.5カ月、無増悪生存期間は2.7カ月、および参加患者の70%は12カ月まで生存した。
抗腫瘍効果がみられた8人のうち5人では依然として効果が認められている。

 “HPVワクチン―重要ながん予防手段を拡大”.2019年02月18日.https://www.cancerit.jp/62129.html,(参照2021年03月29日).
2018年11月、大統領府がん諮問委員会議長(当時)であるBarbara K. Rimer公衆衛生医師は米国の大統領および国民に対して、「がん予防を目的とするHPVワクチン接種―進展、接種の機会、新たな接種要請の呼び掛け」という報告書(以下同報告書)を発表した。
同報告書には過去5年間にわたる、米国などの全世界におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの最大限の使用に向けた進歩が記載されている。また、より多くの人々がこの極めて重要ながん予防ワクチン接種を確実に受けるための優先事項と方策についても記載されている。

 “AI二重染色検査により、子宮頸がん検診の精度と効率が向上”.2020年07月15日.https://www.cancerit.jp/66433.html,(参照2021年03月29日).
HPV検査による一次検診で陽性と診断された女性の追跡検査として、標準検査法である子宮頸部細胞診(パップテスト)と比較して、コンピューター・アルゴリズムが子宮頸がん検診の精度と効率を向上させたことが新たな研究で示された。この新たな手法は人工知能(AI)を使用して、二重染色の評価を自動化したもので、臨床所見に明確な意味を有するものである。
AIを用いた二重染色検査は、米国での現行の標準検査法であるパップテストの性能を凌ぎ、偽陽性結果の数を減少させ、不必要なコルポスコピー検査での確認を大幅に減少させた。
手動二重染色検査でさえ、HPV検査結果が陽性の女性の検診用に使用され始めたばかりである。AIを用いた二重染色検査を用いてHPV陽性の女性の検診ができるようにするためには、FDAによる追加承認が必要となる。この検査法が米国だけでなく日本でも承認・普及されれば、子宮頸がん検診が大幅に改善され、毎年何百万人も発生するHPV陽性の女性に影響を及ぼすことになる。

 “HPVが引き起こすがんの推計92%はワクチンにより予防可能”.2019年09月04日.https://www.cancerit.jp/63378.html,(参照2021年03月29日).
CDCの罹患率・死亡率週報(Morbidity and Mortality Weekly Report:MMWR)2019年8月23日号に掲載された調査結果によると、2012~2016年にかけて、毎年平均してHPV関連がんが43,999件報告された、また、HPVが恐らく引き起こした推計34,800件のがんのうち、92%がHPVワクチンの対象となるHPV型によるもので、HPVワクチンの推奨を継続するとこれらのがんを予防できるとのことである。
余談だが、私はこの件に関するツイートで一時的に有名になったことがある(笑)(6)。

 “HPVワクチンが男性の口腔HPV感染に対する「集団免疫」をもたらす”.2019年11月06日.https://www.cancerit.jp/63849.html,(参照2021年03月29日).
HPVワクチンが男性の口腔HPV感染に対する集団免疫をもたらしていることが示唆されている。米国において、口腔HPV感染は70%を超える中咽頭がんの原因となっており、また男性における中咽頭がんの有病率は過去数十年間にわたり急増している。
生涯美味しい食事を味わうためには、男性こそ、このワクチン接種が必要である。それに、口腔HPV感染により、中咽頭がんに罹ってしまえば、食事もままならないわけだし(7)。美味しい料理を満喫できることこそ、人生の最大の喜びだからね。

 “ヒトパピローマウイルス(HPV)とがん”.2020年02月01日(更新日:2021年01月22日).https://www.cancerit.jp/1035.html,(参照2021年06月04日).
HPVとそれが引き起こすがんや疣に関して、簡潔かつ詳しく記載している。
HPVワクチン接種によるHPV感染予防と子宮頸がんのスクリーニングに関しても、簡潔かつ詳しく記載している。

