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ロングキックの正解は低く伸びるボール?高く上がるボール?

今回はロングキックについての質問で聞かれることが多いトピックである、そもそもロングキックを蹴る上でどのような弾道のボールを目指すべきかについてです。

選手、指導者の方々と話していると、低く打ち出されて伸び上がっていくようなボールが理想であると考えている方が多い印象があります。究極の理想は以下の動画のようなボールかと思います。

これを理想のイメージして蹴ったところでなかなかその通りにはならない場合がほとんどかと思います。なんならみなさんがイメージしているこのようなボールを蹴れる選手はプロレベルでも実はそう多くありません。

今回の記事では、実際に試合で見られるロングボールをタイプ分けしてそれぞれの蹴り方のメリットはなんなのか、そしてすでに挙げたエデルソンのようなボールを蹴るのはなぜ難しく何が必要なのかを詳しく解説していきます。

すでに1シーン掲載しましたが、今回題材としているのはプレミアリーグ公式が出しているGKによるアシスト集という少し変わったテーマの動画になります。特に昔のGKはぼこぼこロングボールを蹴っていて面白いのでぜひ見てみてください。


ロングキック2種類

ロングキックと言っても飛距離によって蹴り方は当然異なるべきなので、ここでは65m以上ほどのかなり長距離のキックを対象に考えます。

試合中に見られるこの距離のキックの弾道は大まかに分けて2つです。まずはそれぞれのパターンに対応する実際のシーンを挙げておきます。

1. 高く蹴り上げるパターン

まずは、高く蹴り上げるパターンです。

詳しくは後述しますが、ボールが空中を飛んで行く時、基本的には放物線軌道を取ります。放物線軌道においてボールの到達距離が最大になるのは空気抵抗がない場合45°、空気抵抗がある場合30~35°程度と言われています。

この高く蹴り上げるような蹴り方はこの放物線軌道における到達距離の最大化を目的としていると言えます。到達距離を最大化するためには滞空時間を伸ばしつつ前方向への速度も確保するというバランスが必要であり、そのバランスが取れるのが上記の角度という訳です。イメージは野球のホームランのような感じでしょうか。

2. 低く伸び上がるパターン

一方で、冒頭に挙げたエデルソンのキックのような低く伸び上がるようなボールを蹴り出すパターンもあります。

この弾道のボールは進行方向が水平方向に向いており滞空時間は短くなるので距離を稼ぐのは難しくなります。一方で、それは言い換えると蹴り出してからボールが到達するまでの時間が短くなるということでもあります。特に以下に挙げる2つのシーンのようにDFの裏を一気に取りにいくシーンでは有効になります。

特にエデルソンのシーンで顕著ですが、ボールが伸び上がってくるように見えるのはバックスピンの影響です。バックスピンによりボールは浮き上がるような向きの力を受け、それは本来放物線のようになるはずのボールの軌道を上方向に押し上げるのでなかなかボールが落ちて来ないように見えます。

最高到達点、到達時間の比較

では、実際のキックの映像を用いて2つのパターンのキックを比較してみましょう。すでにまとめたように2つのパターンは、ボールの高さが最も視覚的に分かりやすい違いで、それに伴うボールの到達時間の違いが生じるはずなので、その2点について検証します。

まず最高到達点についてですが動画を見ると一目瞭然で、高く蹴り上げるパターンの場合はいずれのシーンでもピッチ横からの画角の映像においてボールが大きく上方向に切れていっているのに比べて低く伸びるパターンの場合は画角にきっちり収まっており、明確な差があると言えます。

続いて、到達時間についてです。厳密には飛距離が微妙に違う+僕の大雑把な手計測なので確実な比較はできないですが、大まかな傾向として捉えて頂ければと思います。

一応の計測結果は、高く蹴り上げるパターンの2シーンがいずれも3.9s、低く伸び上がるパターンの2シーンがそれぞれ3.2s、3.3sとなりました。

0.7sほどの差がどれほどの意味を持つかは数字だけで言うとよく分からないですが、後者のボールが到達した時点でまだ前者のボールは80%しか到達していないことになると言うと少しその差が分かりやすいかもしれません。

このように最高到達点、到達時間ともに大きな差が生じているので、この2つの蹴り方は明確に違う蹴り方として認識されるべきだと考えています。

では、ここからはこの2つの異なるキックを蹴り分けるために必要なことを考えていきます。まずはそれぞれのキックに求められる球速、打ち出し角度などの力学的な初期条件を考えます。

理論編:最高到達点を半分にするには+〇〇km/hが必要?

ここではボールの進行方向逆向きにかかる空気抵抗のみを考え、回転による軌道の変化は無視して考えます。

例えば、球速を一定(100km/h)として打ち出し角度を変化させる場合を考えると到達距離が最大になるのは35°付近になります。この時の最高到達点は約10m、到達距離は約51m、到達時間は2.96sです。これがここで言う高く上げるパターンに対応しています。

一方で、球速を一定(100km/h)のまま低いボール、例えば最高到達点が半分にさせる場合を考えると、到達時間は2.06sと短くできるものの、到達距離は43mほどにまで落ちてしまいます。

では、最高到達点を半分にしつつ到達距離を変えないようにするために必要な球速はどれほどでしょうか?


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