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クリスティアーノ・ロナウドに学ぶキックにおける腕の使い方。体の捻りを生み出し蹴り足を加速する。

今回は、良いキックの条件として語られることも多い、腕の使い方についてクリスティアーノ・ロナウドのシュートを題材にして書いていきます。

実際にクリスティアーノ・ロナウドのシュートシーンでの特に軸足が地面につく瞬間の腕の位置を見てみると、以下の写真のように腕を大きく広げていることが分かります。

今回の記事では、この腕を大きく広げる動きがなぜ蹴り足の加速に繋がるのかを詳しく解説していきます。


Q. なぜ腕を大きく広げるのか?

腕を広げて使った方が良いというのはよく聞く話ですが、その理由として挙げられるのは全身を大きく使う、上半身と下半身を連動させるといったが挙げられることが多いです。

このような一般に挙げられることの多いポイントを力学的に解釈すると、腕を広げた状態から折り畳むようにして上半身を捻ることによって、逆方向の下半身の回転を生み出すということです。

実際にクリスティアーノ・ロナウドのキック(右足)でこの使い方を見ると、以下のように腕を広げたところから真上から見て時計回りに回すように動かすことで、下半身(=骨盤)の反時計回りの回転を生み出しています。(これ以降のyoutube動画は該当シーンが先頭に来るように掲載してあります)

このような真上から見た回転運動(水平面上での回転運動)はキックにおける重要な動力源になりますが、実は軸足を接地するまでの間にこの回転運動を生み出すことがより重要な要素になります。

つまり、キックにおける腕の使い方としては、先述の通り大きく広げた状態から折り畳む動きが注目されがちですが、実際にはその前の腕を大きく広げるまでの動きも蹴り足の加速において重要な役割を担っているということです。

これについてこの後詳しく解説していきますが、いずれにせよ腕の動きは真上から見た際の回転運動に関わっており、キックにおいて腕が果たす主な役割は回転運動を生み出すことであると言えます。

A. 全身の回転運動を生み出すため


回転運動を生み出す方法

では、キック動作での回転運動を生み出す方法を見ていきます。

その方法は大きく分けて3つありますが、すべてがキックの動力源として活用できるものであって、どれが優れているという訳ではなく状況に応じて組み合わせたり使い分けたりすることが必要です。

そして、適切な組み合わせ、使い分けを考えるために以下に示すそれぞれの動力源のメカニズムを抑えておくべきです。

1. 上半身の逆方向への捻り(角運動量保存則)

まず一つ目は、すでに述べた腕を広げた状態から折り畳む動きによるものです。これは力学的に言うと、角運動量保存則を利用する方法です。

角運動量保存則とは、ざっくり言うとある物体の回転の勢いの総量は外から回転方向への力を加えない限り一定であるという法則です。

この法則を人の体に適用して考えてみましょう。簡単に人の体は上半身と下半身の二つに分けられるとして、最初全身に回転運動は生じていないとします。この時、上半身を反時計回りに回すと全身の回転運動の総量が反時計回りに増加してしまうことになるので、実際にはそれを打ち消すように下半身に反対方向(時計回り)の回転運動が生じます。

これは、座面が回転する椅子で遊んでみると分かりやすくて、椅子に座った状態で地面に足をつかずに上半身を右に回すと、座面は反対方向の左側に回ってしまいます。そしてそこから上半身を最初の位置に戻すと座面も最初の位置にまっすぐ戻ってきます。これは、上半身の回転を出した分、下半身の回転が逆方向に生じることによって起こる現象です。

座面を回転させていくためには外から力を加える、つまり地面を足で蹴って地面からの反力をもらう必要があり、この後2つ紹介する方法は地面反力を回転方向の運動に変換する方法になります。

1つ目として紹介している上半身の捻りによる下半身の回転の誘導ももちろん重要な要素ですが、地面反力の活用はよりパワフルなキックを蹴る上で重要になります。

2. 軸足でのブレーキ(慣性の法則)

地面反力を利用して回転運動を生み出す方法は、軸足で受ける地面反力を利用するものとその一歩前の蹴り足で受ける地面反力を利用するものの2種類があります。

軸足で地面反力を受ける方法では、軸足で体にブレーキをかけることによって蹴り脚が蹴り出し方向に投げ出されるような骨盤の回転を引き起こします。

これは、電車や車でブレーキがかかった際に体が前に投げ出されるように感じる現象が代表例として挙げられることの多い、慣性の法則を利用した方法と言えます。

この骨盤の回転を利用すると蹴り足の描く軌道は下図のように真上から見た時に円軌道のようになります。

(下記のデ・ブライネに関する記事より)

よって、例えば以下のシーンのように助走をつけている方向に対して垂直な方向へ角度をつけて強いボールを蹴りたい場合、軸足をボールよりも手前に置いた上で進行方向を向いたまま軸足でのブレーキを掛けそのまま足を振り抜けば理想とする軌道を実現することが可能になります。

この辺りはデ・ブライネのクロスを題材に書いた記事があるので、まだお読みでない方はぜひご覧ください。

このような骨盤の回転をメインに利用するキックの場合、体の向きを変える必要がないので、体の向きによって相手にコースがバレづらいといったメリットが考えられますが、3つ目として紹介する以下の動力源を利用できないためにパワーの最大化は難しいというデメリットがあります。

実際にミドルシュートなど大きなパワーが求められる場面ではデ・ブライネも後ほど説明する蹴り足で受ける地面反力によって体の向きを変えるような動力源を強く利用しており、使い分けが重要であることは間違いありません。

3. 蹴り足→軸足の一歩で回転方向へ出力

最後に、地面反力を軸足の一歩前の蹴り足で受けて体に回転を生む方法についてです。この出力の方法がキック動作で大きなパワーを生み出すためには必須であり、クリスティアーノ・ロナウドのシュートの大きな動力源になっています。

また、シュートに限らず代表的なところで言うとエデルソンのロングキックもこのような出力を非常にうまく活用しています。


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