 “【子宮頸がん検診】パップテストとHPV検査”.2020年08月26日.https://www.cancerit.jp/52727.html,(参照2021年03月29日).
子宮頸がん検診に関して、簡潔かつ詳しく記載している。
HPV/パップ同時検査とHPV検査の両者により子宮頸部腺がんを含む腺細胞異常の検出が向上する可能性もある。子宮頸部の腺細胞異常および子宮頸部腺がんは、扁平上皮細胞異常および扁平上皮がんと比較して頻度が低い。パップテストにおける腺がんおよび腺細胞異常の検出率は扁平上皮細胞異常および扁平上皮がん(図01)の検出率と比較して不良である。
現在日本では、子宮頸がん検診に関しては、細胞診単独法とHPV検査単独法は強い根拠があり、明らかな臨床上の有効性が期待できるので、積極的に推奨される(推奨グレードA)。一方、細胞診・HPV検査併用法は対策型検診では実施が推奨されず、任意型検診では個人の判断に基づく受診を妨げないものとする(推奨グレードC)(8)。

01.がん細胞

図01.がん細胞と細胞診断するための基準。

2019年04月05日、「健康未来EXPO 2019」(9)ブース「臨床検査技師コーナー」にて撮影。
子宮頸部の正常扁平上皮細胞と扁平上皮がんの写真、ならびに、乳腺の正常乳管上皮細胞と乳管がんの写真が掲載されている。

また、他の翻訳者による記事も紹介する。
 “HPVワクチンとCRPS、POTSの因果関係はないと結論(欧州医薬品庁レビュー)”.2015年12月11日.http://www.cancerit.jp/37000.html,(参照2021年03月29日).
2015年11月5日、医薬品安全性監視リスク評価委員会(Pharmacovigilance Risk Assessment Committee:PRAC)がHPVワクチンを接種した若年女性で報告された複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)と体位性頻脈症候群(Postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)に関するエビデンスについて、詳細な科学的レビューを完了したと発表した。このレビューでは、HPVワクチン(サーバリックス®、ガーダシル®/シルガード®、および、ガーダシル®9/シルガード®9)とCRPSもしくはPOTSの発症の関連を、科学的根拠が支持していないと結論した。即ち、ワクチンの接種方法の変更、あるいは現在の製品情報修正を行う理由はないというものである。言い換えれば、これらの報告はワクチン対象年齢層で想定される範囲内であるという結論が出たわけである。

 “口腔内のヒトパピローマウイルス(HPV)検出と頭頸部がんとの関連性が前向き試験で示される”.2016年03月08日.https://www.cancerit.jp/38034.html,(参照2021年03月29日).
アルベルト・アインシュタイン医学校(米国アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市)のIlir Agalliu医師とRobert D. Burk医師らによる前向き試験から、HPV16型による感染が一部の頭頸部がんの発症に先立って起きていることが確認された。

 “HPVワクチン接種により口腔HPV感染が減少”.2017年05月30日.https://www.cancerit.jp/55609.html,(参照2021年03月29日).
米国の若年成人を対象とした、HPVワクチン接種の口腔HPV感染に対する影響を調査した初めての大規模研究で、未接種群に比べて1回以上の接種群では、高リスク型HPV感染の有病率が88%低下したことが示された。

 “HPV(子宮頸がん)ワクチン:親が子供に接種させない本当の理由”.2018年11月27日.https://www.cancerit.jp/61381.html,(参照2021年03月29日).
ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らによる新たな調査データ研究によると、HPVワクチンを親が自分の子供に接種させないのは、ワクチン接種が若者の性行為を促したり、支援したりすることが心配なためであると医師らはこのワクチン推奨がなかなか進まない理由をしばしば説明しているが、この理由でワクチン接種をさせなかった親はごく一部であった。むしろ、子どもを予防接種から遠ざける親の懸念は、安全性への不安、必要性の欠如、HPVに関する知識の欠如、および、医師推奨がないことに集まる傾向であることが明らかになった。

