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心の中にいる鬼を退治しよう

保育園の頃
「みんなの心の中にいる鬼を退治するんだよ」
そう言いながら、先生が各々折り紙で作った小箱に豆をいれてもらわなかったか。
「豆を撒いたら、歳の数だけ豆を食べるんだよ」って。

僕は今でも覚えている。
そして
僕は節分の日、豆まきをすることに躊躇している、ずっとだ。

父と母が共働きだった事で、僕は小さい頃から保育園に行っていた。
あまり健康でなかった僕は、外遊びを活発にするわけでもなく絵本を見たり、絵を描いたりするのが好きな子だったらしい。
とても素直で、言うことをよく聞く手のかからない子だったと母が言う。
「担任の百合先生にとっても可愛がってもらってたのよ〜」と母が言う。

保育園は僕のような保護者が忙しい子どもを預かっているため、春夏秋冬の行事をしてくれる、春にはひな祭りやお花見、夏にはプール遊び、秋には落ち葉拾い、冬には雪遊びやかるたなど、その行事には必ず歌があって、歌いながらまたはカセットテープをかけながら行事を楽しむのだ。

僕が年長組の節分の行事。
すみれ組には鬼に扮した園長先生が来て、「がおー悪い子はどこじゃ、悪い子は食べてしまうぞ」と言うのだが背の高いすらっとした体型と男にしては優しい声なので園長先生だと分かるのだから僕は怖くなかったが、何人もの子どもは大泣きをしていた。
「悪い鬼を退治するのよ、みんなで鬼はー外って」
先生の号令で鬼を退治した、他の子は気づいてなかったかもしれないが、、、
僕は担任の百合先生の豆の撒き方があまりに強いので、子どもながらちょっと引いた。
鬼は先生の方じゃないか、そう思うほど激しいものだった。

20年の月日が経った。
僕はテレビの画面を見て凍りついた。
安井百合容疑者(50)
殺人事件のニュースに、まさに鬼の形相の女。
不倫の末の殺人で連行される姿は、ガリガリに痩せて化粧が濃い頭の上には二本のツノが(僕には)見えた。
殺されたのは、、、、、僕の行っていた幼稚園の園長先生(72)。

容疑者の当時僕の担任だった先生は不倫をしている園長先生の心の鬼を退治していたのだろうか。
心の中にいる鬼を退治された園長先生は、生気を抜き取られ、それを行った百合容疑者は愛欲の鬼になってしまった。

豆を撒く事に躊躇していた謎が解けたような気がした。
恵方巻きを口にしたまま僕は黙って、小さい頃の鬼と鬼と対決をずっと見ていた恐怖に震えがとまらなかった。

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