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キックの上手い/下手を分けるポイント。体のひねりの使い方とその練習法。

今回の記事は、キックにおける体のひねりの使い方について解説していきます。

タイトルにある、「体のひねりがキックの上手い/下手を分ける」というのはこの記事内で紹介する論文でも言及されており、ひねりをうまく使うことの重要性は高いと言えます。

体のひねりと言うと、大きく開いた腕を斜め下に振り下ろすようにして折りたたむようなフォームをイメージされる方が多いかと思います。

このような腕の動きに伴う体のひねりは一つの重要な要素でありますが、実は腕を振り下ろす前の準備として腕を開きにいく動作にも蹴り足を加速させるためのポイントがあります。

この記事では力学的な観点からこのような体のひねりが蹴り足の加速に繋がるメカニズムを解説していきます。

また、記事の後半ではひねりをうまく活用している選手である西川周作とエデルソンのキックを1シーンずつ見ていき、そのような動作を習得するための練習法も紹介します。


ひねり=水平面上での回転運動

最初にそもそもひねりとは何かを定義しておきます。

一言で言うとひねりとは水平面上での(垂直軸まわりの)回転運動のことです。

(高津整体院HPより)

キック動作は蹴り出し方向に対してまっすぐに蹴り足を振るだけでなく真上から見た時に(=水平面上で)下図のような回転運動を伴いますが、この回転運動を加速するための工夫が体のひねりであると言うことができます。

(Kicking labマガジン内の過去記事より)

広げた腕を折りたたむような動作は水平面上での上半身の回転運動を生み出しますが、その回転方向は上図のような蹴り足の回転方向とは逆向きであることには注意が必要です。この上半身の逆向きの回転運動が蹴り足の回転運動を生み出すメカニズムは後ほど説明します。

理論:回転の生み出し方は2種類

蹴り足の水平面上での回転運動を生み出すメカニズムは、その動力源をもとに大きく二つに分けることができます。

一つは外力(=身体の外部から得られる力)を主に用いるもので、もう一つは内力(=身体の内部で相互に及ぼしあう力)を主に用いるものです。

先ほども触れた回転方向での分類で言うと、外力による回転運動は蹴り足の運動方向と一致する方向であるのに対して、内力による回転運動は蹴り足の運動方向と逆向きになります。

1. 外力(地面反力)の利用

まず、外力を主な動力源とする回転運動についてです。

ここで言う外力とは地面を押すことで得られる地面反力のことで、蹴り足の回転運動と同方向に全身を回転させる向きの運動を生み出します。

イメージとしては、フィギュアスケートのような回転ジャンプのようなイメージです。

回転ジャンプでは回転したい方向に腕を振り上げるようにして上半身を先行させることで、ジャンプ動作を通じて地面から得られる力が体の回転を生み出す方向へ作用するように調節しています。

この腕の動きによる回転を生み出す様子は以下の動画で見ても確認できると思います。

特に以下の3コマを見ると、腕の動きとそれに伴う上半身の先行動作によって回転方向の運動が生み出されていることが分かりやすいかと思います。

このように地面に力を加えるタイミングで上半身を先行して回転させることで、回転運動を生み出す現象はキック動作においても見られます。

具体的には、蹴り足→軸足へと大きめの歩幅でジャンプするようにする最後の一歩を出す際に、蹴り足が接地している間に腕を蹴り出し方向に開きに行く動きはこのような回転を生み出すための動作です。

細かい解説は後に回すとして、該当するシーンを画像にて抜き出すと以下の通りです。

蹴る一個前の蹴り足が接地する前の時点ではまだ腕は開いておらず体の向きも画像上で右側を向いていますが、蹴り足が離地する時点では右腕を大きく開き上半身の向きもこちら側へ向いてきていることが分かります。

このような腕を開く動作は、この後説明する腕を折りたたむようにしてひねりを生み出す動作の準備として捉えられがちですが、実はこの動作自体が全身の回転運動を生み出すことに繋がっており、かなり重要度の高い動作であると言えます。

2. 内力(角運動量保存則)の利用

上記の地面から得られる外力を利用した回転運動に対して、外部からの力ではなく主に身体内部で相互に作用する力を用いて回転運動を生み出す方法もあります。

これがおそらく多くの人が体のひねりと言われてイメージする、開いた腕を折りたたむような動きです。この動きは軸足が地面についてから蹴り足を振り切るタイミングに合わせて出すので、時系列で見ると先ほど挙げた腕を開きにいく動作の後に来ることになります。

また、すでに述べた通りこの腕を折りたたむようにして生み出される上半身の回転運動の方向は、蹴り足に生み出したい回転運動の方向とは逆向きになります。

このような逆向きの運動による加速が成り立つのは角運動量保存則によって説明できます。

そもそも角運動量というのは回転半径×回転速度によって表される量で、イメージとしては回転運動の勢いを表す値になります。

そして、角運動量保存則というのは外部から回転を増幅、もしくは減衰させる力を受けない限りはその物体の回転の勢いは変わらないという法則になります。

これを人の体に適用して考えてみましょう。

1つ目のポイントとしても挙げたように人の体は基本的に地面からの力を受けて運動を生み出すので、地面からの力を受けない状態、例えばまっすぐ真上にジャンプして空中にいる状態を考えてみます。

この状態で上半身を右方向にひねったとすると、ジャンプをした時点での全身の回転の勢い(=角運動量)は0で外力による角運動量の変化も生じないので、上半身をひねった後でも全身の角運動量は0に保たれることになります。

この時、上半身が右側に回った分、その回転の勢いを打ち消すように下半身の左側への回転が生じます。角運動量には方向性があり、逆向き同じ勢いの回転は合計で見ると0であると解釈できるので、このように上半身の動きによって下半身の逆向きの運動が誘発されることになります。

これが角運動量保存則の概要であり、これによって腕を折りたたむような上半身の動きによる蹴り足の回転方向への加速が実現されています。

実践:エデルソンと西川周作

ここまでで上半身の動きによって回転運動を生み出して蹴り足の加速に繋げるメカニズムは理解できたかと思います。

続いては、ひねりの使い手とも言えるエデルソンと西川周作のキックを1シーンずつ取り上げ、実際のキックでどのように上記の理論的な部分が生かされているかを見ていきます。

・腕を開く準備とタイミング


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