 “HIV感染高リスク成人でのHPVワクチン接種率は低い”.2019年04月18日.https://www.cancerit.jp/62475.html,(参照2021年03月29日).
後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染するリスクの高い成人は、肛門がんや子宮頸がんの原因となり得るHPVに対するワクチン接種率が一般集団よりも低い傾向にあったことが、明らかになった。
ゲイまたはバイセクシャルの18~33歳男性では、約1/4(25.7%)が3回HPVワクチン接種を開始しており、6.2%が3回ワクチン接種を完了していた。
リスクの高いヘテロセクシャルの18~36歳女性では、約1/4が3回HPVワクチン接種を完了していた。
リスクの高いヘテロセクシャルの18~29歳男性では、3回HPVワクチン接種を開始していたのは全体のうちわずか11%であった。
トランスジェンダーの男女や性別不適合の人々でHPVワクチン接種を開始した人はいなかった。
非ヒスパニック系黒人の回答者のワクチン接種率は、他の人種/民族群と比較して非常に低かった。
上記の性的少数者こそ、積極的にHPVワクチン接種を受けるべきなのに(呆れ)。

 “HPVワクチンで子宮頸がんリスクが低下”.2020年10月18日.https://www.cancerit.jp/67194.html,(参照2021年03月29日).
スウェーデンの150万人以上の女児および女性を11年追跡した調査で、30歳までの子宮頸がんリスクは、4価HPVワクチンであるガーダシル®を接種した女性では、ワクチンを接種していない女性と比較して63%低い、即ち、ガーダシル®は浸潤性子宮頸がんリスクを大幅に低下させることが確認された。
実をいうと、私はこの記事を翻訳したかった(泣)。

 “検診とワクチン接種の標準化により子宮頸がん発生率は低下するも、他のHPV関連がんは上昇”.2021年06月04日.https://www.cancerit.jp/69252.html,(参照2021年06月04日).
2001~2017年までの米国がん統計プログラム由来657,317人のデータから、女性において、検診およびHPVワクチン接種に関する明確なガイドラインがある子宮頸がんの発生率は過去17年間で毎年1%低下したことが分かった、一方、検診が標準化されていないHPV関連がん、なかでも中咽頭がん、肛門がんおよび直腸扁平上皮がんの発生率は、同期間に増大しており、リスクのある特定グループでは5年以内に子宮頸がんの発生率を上回ると予測されている。

現在でも、HPV、特にHPVワクチンに関する多くの誤った情報、特に左右のイデオロギー集団、マクロビオティック団体、および、精神世界信者(要は毒電波)による流言がソーシャルメディア上に存在する。

私はこうした状況に憤慨している。そして、こうした流言に惑わされる人を1人でも減らすため、かつ、1人でも多くの人が正確な知識を得るよう促すために、筆者はJAMTの一翻訳ボランティアとしてHPVワクチン関連記事を翻訳し、紹介している。

上記の拙翻訳がHPVおよびHPVワクチンに関する正確な知識の普及・啓発に役立てるのならありがたい。

話は変わるが、上記の経緯から、HPV、HPV感染症(特に子宮頸がん)、ならびに、HPVワクチンに関する正確な情報を提供する文献・サイトも以下に紹介する。

1.HPV、HPV感染症、および、HPVワクチンの総説
 一般社団法人 HPVについての情報を広く発信する会.“みんパピ!みんなで知ろうHPV(ヒトパピローマウイルス)プロジェクト ホームページ”.https://minpapi.jp/,(参照2021年03月29日).
「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」はHPV感染症の予防方法について学んでいく仕組みを作ることを目指している。

 MSD株式会社.“子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp トップページ”.http://www.shikyukeigan-yobo.jp/,(参照2021年03月29日).
子宮頸がんに関連する知識がQ&A形式で、簡潔に記載している。

 厚生労働省.“ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.健康.感染症・予防接種情報.予防接種情報.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html,(参照2021年03月29日).
一般の方向けの情報、HPVワクチンに関する相談先一覧、医療機関・自治体向けの情報、および、関連情報などが記載されている。

 ジャパンワクチン株式会社.グラクソ・スミスクライン株式会社.“allwomen.jp すべての女性に知ってほしい 子宮頸がん情報サイト”.http://www.allwomen.jp/index.html,(参照2020年03月29日).
子宮頸がんに関連する知識が簡潔に記載されている。

 薗部友良 監修.NPO法人 VPDを知って、子どもを守ろうの会 編.“ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど)”.0歳からのワクチン接種ガイド:ワクチンで防げる子どもの病気.初版第1刷,株式会社日経メディカル開発,2014年08月22日,p.52-53.
HPV感染症やHPVワクチンに関して、簡潔に記載している。

 田中 正利 編.“各論 VI.尖圭コンジローマ”.性感染症 STD.第2版第1刷,株式会社南山堂,2008年04月22日,p.209-227.
尖圭コンジローマに関して、詳細に記載している。

 公益社団法人 日本産婦人科医会.“子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために”.日本産婦人科医会ホームページ.公開情報.2021年01月08日.http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4,(参照2021年03月29日).
子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識、子宮頸がん検診の最新の知識、および、浸潤子宮頸がんの減少効果や9価HPVワクチンに関する情報を紹介している。
名古屋市で行われたアンケート調査では、24種類の「多様な症状」の頻度がHPVワクチンを接種した女子と接種しなかった女子で有意な差がなかったことが示された。HPVワクチン接種と24症状の因果関係は証明されなかった。
これまでに行われたHPVワクチンに関する多くの臨床研究を統合解析したコクランレビューによると、HPVワクチン接種によって短期的な局所反応(接種部位の反応)は増加するものの、全身的な事象や重篤な副反応は増加しない。
世界保健機関(WHO)による世界中の最新データも継続的評価においても、HPVワクチンの推奨を変更しなければならないような安全性の問題は見つかっていない。
2020年にスウェーデンから世界で初めて国家規模で浸潤子宮頸がんの減少効果を示す論文によると、スウェーデンの10~30 歳の女児・女性において、4価HPVワクチン接種は、国レベルでの大幅な浸潤性子宮頸がんのリスク減少と関連した。

 林謙治 監修.佐藤武幸 著.家坂清子 著.三石 剛 著.HPV感染と予防対策:子宮頸がんと皮膚病およびHPVワクチンの効果.初版第1刷,株式会社 少年写真新聞社,2011年02月20日,74p,(写真を見ながら学べるビジュアル版 新・健康教育シリーズ).
HPV、HPVワクチン、ならびに、子宮頸がんや尖圭コンジローマなどのHPV関連疾患に関して、簡潔かつ詳細に記載している。また、学校教育でのHPV感染予防教育、具体的には、子供たちに対する正確な情報提供、子供たちが健康に成長する権利、教育分野に求められる健康教育の必要性、および、初交年齢の引き上げに関しても言及している(p.7-16)。

 クリフォード・ピックオーバー著,板谷史 翻訳,樺信介 翻訳.“HeLa細胞”.ビジュアル 医学全史:魔術師からロボット手術まで.第1刷,株式会社 岩波書店,2020年01月24日,p. 186(図02).
HeLa の名前は子宮頸がんで亡くなった米国バージニア州の黒人女性 Henrietta Lacks(ヘンリエッタ・ラックス)(1920-1951)に由来する。
1951年にGeorge Otto Gey (ジョージ・オットー・ゲイ) (1899 -1970)により分離され、細胞株として確立された。
ヒトパピローマウイルス18型(HPV18)の遺伝子を含み、いくつかの染色体の数は正常より多い。

03.HeLa細胞 200倍

図02.HeLa細胞 200倍。
2019年11月23日撮影。

 NPO法人 VPDを知って、子どもを守ろうの会.“ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど)”.「VPDを知って、子どもを守ろう。」 ホームページ.子どものVPD.https://www.know-vpd.jp/vpdlist/hpv.htm,(参照2021年03月29日).
HPV感染症やHPVワクチンに関して、簡潔に記載している。

2.HPV感染症、主に子宮頸がん
 宇津木久仁子 著.子宮がん・卵巣がんの治療法と術後の暮らし方:専門医と534人の体験者が伝える.第1刷,イカロス出版株式会社,2008年12月30日,240 p.
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの患者にとって、治療、特に外科手術後の生活こそが「本番」であることを思い知らされた。
通常、外科手術前の患者は「術後のこと」まで頭が回らない。また、医師はこうしたがんの治療に手一杯で、患者の生活の質の向上を軽視しがちである。
患者にとっては、術後の排便・排尿、ならびに、性的活動が大事である。
外科手術は患者の性的活動を低下させる。また、この種の問題は非常に繊細な問題である。

 小田瑞恵 著.子宮頸がん.初版,株式会社 主婦の友社,2014年05月20日,128 p,(よくわかる最新医学).
子宮頸がんの基礎知識、検査から診断までの流れ、治療、ならびに、術後の生活と注意点を分かりやすく記載している。

 加藤友康 監修.最新 子宮がん・卵巣がん治療:“納得して自分で決める”ための完全ガイド.第1刷.株式会社 主婦と生活社,2018年03月05日,159 p,(「あなたが選ぶ治療法」シリーズ).
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの基礎知識、検査法、治療法、術後の生活、および、再発・転移時の治療・緩和ケアを分かりやすく記載している。
また、セカンド・オピニオン、家族や職場への伝え方、および、精神腫瘍学に関しても言及している。

 加藤友康 監修.手術以後のすごし方 子宮がん・卵巣がん そのあとに….初版.株式会社 保健同人社,2015年06月30日,160 p.
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの患者にとって、外科手術後の生活こそが「本番」であることを思い知らされた。また、生存のためとはいえ、子宮や卵巣を失うことは、女性にとって、重大な意味を持つことも思い知らされた。
上記の状態に陥った人を救うものは、家族などの周囲の人とのコミュニケーションであることを痛感する。
心療内科や精神科でのカウンセリングもがん治療においては重要である。
がんの外科手術を受けた人にとって重要なことは、外科手術前の日常に戻ることではなく、その後の「新たな日常」を受け入れることである。
リンパ節切除後のセルフケア(p.101-134)は目に通す方がよい。

 金尾祐之 著,竹島信宏 著.がん研有明病院 婦人科 最新治療ガイド:子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がんと診断されたあなたへ.第1刷.株式会社 新興医学出版社,2020年07月31日,116 p.
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの基礎知識、検査法、および、治療法を簡潔に記載している。また、膣がん、外陰がん、および、子宮肉腫に関しても記載している。
がん研有明病院における早期子宮頸がんに対する腹腔鏡手術と開腹手術の治療成績、および、がん研有明病院で使用されている子宮頸がん、子宮体がん、または、卵巣がんに対する抗がん剤も記載している。
HPVワクチン、免疫チェックポイント阻害薬、遺伝性卵巣がん、および、ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬に関しても記載している。

 瀧澤憲 著.「子宮がん」と言われたら…:お医者さんの話がよくわかるから安心できる.初版,株式会社 保健同人社,2013年02月20日,128 p.
子宮頸がんと子宮体がんの基礎知識、検査・診断、および、治療法を記載している。

 竹島信宏 監修,的田眞紀 著,加藤一喜 著,馬屋原健司 著.新 こちら「がん研有明相談室」子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん患者さんへのドクターズアドバイス.第1版.株式会社 新興医学出版社,2019年11月15日,152 p.
Q&A形式で、子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの診断・検査、治療、ならびに、再発・転移時の治療などを記載している。
がん研有明病院で実施されている治療法などを紹介し、かつ、専門用語の意味を分かりやすく解説している。
子宮頸部円錐切除術には、術中・術後出血、術後の痛み、感染、頸管狭窄、ならびに、早産のリスクが伴う(p.23)こと、および、子宮体がんはタイプ1、2に分類される(p.62-63)は覚える方がよい。
「Room1 子宮頸がん相談室」(p.14-56)を読むと、HPVワクチン接種の重要性を痛感する。

 認定NPO法人 キャンサーネットジャパン.“ティール&ホワイトリボン ホームページ”.http://www.sikyukeigan.net/,(参照2021年03月29日).
子宮頸がんの予防・検診・治療に対する正しい知識を伝えることを使命とする。
なお、ティールアンドホワイトリボン(teal and white Ribbon)は、子宮頸がん啓発活動のシンボルである(図03)。

ティール&ホワイトリボン

図03.ティール&ホワイトリボン。
2021年03月23日撮影。

 株式会社 日経BP.“BMJ誌から CINに対する治療で妊娠時のリスクが変わる 円錐切除が深いほど早産や低出生時体重のリスク増加”.日経メディカル Online ホームページ.医師TOP.特設サイト.海外論文ピックアップ.海外論文ピックアップ BMJ誌より.2016年08月25日.https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/bmj/201608/547981.html,(参照2023年03月29日).
CINに対する治療法によって、早産やその他のリスクが上昇するだけでなく、子が低出生体重児となるリスクや周産期死亡にいたるリスクの上昇も関係していた。
CINに対する治療は、早期産のリスクを有意に上昇させていた。
治療は、早期産のリスクを有意に上昇させていた。
適用された治療法も早産リスクに有意に関係していた。
治療無し群と比較した早期産リスクは、複数回の治療を受けた女性で高かった。
円錐切除の深さも早産リスクと有意な関係を示した。
自然早産、早期破水、絨毛膜羊膜、低出生体重、新生児ICU入院、および、周産期死亡は、治療歴のある女性に有意に多かった。
低出生体重リスクは、コールド・ナイフ円錐切除では2.51(1.78-3.53)、ループ式電気切除は2.11(1.51-2.94)、あらゆるアブレーションでは1.36(1.19-1.55)、および、レーザー・アブレーションでは1.07(0.59-1.92)だった。
これらの結果から、CINと診断された女性は、ベースラインの早産リスクが高いが、治療によって早産リスクはさらに上昇する、また、妊娠の転帰不良のリスクは、円錐切除の深さが増すとともに上昇しており、アブレーションに比べ切除のほうが高リスクだったことが分かった。

 藤原恵一 監修,廣田彰男 監修.イラストでわかる 子宮がん・卵巣がん:副作用・後遺症への対処と、退院後を支援する.第1刷,株式会社 法研,2013年09月25日,159 p,(手術後・退院後の安心シリーズ).
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの基礎知識、治療法、治療による副作用と退院後の後遺症への対処の仕方、リンパ浮腫の予防・対処、心の悩みを軽くする方法(例.正確な知識を学ぶ)、ならびに、日常生活を楽しく充実させる方法(例.良質な睡眠を得る、趣味を充実させる、子宮や卵巣がなくても問題の無い性生活を送る)を記載している。また、公的支援制度や傷病手当金の利用も記載している。

3.HPVワクチンの安全性

 MSD株式会社.“日本のHPVワクチン安全性報告”. MSD Connect ホームページ.製品情報.ガーダシル®/シルガード®9.https://www.msdconnect.jp/products/gardasil-silgard9/hpvv_safty.xhtml,(参照2021年03月29日).
厚生労働省は、HPVワクチンの積極的な接種勧奨の一時差し控え後、研究班を立ち上げ、全国疫学調査を実施した。その結果、HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」が一定数存在したことが報告された。これらの結果により、HPVワクチン接種と接種後に生じた症状との因果関係は言及できないという結論が出た。
一方、名古屋スタディにおいて、名古屋市は、HPVワクチン接種に関する被害者団体の要請を受け、独自に大規模な疫学調査を実施した。この調査では、2015年8月12日時点で名古屋市に住民票のある、1994年4月2日〜2001年4月1日生まれの女性71,177人を対象として、接種の有無による24項目の「多様な症状」の割合を比較した。年齢調整された分析で、HPVワクチン接種と24項目の「多様な症状」との間に有意な関連性は見出されなかった。いくつかの症状による病院受診の増加が見られたがが、生物学的関連性に起因するものとは考えにくいと結論づけられた。

 厚生労働省.“HPVワクチンQ&A”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.健康.感染症・予防接種情報.予防接種情報.ヒトパピローマウイルス感染症(HPVワクチン).https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/qa_shikyukeigan_vaccine.html,(参照2021年03月29日).
子宮頸がん、子宮頸がん検診、HPVワクチン、および、その積極的な勧奨の差し控えについて、Q&A形式で記載している。
上記の件に疑問がある人は、最初にこのページに目を通すことをお勧めする。

 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会.“HPVワクチンについて”.日本婦人科腫瘍学会 ホームページ.市民の皆さま.https://jsgo.or.jp/public/hpv_vaccine.html,(参照2021年03月29日).
HPVワクチンの日本における接種状況、有効性、および、安全性に関して、簡潔に記載している。

 一般社団法人 ピーキャフ・PCAF.“HPVワクチンの安全性についてのQ&A”.生命のゆりかごを守る運動「シャイン・キャンペーン」 トップページ.https://www.pcaf.jp/vaccine02.html,(参照2021年03月29日).
HPVワクチンの安全性に関して、Q&A形式で簡潔かつ詳しく記載している。

執筆後期
2021年02月24日、シルガード®9が発売された。これを契機に、ノンプロ翻訳者としてのHPVに関連する拙翻訳記事という実績を示すだけでなく、有益な関連文献・記事を紹介することで、人様の役に立つことも一興かと考えて、本記事を執筆した。
そして、ようやく04月02日に本記事を掲載できた。いやー、長かった。
本記事が読者の皆様のお役に立つのなら、有難い。

参考文献
1 MSD株式会社.“9価HPVワクチン「シルガード®9水性懸濁筋注シリンジ」の製造販売承認を取得”.MSDホームページ.ニュースルーム.ニュースリリース.アーカイブ.2020年.2020年07月21日.https://www.msd.co.jp/newsroom/msd-archive/2020/product_news_0721_2.xhtml,(参照2021年03月29日).
2 MSD株式会社.“9価HPVワクチン「シルガード®9水性懸濁筋注シリンジ」新発売のお知らせ”.MSDホームページ.ニュースルーム.ニュースリリース.ニュース2021年.2021年02月24日.https://www.msd.co.jp/newsroom/msd-archive/2021/product_news_0224.xhtml,(参照2021年03月29日).
3 MSD株式会社.“4価HPVワクチン「ガーダシル®水性懸濁筋注シリンジ」男性への接種対象拡大と肛門がんの予防適応の追加を取得”.MSDホームページ.ニュースルーム.ニュースリリース.アーカイブ.2020年.2020年12月25日.https://www.msd.co.jp/newsroom/msd-archive/2020/product_news_1225.xhtml,(参照2021年03月29日).
4 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“一般社団法人日本癌医療翻訳アソシエイツ トップページ”.http://jamt-cancer.org/,(参照2021年03月29日).
5 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“海外がん医療情報リファレンス トップページ”.http://www.cancerit.jp/,(参照2021年03月29日).
6 たけっち.“HPVが引き起こすがんの推計92%はワクチンにより予防可能 https://cancerit.jp/63378.html 久々の拙翻訳です。#HPVワクチン の啓発のために、一肌脱ぎましたわ。実を言いますと、この翻訳は私が頼み込んで行ったものです。”.たけっち twitter.2019年09月04日.https://twitter.com/take_judge/status/1168974332560891907,(参照2021年03月29日).
7 国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センター.“中咽頭がん(ちゅういんとうがん) 療養”.国立がん研究センター がん情報サービス ホームページ.それぞれのがんの解説.2018年11月29日.https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/follow_up.html,(参照2021年03月29日).
8 国立研究開発法人 国立がん研究センター.“科学的根拠に基づくわが国の子宮頸がん検診を提言する「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」更新版公開”.国立がん研究センター トップページ.広報活動.プレスリリース.2020年07月29日.https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0729/index.html,(参照2021年03月29日).
9 日本コンベンションサービス(JCS)株式会社.“4年に一度開催される「健康未来EXPO 2019」は、大盛況の中でフィナーレを迎えました”.JCS トップページ.ニュース.イベント&講演.2019年05月16日.https://www.convention.co.jp/news/detail/contents_type=15&id=541,(参照2021年03月29日).

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